京都童心の会

ほっこりあそぼ 京都洛西の俳句の会
代表 金澤 ひろあき
俳句 冠句 自由律 詩 エッセイなど同好の人たちと交流

2023年11月 京都童心の会 通信句会結果 前半

2023-12-19 08:11:51 | 俳句
2023年11月 京都童心の会 通信句会結果
【選評】前半
○中野硯池特選
54 日向ぼっこ僕の時間の伸び縮み 金澤ひろあき
 僕という若い?人の日向ぼこである。小春日の晴れた日の日向ぼこは背に暖かく思考の世界に導いてくれるし、又肉体的にも健康にしてくれるものである。太陽の恵みを存分に受けるのも日向ぼこである。
○野谷真治特選
54 日向ぼっこ僕の時間の伸び縮み  金澤ひろあき
 伸び縮みする時間を、どう考えるか。気になった句です。なんか、楽しい。
 たまには、日向ぼっこに、時間を忘れたいと思いました。
○蔭山辰子特選
32 電線にたわわに実る雀かな  青島巡紅
 熊、猪、蝉、野の鳥。人間は物価高。生きとし生くる者みな、つらい夏でした。「たわわに実る」の表現に曳かれました。
○野原加代子特選
82 愛犬の最後の遠吠え十三夜 三村須美子
 7、8年前に小型犬を老衰で亡くしました。私の膝近くに自ら近づいてきて1回だけ遠吠えのように声を出したかと思ったら、その数時間後には息をしなくなり亡くなったのだなあと確認出来たのと同時に、ご苦労さん、お疲れさまでしたと心より思ったものでした。動物とは言えどもお別れの時には涙が溢れだし、こんなに悲しいものなのだとしみじみ感じました。
○岡畠真理子特選
71 やっと来た月と金星秋更けて  蔭山辰子
 この時期の金星ですと「明けの明星」ですね。明け方の東の空に輝きますが、多分月は細いのと思います。この2つの天体を見るために早起きされたのでしょうか?「やっと来た」ということばに東の方角を見て待ち続けている姿が目に浮かぶようです。
○白松いちろう特選
24 通りすがりの金木犀に母想う  岡畠真理子
今年も我が家の金木犀はカオリ高く咲きました。亡くなった母も大好きでした。銀木製もありますが金木犀には適いませんね。
○金澤ひろあき選
特選 天 92 百歳に手の届く歳文化の日 中野硯池
 ご長寿の中の述懐の味。一世紀に及ぼうとする人生、実感するのが文化の日というところに、生きる姿勢が見えているような気がします。
 「文化の日」の一語でケ(日常)ではなく、ハレ(晴れ)の雰囲気を漂わせます。
地 27 人間は国盗り鶴は落穂を拾いをり 暉峻康瑞
 人間の争い、鶴の仲良さの対比でくっきりと。どちらが叡智ある生き物なのでしょう。
人 85 逝きし犬柚子の根元や柚子の黄色 三村須美子
 愛する存在との別れ、そしてその眠る地。詠み心にとめておきたくなります。「柚子」の語の重なりが気になり、「逝きし犬柚子の根元の木の下に」等と変えることも考えました。でも、元句のリフレインも、歌のように聞こえて、良いのかも知れません。
他、気になる句です。
3 死ぬ時わかるか落葉 野谷真治
 この年齢になると、ドキッとする句です。落葉と自分を重ね合わせているような気がします。
8 汚れて返って来た物そうじがイヤだけれどもメシの種 遠藤修司
 生活感情や仕事を歌っている。私も目指しているので共感します。ホント「メシの種」「これも給料の内」等と言いもってやっていますよ。
24 通りすがりの金木犀に母想う 岡畠真理子
 お母さんのお人柄、そしてお母さんへの想いが、「金木犀」の一語でじんわり伝わります。秋の日だまりの中で立ち止まりたい一句です。
73 ノーベンバーまだ夏残り衿に汗 蔭山辰子
 今年の十一月は中旬まで二十五度になる日が続きました。その異常を「衿に汗」で捉えています。今後も温暖化が続くのでしょうか。
40 熱燗と女将の色気に蛸になる  青島巡紅
 「蛸になる」で笑。ユニーク、ユーモア。「色気に」の「に」は要るのかなという意見もありました。
44 銀杏を拾い幼子と炒りて食べ  野原加代子
 今ある生活、時間を大切にされている。そんな姿が思い浮かびます。銀杏拾いというささやかなこと。でもそれが大切な思い出になって行くのです。
○青島巡紅選
特選
58 おもしろがられやがて消えゆくねこじゃらし  金澤ひろあき
 ジョークのような作品だけど言い得て妙。ユーモアとペーソスがある。猫の気を引くための小道具として使われ、用が済めばお払い箱。「ねこじゃらし」は正に使い捨て。猫のために活けられることはない。そしていくらでも言い換えが出来る。芸能人、国会(地方)議員、天才、etc。世に現れては消えていく、一瞬一滴の雨垂れのような存在のリクリエムになっている。
