ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

新型インフルエンザ 国内発生を初めて確認

2009年05月16日 | 新型インフルエンザ

コメント(私見):

本日、神戸市在住の海外渡航歴のない3人の高校生が、新型インフルエンザA(H1N1)に感染していたことが確認されました。この高校では、5月に入ってからインフルエンザが流行し始めて、多くの生徒が発熱で学校を休んでいたそうです。現在、発熱などの体調不良を訴える生徒が、この3人以外にも17人いるそうです。

新型インフルエンザに感染しても3分の1は発熱しないそうですし、潜伏期間のうちは発熱しませんから、空港などの検疫でウイルスの国内侵入を完全にくい止めることは不可能で、新型インフルエンザウイルスはすでに国内に持ち込まれて、どんどん広がっているはずだと多くの専門家が警告してました。

今年は、今の季節でもインフルエンザの患者さんがけっこう多くいらっしゃいます。今日までは、国内には新型インフルエンザウイルスは存在しない筈という仮定のもとに、インフルエンザの迅速診断キットでA型陽性であっても、海外渡航歴がなければ「通常の季節性インフルエンザ」として扱ってきました。しかし、これからはそういう患者さんの検体の多くが詳細な遺伝子検査にまわされることになり、新型インフルエンザと診断される症例が爆発的に増えていくことも予想されます。

**** 共同通信、2009年5月16日21時34分

拡大か、同じ高校の2生徒確認  新型インフル国内感染3人に

 厚生労働省は16日、神戸市の2人が国立感染症研究所の確定検査の結果、新型インフルエンザ感染が確認されたと発表した。兵庫県立神戸高校(神戸市灘区)の生徒で、初の国内感染事例となった高校3年の男子生徒(17)と同じ学校。「人から人」の感染が広がっている恐れが高まった。

 大阪府も16日、同府茨木市内の高校2年の女子生徒=同府豊中市=がリアルタイム詳細(PCR)検査で新型陽性となったと発表。国立感染症研究所で確定検査する。

 神戸市や兵庫県でも新型の疑いがあるとして市や県が検査を進めている生徒が相次いだ。

 一方、国内での感染例が出たことを受け、政府の行動計画は16日、第1段階(海外発生期)から第2段階(国内発生早期)に移行した。

 厚労省や神戸市によると、新たに感染が確認されたのは神戸高校の2年男子(16)と2年女子(16)。男子生徒は15日に熱があり学校を早退、夕方には体温が39・7度になった。16日未明、簡易検査でA型陽性となった。女子生徒は12日夜、38度の発熱があり、13日に簡易検査でA型陽性が出た。

 神戸市によると、神戸高校と複数の種目で交流試合をしている市内の別の学校の生徒5人が、簡易検査でA型陽性となった。市は詳細検査する。

(共同通信、2009年5月16日21時34分)

**** 時事通信、2009年5月16日18時16分

「既に感染拡大の可能性」=検疫体制、縮小も検討-政府専門家委・新型インフル

 新型インフルエンザに関する政府専門家諮問委員会の尾身茂委員長(自治医科大教授)は16日、政府の対策本部幹事会終了後に会見し、「感染しても軽微な例が多く、国内で既に感染がじわじわ広がっている可能性は否定できない」との見方を示した。その上で、検疫体制の縮小を検討する時期との考えを明らかにした。

 尾身委員長は、今回の新型インフルエンザの特性について「感染力が強い半面、比較的症状が軽い。高齢者よりも、基礎疾患のある感染者が重篤化しやすい」と分析。神戸市の感染例が海外渡航経験のない患者だったことなどから「既に地域での感染が始まっている」と述べた。

 その上で、現時点は感染拡大防止に重点を置くべきだとする一方、感染が拡大してしまったときには、軽症者よりも、基礎疾患のある感染者の重症化防止に重点を移すべきだと指摘した。

(時事通信、2009年5月16日18時16分)

**** 東京新聞、2009年5月16日夕刊

新型インフル 国内発生 政府行動計画 格上げ

 厚生労働省は十六日、新型インフルエンザ感染が疑われていた神戸市在住の県立高校三年の男子生徒(17)について、国立感染症研究所の確定検査で感染を確認したと発表した。検疫でなく、ウイルスの国内侵入による感染が初めて確認された。また、同じ高校の男女二人の生徒についても同市環境保健研究所で詳細(PCR)検査したところ、二人とも新型に陽性反応があり感染が濃厚となった。感染研で確定検査する。三人とも海外渡航歴がなく、人から人への感染が広がっている疑いが強まった。 

 舛添要一厚生労働相は同日午後、緊急会見を開き、「今回のインフルエンザは仮に感染しても早めに治療を受けることで多くの方が回復しているが、油断なく対策を講じていくことが必要。正しい情報に基づきどうか冷静に対応していただきたい」と訴えた。

 新型の患者の国内発生を受け、国の行動計画は第二段階「国内発生早期」に進み、これまでの水際対策から感染防止対策に重点を切り替える。国内初の感染確認となった大阪の高校生らのケースで、厚労省は入国前にウイルスの国内侵入を食い止めたと判断、「『国内発生』には当たらない」としていた。

 神戸市は国の行動計画に基づき、感染の可能性がある濃厚接触者をリストアップ、感染拡大防止のために追跡する積極的疫学調査を開始。同市や兵庫県は同日朝、それぞれ対策本部を設置。市は市内の一部の地域で七日間の市立学校の休校や人が集まるイベントの中止、市民への外出自粛要請などを決めた。

