ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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韓国の連座制&遡及法を考える② 韓国内での<パルゲンイ(赤)>狩り

2016-05-30 19:11:07 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 → <韓国の連座制&遡及法を考える① 最近の「親日」論難の事例>

 1つ前の記事(その後の追加・訂正あり)で、韓国内での「親日派」とその子孫の追及が主に政界での反対派に対する攻撃材料として使われている例をあげました。

 ところが、「親日派」批判の声がとくに高まってきたのは軍事政権が倒れて民主化が進んだ1990年代以降のことで、それ以前はもっぱら「反共」が絶大な力を持っていました。反共が「国是」とされ学校でも反共教育がふつうに行われていたために、その威力は現在の「親日」追及よりもずっと強力でした。
 往時の反共教育についての関連記事は→コチラです。そこでも書きましたが、1992年私ヌルボが初めて韓国に行った時たまたま話をした釜山の人が「北韓でもふつうの人々が暮らしているということですよ」と言っていたのは、その少し前までの韓国では、子供ならずとも「北韓」の人間はツノが生えた鬼のようなヤツラと本気で思っていたということだったのでしょう。

 そんな時代(李承晩政権~軍事政権時代)に「パルゲンイ(빨갱이)」は徹底的に排除されました。つまり日本で言うところの「アカ」
 「パルゲンイ」=社会主義者です。しかし38度線の北に自らの意志で行った「越北者(월북자.ウォルブクチャ)」もほぼ同義で用いられるようになってしまいました。その中には李承晩政権を忌避した民族主義者等も含まれているのですが・・・。
 社会主義者や「越北」した人たちの中には、朴泰遠(パク・テウォン)、李泰俊(イ・テジュン)、洪命熹(ホン・ミョンヒ)、林和(イム・ファ)(←松本清張「北の詩人」のモデル)といった作家・詩人や李快大(イ・クェデ)のような画家もいますが、圧倒的に多くの無名の人々がいて、韓国に残されたその家族まで国によって差別された点は、ほぼ<大物>人士に限られる今の「親日」批判どころではない悲劇を生みました。

 韓国の有名人では、作家の李文烈(イ・ムニョル)や映画監督の林権澤(イム・グォンテク)は父親がその「パルゲンイ」だったことが知られています。また「恐怖の外人球団」で有名な漫画家の李賢世(イ・ヒョンセ)は叔父が越北し、朝鮮戦争当時は人民軍の兵士としてやってきたりしたため家族内にも深刻な葛藤が起こったそうです。
 ※李文烈(1948~)の父親は共産主義者で、朝鮮戦争当時独りで越北。彼の小説「若き日の肖像」には苦しかった青春時代が反映されています。その作品中に父親が越北したという人物も登場します。(ヌルボの感想文は→コチラ。)
 ※林権澤(1936~)の家庭については佐藤忠男「韓国映画の精神」(岩波書店)に詳しい。父は左翼の活動家で、→雑誌「新東亜」のインタビュー記事によると日本刀を下げた刑事が家に土足のまま上がってきて家探しをしたこともあったそうです。父はその後病を得て自首し、まもなく世を去ったとのことですが、林権澤は「パルゲンイの息子」と差別され、17歳の時家を出て釜山で靴商売をする等苦労が続いたそうです。こうした彼の経験は、映画「太白山脈」(→コチラ参照)に反映されています。「人民軍部隊が,彼らを歓迎するパルチザンの生存者たちに高圧的な態度を取り、パルチザンを失望させる場面は、朝鮮戦争時代の監督の実体験が反映されているのだそうだ」とあります。
 ※李賢世については→コチラのインタビュー記事(韓国語)参照。
 上記3人は後に世に認められて<有名人>になりましたが、世間から後ろ指をさされるのみならず、公務員になれない等々のハンディを負わされて不遇な人生を送った人は大勢いたと思われます。
 フィクションの世界で思い浮かぶのは、大ヒットしたTVドラマ「砂時計」(1995.SBS)の主人公の1人パク・テス(チェ・ミンス)。陸軍士官学校を受験しますが、亡くなった父親が共産主義者だったことを理由に不合格になり、結局はヤクザになってしまいます。
 小説では、(ヌルボは未読ですが)趙廷来の大河小説「漢江」にもそんな「パルゲンイ」の息子が登場するそうです。

 今は韓国社会も大きく変わり、「パルゲンイ」をことさらにあげつらう人は少なくなりました。とはいえ、今度は「従北(종북.チョンブク)」と名称を変えたラベルが登場し、そのラベルを「活用」した2013年の統合進歩党・李石基(イ・ソッキ)議員に対する国家保安法違反についての有罪判決と翌年の同党強制解散は保守政権下であいかわらず続いています。しかし少なくとも連座はこの従北ではないとみてよさそうです。
 ※その中で、例外的な発言をしているのが1つ前の記事でも名前を出した軍事評論家の池萬元(チ・マンウォン)氏。2008年に非公開で8億5千万を寄付してきたことが報じられて注目された女優ムン・グニョンについて、彼女の祖父(05年死去)が朝鮮戦争の時のパルチザン活動や1971年の統一革命党再建委員会事件に関わって計30年間服役した非転向長期囚であり、彼女が出演したドラマ「風の絵師」や映画「美人図」も背後に何らかの左翼の意図がある、などと主張していたとか。こうしたことに関連して池萬元が「パルゲンイ」の連座制を唱えている・・・というのはホントなんでしょうか? ほとんど「トンデモ論」といった感がありますが・・・。

 次に、現代の「連座制」と「遡及法」といえば(たぶん)ほとんどの人が思い浮かべるのが「例の国」なんですが、それは続きで、ということにします。

 → <韓国の連座制&遡及法を考える③ 北朝鮮の連座制と<成分>、金日成の「輝ける家系」等>


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