風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

モーリス・ベジャール・バレエ団&東京バレエ団 『第九交響曲』 @NHKホール(11月9日夜)

2014-11-10 21:43:02 | バレエ




ベートーヴェンの華々しい「歓喜の歌」を一枚の絵に描いてみるがよい。
想像力を存分に駆け巡らせながら、人々が感動の戦慄を覚え、地面にひれ伏す
のを凝視するがよい。そうすれば、ディオニソスの陶酔に触れることができるだろう。
そのとき、奴隷は自由の身となる。そして、人々の間に作られてきた、堅牢で敵意
あふれる障壁はすべて打ち砕かれるのだ。
今や人々は、宇宙的調和の教えによって結合し、和解し、融合していると感じる
ばかりではない。同胞と自分自身を平等の立場で観るようにさえなってきている。
まるで世俗の鎖から解き放たれるかのように……。
まるで神秘の源に見えるものは、もはやちぎれた鎖の輪とでも言うかのように……。


(ニーチェ「悲劇の誕生」より)


東京バレエ団との合同ということで購入を見送っていた今回のBBL来日公演でしたが(すみません、東京バレエ団の踊るベジャール作品が得意じゃないのです・・)、初日のキャストが発表されて、思った以上にBBL祭であることが判明し、前日に急遽購入。全3公演の最後の回に行ってまいりました。三階席15,000円也。こんなことなら半額が出たときに買うんだった・・・。

でも、本当に行ってよかったです。
昨年の来日公演やパリオペ椿姫やNAスワンレイクのように鑑賞中に心臓をぐわっと掴まれたり、前宣伝で言っていたような壮大スペクタクルな興奮を感じることはなかったのだけれど、その代わりに、BBLだけがくれる独特な幸福感をしみじみとじわじわと感じさせてもらえた公演でした。
私が世界で一番好きなバレエ団はもしかしたらBBLかもしれない、とまで思ってしまった。
このバレエ団がもつ懐の深さ、スケールの大きさを改めて知った気がしました。本当に、いいバレエ団だなぁ。。

この作品はオケ×歌唱×バレエの全てが主役なため、ファンもそれぞれの分野の方達が一堂に会した非常に珍しい公演となりました。
オケは、ズービン・メータ氏指揮によるイスラエル・フィル。私はクラシック音楽の分野にはまったく不案内で、第九をフルで聴くのも今回が初めてという人間ですが、今までバレエで聴いていたオケってなんだったんだろう・・・と素人耳でも感じた・・・。毎回こういうオケでバレエが観られたら最高だろうなぁ。バレエ目的な私にはもったいないほど繊細で温かな美しい演奏でした。
ただ今回はオケが舞台奥に位置していたせいか音が遠く感じられたので、音楽目当ての方達は物足りなかったのではないかしら。と思ったら、ネットに上がった感想を読むと概ねそれらの方達にも満足のいく公演だったようですね。なるほど、やはり音は大きさよりも質か。たしかにバレエの場合もどんなに良席で観ても感動しないものはしませんし、どんなに遠くで観ても感動するものはしますから、それと同じなのでしょうね。

以下、各章の感想をざっと。

【プロローグ】
ジル・ロマンによる、ニーチェの「悲劇の誕生」の朗読。
ジル様、やっぱりダンサーでいらしたのね・・・(私はジルの踊りを生で観たことがないのである。そもそもBBL自体去年初めて観たし)。今おいくつ?54歳?相変わらずフランス映画から抜け出てきたような翳りがあって、存在感あるわぁ。。。今でもこれだけはっとさせる美しい動きができるのなら、ちょっとくらい踊ってくださってもいいじゃないですかーーー(>_<)!
うぅ・・・、バレエファンになるのが遅すぎた。。。
朗読が途中からラップ調っぽくなるところも、ジルがすると素敵!

