風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

三月花形歌舞伎 @ル テアトル銀座

2013-03-14 23:48:55 | 歌舞伎

  

新春浅草歌舞伎に続き、今年三度目の海老蔵です。
ベジャール・バレエの感動が、心身ともにすっかり染み付いてしまっていた私。
テアトルに到着してもまだ歌舞伎モードに切り替われず困ったなぁと思っていたところ、客席に一歩足を踏み入れた瞬間に一気にテンションUP
薄暗い照明のなか客席を囲むように飾られた真っ赤な提灯に明かりが灯され、漆黒の壁を照らす様の妖しく美しいこと!
上階の各BOX席からは緋毛氈が垂らされて、舞台にはお馴染みの黒、柿、萌黄の定式幕。
日本の伝統色の見事なコントラストに、一気に非日常の世界に連れ込まれました。
シックで素敵な劇場なのに、5月で閉場とは残念な限り。

以下、感想。


『夏祭浪花鑑』

上演時間2時間20分、休憩なし。
海老蔵の団七は、youtubeやテレビで勘三郎さんの夏祭を観ていてその上手さを十分に知っていたため、比べるべきでないと思いつつ「ここはやっぱり勘三郎さんがうまいなぁ」と感じてしまう箇所は、正直多々ありました。
笑いをとるタイミングや、演技が一本調子にならない緩急の操り方は、勘三郎さんは本当にうまいと思う。
もっとも、文句なく海老蔵が素晴らしかった場面もありました。

一つ目は、団七が床屋から出てくる場面。
登場しただけで舞台がぱぁっと明るくなる男ぶりは、毎度のことながらお見事。
今回はそれが見せ場であるだけに、その華やかさは半端ないです。
このシーンをここまで“見せられる”役者は、今の歌舞伎界でも少ないのではなかろうか。
その台詞のとおり、実に「いい男」でした。

二つ目は、義平次を殺したあと井戸で血を洗い流す辺りから、祭囃子に紛れて花道(今回は下手側の通路)を去るまで。
特に群衆が去った後に一人残り、「ちょうさや、ようさ…」と呆然と呟く場面は素晴らしかった。
肝心の殺しの場面よりも、この場面の海老蔵の方がよかったな。
震えて刀が手から離れない演技もよかったし、魂が抜けたようによろけながら花道を去る歩き方も上手だった。
殺しの後の息をのむような凄絶な美しさも、海老蔵ならでは。
この場面は、夏の夕べの祭囃子の演出も実に美しかったです。そして垣根に咲く花は慎ましく可憐で。これぞ日本の美だなぁとしみじみ。

三つ目は、最後の捕り物の場面で梯子の上で決める見得の迫力

一本調子になりがちな演技や(なのでちょっと飽きてくる…)口跡の悪さなど欠点はいっぱいあっても、1月の勧進帳のラストがそうであったように、それを上回る強烈な一瞬がこの人の歌舞伎にはある気がします。
それを感じるか感じないかで、海老蔵に対する客の評価は大きく分かれるのではないかな。

とはいえ二時間半という長丁場を最後まで観客を引っ張ることができたのは、脇の役者さん達の力によるところが非常に大きかったと思います。
特に市蔵さんの三婦と、亀鶴さんの徳兵衛が、素晴らしかった。
泥場の最後で徳兵衛が団七の雪駄を手に取り、何かを悟ったように斜め上を見上げる仕草と表情など、雰囲気があってとてもよかったなぁ。
右之助さんのおつぎも、落ち着いた味がありました。
新蔵さんの義平次も小狡い感じが出ていて上手だったのだけれど、どんなに悪態をついても「人殺しー!」と叫んでもなんだか憎めない愛らしさがあって、団七が「悪い人でも舅は親…」というような“悪い人”にはあまり見えなかったです^^;

種之助の磯之丞と米吉の琴浦は、良くも悪くも「若い」感じがしましたが^^;、二人とも変な嫌味がないのは好感がもてました。

あと今回は、大向こうが一度もなかったのが寂しかったです。テアトルだからでしょうか。


『口上』
客席の黒い壁に、真っ赤な提灯、金色の襖には成田屋の三升の紋が並び、市川一門カラーの柿色の裃に、赤の敷布。
ああ、なんて綺麗。
本当に綺麗。
舞台の美しさだけで、もううっとりです。
口上は、初日と少し内容を変えていたところが、好ましいなと思いました(あれだけニュースで流したら、みんな見ちゃっていますからね)。
團十郎さんはお鍋が好きで、家族で食卓を囲んでいるときにいつも鍋を覗き込んでは照明に頭をぶつけるから家族が「危ないですよ」と注意するんだけど、「あ、そうですか」とのんびりと返され、懲りずに何度も頭をぶつけていた、というエピソードは微笑ましかったです。
また、海外の両替所で「千ダラー、プリーズ」と堂々と言った團十郎さんに、勘三郎さんが後ろから「お兄さん、千は日本語ですよ」と教えてあげたというエピソードのときの海老蔵の勘三郎さんのモノマネがものすごく似ていてビックリ。
そして最後の「何卒皆さま、こののちも歌舞伎をご愛顧くださいますようお願い申し上げます。」と言った姿がとても真摯で、なんかぐっと来ました。。。
海老蔵だけでなく、勘三郎さんや團十郎さんの強い思いも表した言葉なんだろうな、と。


『高坏』
この季節にぴったりの演目で、思いのほか楽しむことができました。
お花見の雰囲気一杯の舞台が、春らしくてとてもいい。
ここでも、市蔵さんの大名と亀鶴さんの高足売りがいい味を出していました。
「高坏買いましょう~」「高足売りましょう~」の掛け合い、楽しすぎる(笑)
海老蔵も、思っていたよりもよかったです。
酒筒に鼻を寄せてクンと嗅いだ途端にぱぁっと顔を綻ばす様子が、甘いお酒の匂いが客席まで漂って来るようでした。
肝心のタップダンスは、、、んー、イマイチ…^^;?
もうちょい軽やかな方がいいなぁ。今後に期待したいところ。

しかし、私が初めて海老蔵の舞台を観たのは4年ほど前ですが、この人は今が一番美しいのではなかろうかと今回思った。
なんて綺麗なんだろう。。。と見惚れること幾度。
TVの中よりも、普段の彼よりも(一度見たことがある)、歌舞伎の舞台の上で最もその美しさが引き立つ様を見ていると、やっぱり彼は歌舞伎の世界の人なんだなぁとつくづく思う。また歌舞伎の化粧が実によく似合うんですよね。
もちろんこれから歳を重ねてゆく海老蔵もとても楽しみだけれど、今の海老蔵が見られるのは今だけなので、今のうちにこの綺麗な人間をいっぱい見ておかなければ!と本気で思いました、笑。
6月の助六が楽しみです。

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