並選
5 没後十一年畑中純展力瘤  野谷真治
生前は漫画家であり版画家でもあった、亡き畑中純氏への作者の想いは、 「力瘤」に要約されています。
13 句作りは生きた証の言霊探し 遠藤修司
 「生きた証の言霊探し」が効いてます。力が及ばないまでも高みを目指して作品を練り上げる姿勢で常にありたいものです。
14 大した事ない魚の話や聞く耳持たぬか生命の話だ国民を見下すな! 遠藤修司
 福島原発のことでしょう。今年8月岸田政権は処理水の放出を決定。中国・ロシアが厳しい批判と日本からの水産物輸入を全面禁止。しかしアメリカを始めとすると多くの国が日本を支持しているからと、地元の反対の声や研究者の声を無視するのは、日本という国に名前ばかりの民主主義しかないからだろうか。悪影響とは蓄積されて起こるものであることを国は堂々と棚に上げている。憤るしかありません。
31 信長忌思う存分やってみる 暉峻康瑞
 織田信長というと自己の信念に基づいて行動したという印象がある。彼のように「思う存分やってみる」という決意がどんな結果をもたらすのだろう。本能寺の変は起こさぬように。
44 銀杏を拾い幼子と炒りて食べ 野原加代子
 銀杏は今ではほとんど見向きもされないものだけれど、この句のように幼子の口に入る機会を与えてくれる存在があるということは幸いなことだと思う。これも伝えられてほしい味の一つである。
59 弟の無実信じ九十の姉の出廷 金澤ひろあき
 袴田事件のこと。弟の無実を信じて生涯をかけて闘い続けて90歳の姉。インタビューに「歳なんかとっていられない」とも答えていた。33歳からその信念をかけず現在にいたる姿は壮絶だ。自分を最後まで信じてくれる姉がいる弟さんも孤独ではなかっただろう。とはいえ、絶望の歳月は決して拭えるものではないだろうが。
63 僕を知る人がまた減る秋の暮 金澤ひろあき
 ある年齢を越えると、身近な人の亡くなる数が増すようになる。人は一人では自分を自分と認識出来ないことはないが、自分以外の人と接することでより一層認識が深まる。そんな人が消えてなくなることは非情であるが「秋の暮れ」であり人生の暮れである。
72 野仏の隣にかかし風に揺れ 蔭山辰子  
 日本人の原風景とも呼べる情景。ノスタルジアがある。いつの時代にタイムスリップしても成立するする。読み手のタイムトラベルを誘う。
79 初鴨や離れて泳ぐ別の鴨  三村須美子
 渡り鳥と留鳥の群れが交わることなく違う場所で泳いでいる景色が詠まれている。
82 愛犬の最後の遠吠え十三夜 三村須美子 
 名犬物語の結末のような作品。死にいく犬にとっては何か意味があった筈の最後の遠吠えは、人間が勝手に解釈するほかないが、大事に飼われて満足に生きられたことに対する感謝の気持ちだったかも知れない。満月に次に美しいとされる夜に吠えたというところが、俳句を趣味とする人のペットらしいと言えるだろう。飼い犬や猫は飼い主のことを意外に理解していると言われるのだから。
86 線香や供物に群がる蟻の群れ 三村須美子
 墓参りは心静かに亡くなった家族と気持ちよく語らいたいものだが、季節が季節だとお邪魔虫が寄ってきて、現実に引き戻される。人間からすれば来なくてもいいものをと思ってしまうが、蟻には蟻の事情があり、如何ともせんことなのだが。家に法要のために来た僧が、両親の葬式に行くことを寺が許さず、その苦しみから腰痛になったと聞いた。喜怒哀楽に左右されない強い精神を目指しての修行とは頭では理解出来ても心では出来なかった、と。集まってきた蟻の群れに感謝の意を表せと言っても無理だろうけれど、仏教の教えではマストの一つになっている。いろいろ思わせてくれる作品。
89 立冬とや上着を脱いで半袖に 三村須美子
 今年の異常気象さを残暑がいかに長かったを思い出させてくれる作品。
92 百歳に手の届く歳文化の日  中野硯池
 百歳まで生きられる人の数はまだまだ少なく、更にご自分の意思で活動出来る方になると至宝のような存在である。生きてこられた時間の重さがそのまま言葉になっている。
94 お香の香コスモスの香も般若寺 中野硯池
 奈良にある秋桜寺として有名なところ。線香と秋桜の二つの香が鼻腔を刺激すると詠っているところがミソとなる作品。視覚では詠えないないものが表現されている。
99 秋空やセンスが光る吟行会  中野硯池
 室内とは違う開放感と一人一人が五感全部を使った吟行後の合評会の様子が伝わってきます。秋空の下は色とりどりですから、作品にもそれが出るのでしょう。