respiratory distress syndrome
● 概念
呼吸窮迫症候群(RDS)は、未熟性による肺サーファクタントの産生障害の結果生じる広範性無気肺である。
● 病態生理
肺サーファクタント(表面活性物質)はⅡ型肺胞上皮細胞で合成・分泌される。肺の未熟性に基づく肺サーファクタントの不足がRDSの原因である。胎児は通常妊娠34週以降に肺サーファクタントを産生するので、それ以前に出生した早産児ではRDSの頻度が高くなる。肺サーファクタントの不足により、肺胞の拡張不全をきたし、低酸素症、換気不全となる。肺血管抵抗上昇による肺血流減少と肺胞上皮障害により、さらに肺サーファクタント活性が阻害され悪循環を生む。
● 危険因子
1500g未満の極低出生体重児、在胎32週以前の早産児(肺サーファクタントの産生はおおむね34週以後)、胎児機能不全、帝王切開児、母体糖尿病、双胎第二児、男児。
動脈管開存症(PDA)の併存が高頻度で見られる。
● 抑制因子
前期破水、子宮内感染、子宮内胎児発育遅延など
● 症状
出生直後からみられるが、進行性無気肺のために生後数時間頃に症状がより著明となる。
多呼吸(60/分以上)、陥没呼吸、チアノーゼ、呻吟。
呻吟は、声門を閉じ加減にして自ら呼気終末陽圧呼吸(PEEP)を加え、肺胞の虚脱を防ごうとするために発するうなり声である。また、新生児、特に未熟児の胸郭は柔らかく、RDSによる肺コンプライアンス低下時は、著明な陥没呼吸がみられる。
生後2~3日が極期で、適切な治療がないと死亡する。
肺胞上皮細胞機能が病態を上回れば、内因性の肺サーファクタントの分泌が起こり、快方に向かう。
● 検査
①マイクロバブルテスト(stable microbubble test)
肺サーファクタントが直径15μm以下のマイクロバブルを安定させることを利用したもので、採取した羊水または胃内容液をカバーガラス上でピペットを用いて十分泡立て、4分間静置後、顕微鏡下に1mm2中の直径15μm以下の安定した気泡の数を数え、5視野の気泡の数を平均し判定する。
判定基準
0: 陰性(Zero)
1: 微弱(Very week)
2~10: 弱(Week)
11~19: 中間(Medium)
20以上: 強(Strong)
陰性~弱: RDSの危険性が高い
中間: RDSの危険性はほとんどない
強: RDSの可能性なし
羊水のstable microbubble < 5、胃内容液のstable microbubble < 10 の場合には、RDS発症の可能性が極めて高い。
②胸部X線
・ 気管支透亮像(air bronchogram):肺胞の虚脱(=無気肺)および末梢細気管支の拡張により、気管支が浮き出る像。
・ 網状顆粒状陰影(reticulo-granular pattern):拡張した肺胞と虚脱した肺胞(=無気肺)とが混在した像
・ 最重症例の肺野はすりガラス状陰影(ground glass opacity、含気がほとんどなくなった状態)となり心肺境界が不鮮明になる。
・ RDSのX線分類 (Bomsel, 1970)
Ⅰ度 わずかにreticulogranular patternが認められる。
肺の透亮性は正常で、air bronchogramは認められない。
Ⅱ度 肺全体に明らかなreticulogranular patternを示す。
肺の透亮性は軽度減少し、air bronchogramが心陰影を
超えてわずかに認められる。
Ⅲ度 肺全体に強度のreticulogranular patternを認める。肺の
透亮性は減少し、肺全体にわたりair bronchogramが
認められる。心陰影境界は不明瞭。
Ⅳ度 両肺野は完全に濃厚なground glass opacityとなり、
心陰影境界の判別は不可能。
③血液ガス分析
PaO2(動脈血酸素分圧)の低下、PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)の増大、アシドーシス。
※ 最終的なRDSの診断は、臨床症状と検査の結果から総合的に判断される。明らかに児が呼吸不全の状態であるのに、RDSが確定診断されるまで人工肺サーファクタントの補充を待つ必要はない。RDSが確定診断されていなくても、診断的治療として人工肺サーファクタント補充を試みる価値がある。
● 治療
①人工肺サーファクタント補充療法:
人工肺サーファクタント(サーファクテン?)は、生食(120mg/4mL)によく懸濁して、120mg/kgを気管内に注入する。全肺野に液をゆきわたらせるため、4~5回に分け、1回ごとに体位変換する。1回ごとの注入にあたって、100%酸素でバギングしながら、経皮酸素分圧をモニターし、80mmHg以上にあることを確認する。初回投与の時期は、生後8時間以内が望ましい。
②呼吸管理:持続的気道陽圧法(CPAP)、人工換気
③輸液:アシドーシスを補正する。
※ PDA併存例の場合、RDSが治療によって改善すると肺血管抵抗が低下するため、動脈管を介しての左→右シャントが増大して心不全を来たす恐れがある。RDSの治療とPDAの治療とを並行して進めることが重要である。
※ RDSの予防は未熟児出生を防ぐことであるが、未熟児出生が予測されるときは、母体にベタメタゾンを投与(リンデロン®12mg を24時間ごと計2回筋注)し胎児肺成熟を促進することが推奨されている。
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・ 呻吟(しんぎん)とは?
