meconium aspiration syndrome
[定義] 胎便吸引症候群(MAS)は、胎内あるいは出生直後に、児が胎便により汚染された羊水を気道内に吸引することで生じる呼吸障害である。
[症状]
・ 多くは胎児機能不全(NRFS)、新生児仮死を伴い、羊水混濁を認める。
・ 出生直後から多呼吸、チアノーゼを呈し、胸郭は著しく膨隆する。
・ 重症例では、化学性肺炎、気胸、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を併発する。
[発生機序]
・ 成熟した胎児が低酸素状態となると、迷走神経反射により腸管蠕動運動の亢進と肛門括約筋の弛緩が起こり、羊水中に胎便を排出し、羊水が混濁する。
・ 胎内で低酸素状態のために起こるあえぎ呼吸、または出生時の第一呼吸で、児が胎便汚染羊水を気道内に吸引すると、胎便による肺サーファクタントの不活化や気道閉塞と炎症が生じ、呼吸障害が引き起こされる。
[頻度] 羊水への胎便排泄(羊水混濁)は分娩の10~15%でみられる。胎便を排泄した児のおそらく5%が分娩中にその胎便を吸引し、MASを発症する。少ない量の羊水から分娩された過期産児では、あまり希釈されていない胎便が気道閉塞を起こす傾向があるため、症状はより重度となる可能性が高い。
[発症時期] 在胎36週以前では排便反射が確立されていないため、早産児には少ない。正期産児、特に過期産児にみられることが多い。
[診断]
・ 症状: 羊水混濁、出生直後の呼吸障害が存在する。
・ 気管内吸引により胎便が証明されれば診断が確定する。
・ 尿中のビリベルジン(胎便由来の色素)を証明する。
・ 胸部X線の異常所見: 気道に吸引された胎便による全肺野の炎症像を認める。
[治療]
・ 生理食塩水(あるいは肺サーファクタント製剤)による気管内洗浄を実施する。
・ 呼吸障害に対して、酸素投与あるいは人工換気を実施する。
・ 中枢神経障害に対しては、抗けいれん薬、鎮静薬を投与する。
・ PPHNに対して、一酸化窒素吸入療法、ECMOを必要とする場合がある。
****** 問題
出生直後の新生児、41週5日、3200gで出生した。分娩時間第Ⅰ期14時間、第Ⅱ期1時間40分。羊水混濁があり、胎盤は黄染していた。臍帯動脈血pH 7.25。Apgarスコア5点(1分)、7点(5分)。泣き声が弱く、軽度のチアノーゼを認めた。口腔内を吸引し、酸素を投与したところ、チアノーゼは改善し泣き声も強くなった。約10分後、再びチアノーゼと多呼吸が出現した。聴診上、心雑音はないが、呼吸音は両側とも減弱している。
まず行うべき処置はどれか。
a 足底叩打 b マスクによる人工換気
c 気管内洗浄 d 人工サーファクタント投与
e アシドーシスの是正
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正解:c
正期産、胎便、新生児仮死、チアノーゼ、呼吸障害などより、MASの診断は容易である。まず気管内洗浄を行う。
a. 仮死で自発呼吸が全く出ない場合に足底叩打することがあるが、本症例では無意味である。
b. MASの場合、まず気管内洗浄を行ってから人工換気を行わないと、胎便を抹消気道に押し込むことになり、かえって事態を悪化させることになる。
c. 気管内洗浄後に人工呼吸管理をすることが多い。
d. 人工サーファクタントを用いて気管内洗浄する施設もあるが、まず行うべき処置としては不適切である。
e. アシドーシスの是正も結果的に必要となることが多いが、まず行うべき処置ではない。