【第一楽章】 
柄本弾上野水香
正直このまま第四楽章までいったら一時間半どうしよう・・と本気で思いました・・・。すみませんっ(>_<)。でも、技術が上手下手以前に、舞台から語りかけてくるパワーがとても薄いのだもの・・・。熱意はちゃんと感じるのだけれど。何がいけないんだろう?と考えているうちに第一楽章が終わってしまった・・・。本当にダンサーはみんなとても頑張っていたのです。でも・・・うーん・・・。

【第二楽章】
キャサリーン・ティエルヘルム大貫真幹
そうこれ!求めていたのは。
BBLのダンサーが踊り始めると、途端に作品がストレートに語りかけてくる。ジルによる朗読も同様で、本来なら説明的になりかねないはずなのに(踊りを言語で表現するのは本来私は好きではありませぬ)、まったくそう感じない。ディオニソス組曲のときと同じで、言葉も含めて、本能に語りかけてくる作品の一部に感じられる。
大貫さんの踊り。この明るさ。人の体ってこんなに雄弁に語るものなのだなぁ。。。いや待て、もしや彼のこの笑顔に騙されてるのでは、と試しにオペラグラスを下ろしてみたけど、やっぱり違う。
彼が入団したのはベジャールさんが亡くなった後だけれど、すっかりこのカンパニーの個性に溶け込んでいるのだなぁ。

【第三楽章】
エリザベット・ロスジュリアン・ファヴロー
青と白の、水の中でたゆたう体温を感じさせる、そんな踊りでした。
不思議な静寂と温もり。
エリザベットとジュリアンは、現実のカップルというよりも、アダムとイブのような、根源的な二つの存在に見えた。
愛の成分の中の、最も純度の高い部分を見せてもらった気がしました。
そしてそれを踊るのはエリザベットとジュリアンでなくてはならないのだと、そんな風に強く感じました。

【第四楽章】
オスカー・シャコン那須野圭右アランナ・アーキバルド他、全ダンサー。
大っ好きなバッカス的なオスカー!!この踊り!なんて美しいの。。。なんて楽しそうで、なんて神々しいの。。。。
この第四楽章、音楽・歌・踊りという3つの根源的な芸術が一体となって、それらが争うことなく融け合って一つの「作品」へと昇華する様を同じ場所で体感できたことは、至福以外の何物でもありませんでした。ここは天上か?
ダンサー達がくるくると円陣を描いて踊るラスト。過去も未来も、西洋も東洋も、この世界の全ては繋がっていて。死は生に繋がり、終わりは始まりに同義なのだなぁ。
アランナがオスカーと那須野さんの二人に高く掲げられる姿はとても神聖で、死者のようにも胎児のようにも見え、そこから新たに生まれる“生”は、あの『ライト』の光であり、決して消えることのない人類の希望なのだと感じました。どのような苦難でも絶えることのない、幾度でも生まれる光。
この夜は、ベルリンの壁崩壊25周年の夜でもありました。
そしてメータさんはあの東日本大震災を日本で経験され、直後の4月に再来日し、この『第九』を演奏してくださったのでした。

最後のカテコではキラキラの紙吹雪。昨年の東京文化会館の千秋楽でもそうだったよねぇ
今回はバレエダンサーだけじゃなくソリストや合唱団の方々、そしてオーケストラの全員が主役だったので、カテコの感慨もひとしおでした。メータさんもニコニコ^^

しばらく第九の音に浸ります。
世界が平和になりますように。
皆が幸福でありますように。

そしてBBLの皆さん。
次回もきっと観に行くから、また来日してね~~~!!!

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指揮:ズービン・メータ
演奏:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
出演:東京バレエ団、モーリス・ベジャール・バレエ団 
ソプラノ:クリスティン・ルイス  
メゾ・ソプラノ:藤村実穂子
テノール:福井敬 
バス:アレクサンダー・ヴィノグラードフ
パーカッション:J.B.メイヤー、ティエリー・ホクシュタッター(シティーパーカッション)
合唱:栗友会合唱団
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美しい公演プログラム。お値段は意外に良心的で1500円。

「第九交響曲」リハーサルMovie(5) ~開幕前日ゲネプロ~
 


★TV放送のお知らせ★
NHKとドイツのユーロアーツが共同で収録し、世界数カ国で放送予定とのこと。
NHK BSプレミアム 「プレミアムシアター」
12月22日(月)午前0時~(日曜深夜)


※追記:chacottインタビュー:那須野圭右(2008年来日時)
このインタビューを読んで、このバレエ団が今とても大きなものを乗り越えようとしているのだということがわかりました。。。
シンコペいまいちとか言っちゃってゴメンね、ジル。作品の好みと応援する気持ちは別ものだけど^^;
また、昨年のBBLの「ボレロ」でメロディとリズムの間にあった“温かな何か”の理由も、わかった気がしました。

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