呻吟とは、呼気時にウーウーと唸るような声を伴って呼吸する状態をいう。これはコンプライアンスの悪い肺で呼吸するときに、呼気時に声門を締めて胸腔内を陽圧に保って肺が虚脱するのを防ごうという合目的な呼吸である。呻吟はRDSの場合に特徴的とされる。
・ 陥没呼吸とは?
陥没呼吸とは、吸気時に剣状突起部・胸骨下や胸骨上、肋骨間が陥没する呼吸のことで、膨らみの悪い肺や上気道狭窄の場合に出現する。未熟児の胸郭は柔らかく、RDSによる肺コンプライアンス低下時は、著明な陥没呼吸がみられる。
・ 肺コンプライアンスとは?
横軸に肺を伸展させる圧力(ΔP)、縦軸に肺の容量変化(ΔV)をとると、圧-量曲線が得られる。この傾き(ΔV/ΔP)を肺コンプライアンス(C)と呼ぶ。肺コンプライアンスが高いことは、伸展しやすい肺であることを意味する。 RDSでは肺コンプライアンスが低下し肺は硬くなる。
****** 問題
新生児呼吸窮迫症候群でみられるのはどれか。3つ選べ。
a 呻吟
b 嗄声
c 咳
d 多呼吸
e チアノーゼ
正解:a、d、e
a. RSDでは呻吟(呼気時うめき声)が認められる。呻吟はSilvermanのretractionスコアの一項目である。
b. 嗄声はPDA術後の反回神経麻痺などで認めることがある。
c. 咳はRDSの症状ではない。
d. RDSでは多呼吸、陥没呼吸が認められる。
e. 低酸素症によるチアノーゼが認められる。
****** 問題
新生児呼吸窮迫症候群について正しいのはどれか。3つ選べ。
a 生後3~4日目に発症する。
b 肺コンプライアンスの増加を伴う。
c 肺血管抵抗は上昇している。
d アシドーシスは呼吸性および代謝性の要素をもつ。
e 胸部X線写真で両肺野に網状顆粒状陰影をみる。
正解:c、d、e
a RDSは生後数時間で発症し、進行性に悪化する。
b RDSでは肺コンプライアンスが低下し、肺は硬くなる。
c 肺胞は虚脱し、肺血管抵抗は高くなる。
d 当初呼吸性アシドーシスが前景にあるが、次第に混合性となる。
e RDSのX線所見: 網状顆粒状陰影、気管支透亮像、スリガラス様陰影。
****** 問題
新生児呼吸窮迫症候群に有効な治療はどれか。2つ選べ。
a 低体温療法
b 血液浄化療法
c 高圧酸素療法
d 持続的気道陽圧法(CPAP)
e 肺サーファクタント補充療法
正解:d、e
a 低体温療法は、RDSに対して無効かつ有害である。
b 血液浄化療法は、RDSに対して無効である。
c 高圧酸素療法は、未熟児網膜症の危険があるため早産児においては使用されない。
d CPAPは肺胞の虚脱を防ぎ肺容量を保つのに有用である。
e RDSの原因はサーファクタント産生不足であり、サーファクタント補充療法が有用である。
****** 問題
出生直後の新生児、在胎週数28週、出生体重980g、Apgarスコア6点、呼吸数80/分、陥没呼吸を認める。保育器に収容し、挿管して人工呼吸を開始した。
全身管理として適切なのはどれか。2つ選べ。
a 保育内温度を28℃とする。
b 動脈血O2分圧を150mmHgに保つ。
c 1日輸液量を150ml/kgとする。
d 5%ブドウ糖液の輸液を開始する。
e 処置前後の手洗いを励行する。
正解:d、e
未熟児が出生直後より呼吸困難を呈している場合は、まずRDSを考える。呼吸困難を呈した超低出生体重児に対する適切な全身管理を問われている。
a 低出生体重児では、生後10日間は保育器温度を32℃以上とする必要がある。
b 新生児に対する呼吸管理においては、PaO2は60~80mmHgが理想的である。
c 出生直後の輸液量は1日あたり50~80ml/kgとする。
d 輸液は5%ブドウ糖で開始することが多い。
e 入院時にはスタッフだけでなく家族にも感染防止のために手洗い励行を行う。
****** 問題
成熟児と比べて未熟児に起こりにくいのはどれか。
a 肺出血
b 一過性多呼吸
c 呼吸窮迫症候群
d 胎便吸引症候群
e Wilson-Mikity症候群
正解:d
a 肺出血は低出生体重児、PIH母体からの出生児、SFD児で頻度が高い。
b 胎児の肺内に存在した液体(肺液)の吸収遅延状態。未熟児の方が起こりやすい。
c RDSはサーファクタントの欠乏による呼吸障害で、未熟児に起こりやすい。
d MASは、羊水に排出された胎便を肺に吸引して起こる病態であり、未熟児には少ない。
e Wilson-Mikity症候群の発症は出生体重1500g以下がほとんどで、成熟児にはみられない。