風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

9月文楽公演 『生写朝顔話』 @国立劇場(9月5日)

2017-09-15 00:39:38 | その他観劇、コンサートetc




今月は夜の部(勘十郎さんのキチュネ)が圧倒的な人気のようですが、私は昼の部の方に行ってきました。しょううつしあさがおばなし。

今回なにより面白く感じられたのは、前・中・後と3人の人形遣いさんが遣った深雪(朝顔)ちゃん。
いやあ、3人とも全然違う笑。ほとんど別人28号。作品の一貫性という点ではどうかわかりませんが、私はなかなか楽しかったです。

深雪ちゃん No.1 一輔さん(宇治川蛍狩りの段、明石浦船別れの段) 
まだ苦労を知らない初心な、でも何気にしっかり肉食系で思い込み激しくて一直線な、文楽あるあるなお姫様。一輔さんの遣う若い女の子は好きです。
「明石浦~」は寛治さんの三味線の豊かな響きに聴き入った

深雪ちゃん No.2 簑助さん(浜松小屋の段) 
路頭に迷い、今やすっかりやつれきってしまった深雪ちゃん。泣きすぎて目も見えなくなってしまいました。
もう登場からお見事なまでのやつれっぷり。でも可憐なの。簑助さんの深雪ちゃんの健気さ、育ちのいい素直さ、一途さ、哀しみ、、、、ああもう好きすぎて言葉が浮かばない
そしていつもながら簑助さんが遣うと人形が物に見えない。人形遣いの体と一体に見えるというか、人形遣いの魂の一部が人形に入っているように見えて、目が離せなくなる。小屋の影から顔や体の一部が覗いてるだけでもその息遣いや想いが強く伝わってきて胸が苦しくなるって、どんだけすごいの。全然大袈裟な動きはしていないのに。初めて文楽を観て嵌ってしまった簑助さんのあの十種香の八重垣姫の後ろ姿を思い出しました。
深雪が崩れ落ちて簑助さんの袖に震えてもたれ掛かるように見える体勢になったとき、なんだか泣きそうになってしまった。簑助さんと人形の結びつきの強さのようなものが、簑助さんの人形に対する深い深い愛情のようなものが伝わってくるように感じられて。簑助さんにとって人形ってどういう存在なんだろう。


そんな儚さと切なさいっぱいな深雪ちゃんにほろりとしていたのに―――


深雪ちゃん No.3 清十郎さん(宿屋の段、大井川の段) 
阿曾次郎(玉男さん)逃げて~!今この子に捕まったらもう二度と逃れられないわよ~!と本気で思った深雪ちゃんNo.3。靖太夫さんの激しい語り(@大井川)と共に。
あんなに可愛らしい顔で全くの躊躇なく、目の前で死につつある爺さんの生き血を飲んじゃう深雪ちゃんNo.3(てか生き血って切腹までしなきゃダメなの)。そしてその姿に全く違和感を覚えさせない深雪ちゃんNo.3。
事前にストーリーを調べていたときにサイコスリラーだとか散々な言われようだった深雪ちゃんだけど、実際に最初から半通しで観たら想像以上であった。阿曾次郎が割とふつうっぽいだけに一層。でもそんな文楽が私は好き(オリジナルは歌舞伎だけど)。
これだけすれ違いで引っ張っておいて最後までそのままな幕切れにも吃驚だったけど(そんな文楽が好き)、たとえひしと抱き合うラストシーンを見られたとしても純粋に「お二人さん、おめでと~!」と思えたかどうか。阿曾次郎の未来を思うと。そんな深雪ちゃんNo.3、清十郎さんも楽しかったけど、簑助さんでもすんごく見てみたかった。2011年にやってらっしゃったのね…。

和生さんの乳母浅香もとてもよかったなあ。こういう品のあるしっかり者の役が本当にお似合い。深雪お嬢様を守るために人買を一人でぶっ殺しちゃうくらい強いの。自分も深手負って死んじゃうケドね…。簑助さんとのペアって珍しい光景のような気がしたけど、どうなんだろう。「浜松小屋」の浅香、切なかった。清治さんの三味線の音色とともに。
一方呂勢太夫さんの語りは少々さっぱりめに感じられたかな。個人的にはもうちょいコッテリの方が好みです。休憩時間になった途端に「こんなんじゃ全然泣けない!」と大声で話していたおば様がいらしたけど、そんなに言うほど悪くも感じなかったけどなぁ。人形と三味線が良すぎただけで。私は全体で今回一番感動したのは浜松小屋の段でした。

「笑い薬の段」の勘十郎さん(萩の祐仙)。おお、こういう笑いをとるお役も上手いんですね!やりすぎると下品になりそうなのに、そうならないところが素晴らしいわ。ぱこって茶釜に蓋をする仕草がイチイチ楽しい
咲太夫さんの飄々とした自然な語りも味があったのだけれど、笑い声にお元気がなかったのが心配です。。。だいぶ痩せられていたなぁ。。。

この作品、ずーっと夜や薄昏の場面で、舞台が明るくなるのは笑い薬の段&宿屋の段とラストだけなんですね。睡眠注意な作品(でも今回は暗い段の方が眠くならなかった)。そして宇治川、明石浦、大井川と、水辺の場面が多いのね。文楽の屋外の風景は好きなので楽しかったです。宇治川と明石浦の船はどちらも上手に置かれていて、浜松小屋も上手だったので、このお話は上手の席の方がお得なのかも。私は下手寄りの6列目でした。でも浜松小屋の深雪ちゃんの顔はよく見えました(上手に立って下手側に顔を向けるから)。

次回の文楽は、地方公演の曽根崎心中(勘十郎さんのお初ちゃん♪)の予定です。

そうそう、開演前に「本日は記録映像を撮っています」というアナウンスがあったのだけど、「映像を撮るのにどうして舞台に向かってマイクがないんだろう?」としばらく本気で考えてしまった 。私には文楽人形は話しているようにしか見えない。



国立劇場特設ページより。初日の深雪ちゃんNo.1


深雪ちゃんNo.2。「浜松小屋」が東京でかかるのは20年ぶりだそうです。


深雪ちゃんNo.3


※吉田簑助 「千秋楽ごとに、この役を遣えて幸せだったと感謝しています」



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