風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

三津五郎さん

2015-03-21 03:36:55 | 歌舞伎



世の中は桜が咲き始め、すっかり春ですねえ(写真は梅ですが ^^;)
三津五郎さんが亡くなられて、今日でちょうどひと月がたちました。

亡くなられたと聞いたときにまず最初に感じたことは、「これからももっともっともっと三津五郎さんの踊りとお芝居が観たかった」でした。
私が本格的に歌舞伎を観始めたのは新開場の杮落としからなので(ですから勘三郎さんの舞台は一度も、團十郎さんも数回しか拝見できていないのです)、TVではなく歌舞伎の三津五郎さんを拝見したのはあの『お祭り』が最初でした。大きな大きな拍手のなか七緒八くん、勘九郎、七之助と新しい歌舞伎座の舞台に立って、「十八代目もさぞ喜んでいることでありましょう」と客席を見上げられた三津五郎さん、万感の思いの込められた実にいい笑顔をされていましたねえ。

以降は幸い出演された舞台はほとんど観ることができましたが、それでもやっぱり、これから先ももっともっともっと三津五郎さんの芸が観たかった。第一の想いは本当にそれに尽きました。
一昨年秋の巡業の江島生島だってずっと踊ってみたい踊りだったって仰っていたじゃないですか。まだ踊っていないじゃないですか。なんで死んじゃうかなぁ!

次にすぐに思ったのが、やはり皆さんと同じく、歌舞伎界の損失についてです。もっとも、ご自身の芸や、歌舞伎の中間層の年代の希薄といったこととはまた別の意味で。
観劇歴の超短い私なんぞがこんなことを書くのはおこがましいとは思いますが、そんな短い間でも伝わってくるくらい、歌舞伎の伝統や将来について真剣に考えられていた方でした。伝統ではなく伝承だとも仰っていたそうです。最近のように同じ演目ばかりかけていてはお客さまは離れてしまう、とも仰っていました。私、三津五郎さんの歌舞伎に対する考え方が大好きでした。冷静で広い目を持たれていて、でもしっかり熱くて。
よく思い出すのが、『芸づくし忠臣蔵』という本の中で書かれていた勘三郎さんとの会話です。お二人が菊ちゃんの弁天小僧にえらく感心したというところから話は始まるんですが(・・・)、仮名手本の大序では座元系の役者が直義をやるときは烏帽子の紐は紫にして沓は三段の上で履き替えるとか、そういう決まり事があるそうなのです。そして座元系でない菊ちゃんが演じた直義を勘三郎さんは絶賛し、「直義が沓をどこで履くとか紐の色がどうとか、いろいろ言うのはもうやめにしたらどうだろう。これは僕(中村屋の座元系)が言い出さないとダメだと思うんだ」と提案するんです。それに対して三津五郎さんは「別に差別してるという感じじゃなく、儀式性の高い大序のことだから、いろんな決りごとがあるのも面白いんじゃない?」と返すんですね。そういう歌舞伎の伝統(伝承)がもつ独自の面白味を三津五郎さんはよくわかっておられたのだと思います。勘三郎さんの仰りたかったことももちろん理解できますし、どちらが正しいということではありませんが、私はこのエピソードがとても好きで、三津五郎さんが亡くなられたときにこれを思い出して、もしかしたらものすごく重要な存在を歌舞伎界は失ってしまったのではないか、と思ったものでした。

話を三津五郎さんご自身に戻します。
そんなわけで私が観た三津五郎さんの舞台は決して多くはないのですが、三津五郎さんの歌舞伎、私は大好きでした。爽やか、でしたよね。軽やかなのに軽くはなくて、温かくて。昨年ご病気から復帰された後の『靭猿』や『たぬき』は忘れることのできない感動的な舞台でしたが、なぜか一番に思い出すのは杮落しのあの『喜撰』です(こうして改めて振り返ると、全部みっくんと同じ舞台に立っていたんだねぇ・・・)。究極の芸の軽みと深さを見せてくれた三津五郎さん。あんな化粧なのに(笑)、すごい舞台を見させてもらっていると感じた感覚を覚えています。楽しかったなあ。あのときの花錫杖と被り物は、棺に入れられたのだとか。歌舞伎座が自分の家だとも仰っていましたから、これからも歌舞伎座のどこかにいてくださるといいのですけれど。

舞台は本当に儚いものですし、記憶が薄らいでいくのも避けることはできませんが、舞台からもらったそのときの感動って不思議と忘れないものですよね。頭が忘れても心と体は覚えているといいますか。私は自分の弱い頭よりよっぽど信頼できます笑。もし将来無一文になっても、体が動けなくなっても無くならない、ある意味どんなものよりも貴重で確かなものを良い舞台は私達にくれます。
そんな一生の宝物をくださった三津五郎さんに心から感謝。

でも本当に、もっともっと観たかった。。。
あの世の楽しみとすることにいたします。

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