 厚労省や神戸市によると、高三の男子生徒はバレーボール部に所属。周囲でインフルエンザがはやっており、一人目が五月八日に部活動を休んだ。同日に他校と試合し、九日に別の二人が部活動を欠席。十日に神戸市外で試合を行い、別の二人が体調不良を訴えた。感染が確認された男子生徒は十二日に登校後、三七・四度の発熱などの症状が出て、市内の医院を受診した。

 また、高校二年の女子生徒(16)は十二日に三八度の熱を出し、この男子生徒と同じ医院を受診。サッカー部に所属する高校二年の男子生徒(16)は十五日に三九度の発熱で市内の別の医院を受診。いずれも簡易検査でA型が陽性となった。

 神戸市によると、三人のほかに、同じ高校で十七人が体調が悪いと訴えており、市が健康状態を確認中。これらの生徒はいずれも市が休校を決めた灘区や東灘区などでつくる学区に住んでいる。

(東京新聞、2009年5月16日夕刊)

**** 東京新聞、2009年5月16日夕刊

週末急転 街に動揺も 新型インフル感染 『神戸まつり』中止

 「新型は既に広がっているのか」-。神戸市東部の公立高校生が新型インフルエンザに感染していることが確認された十六日、生徒が通う学校は教職員らが慌ただしく出入りし、自宅待機となった生徒らは「まさか」と驚きと不安を口にした。十五日開幕した「神戸まつり」も一部の区まつりやメーン行事が中止になるなど市民らに衝撃と動揺が広がった。東京都なども推移を見守っている。 

 神戸まつりの区まつりのうち中央区など三区は中止に。中央区の「ふれあい中央カーニバル」の会場となる三宮・東遊園地では午前九時前、中止を知らせる張り紙が掲示された。

 出店者への連絡に追われた神戸フリーマーケット協会の堂園光啓さん(56)は「信じられない」と絶句。屋台の撤収も始まり、露天商の黒田慈行さん(21)は「二十万円の仕入れが無駄になった」と肩を落とした。

 十七日のおまつりパレードなども中止となり、市民提案型イベントに参加予定だった男性(59)は「準備をしていたのに残念」と話していた。

◆『手打ったが…』校長沈痛

 新型インフルエンザに感染した生徒が通う神戸市東部の公立高校では、校長が報道陣の取材に「打つべき手は打ってきたが…」と、沈痛な面持ちで答えた。

 校長によると、五月に入り生徒の欠席が増え、十三日から健康観察を始めた。同日からの三日間で計十二人が季節性のインフルエンザと診断され、十五日には発熱で数人が早退したという。五月に海外渡航した生徒はいないというが、家族の渡航までは把握しきれていない。この日、週末の部活動を取りやめ、生徒の自宅待機を決定。生徒約千人に伝える作業に追われた。同校には報道陣が集まる中、教職員らが次々に出勤。自宅待機を知らずに登校する生徒もいた。

 一年の女子生徒(15)宅には十六日午前六時四十分ごろ、自宅待機の電話連絡があった。「欠席が増えていたがみんな一般のインフルエンザだと思っていた。まさか自分の高校で新型感染の疑いなんて」と驚いていた。

◆『渡航歴なし』検査後回し 神戸市 生徒の検体3日放置

 新型インフルエンザに感染した神戸市内の高校三年男子生徒の検体は、診察した医師が十二日に提出していたが、実際に詳細(PCR)検査が行われたのは三日後の十五日だった。神戸市医師会は、対応の遅れを指摘している。

 同市によると、生徒を診察した医師は、生徒に海外渡航歴がなかったことから、季節性インフルエンザのソ連型か香港型か-の検査を要請したという。市は「発熱外来の検査を優先するのでいいか」と医師に確認した上で、検査を後回しにしたとしている。

 市医師会は十二日、新型インフルエンザ対策会議で、複数の学校でA型の季節性インフルエンザが流行しているとの報告を注視。「おかしいと思えば検体を提出し検査を」と医師らに促していた。市医師会は「発熱外来の受診者の検査やノロウイルスの検査もあったのでやむを得ない面はあったが、結果的にタイムラグができてしまった」と対応に課題を残したとしている。

(東京新聞、2009年5月16日夕刊)

****** 共同通信、2009年5月15日

封じ込めはできない 第2波に備えた態勢を 「インタビュー」

 世界で感染が拡大している新型インフルエンザは国内流入が時間の問題とみられている。羽田空港の現役検疫官で、著書「厚生労働省崩壊」で日本の感染症対策の問題点を指摘した医師木村盛世(きむら・もりよ)さんに、国や医療機関の対応について聞いた。

-ウイルスの水際阻止が強調されている。

 「過去のインフルエンザで、発症者や濃厚接触者を隔離して封じ込めに成功した例はない。今回も最長7日の潜伏期間があり、海外で感染、発症しない段階で大勢が検疫をすり抜けている可能性が高い。これだけ世界各国に広がって、日本だけ免れられるわけがない」

-検疫に効果は期待できないのか。

 「検疫の意義は国内発生するまでの時間稼ぎ。世界保健機関(WHO)も感染拡大を抑える機能はないとの見解を示している。秋に予想される第2波に備える時期なのに、強化するべき医療現場から医師を引きはがし、検疫の応援に送り込んでいるのが現状だ。防護服を着た検疫官が走り回る姿がテレビに映ればアピールにはなるのだろうが、現場は混乱し始めている」

-具体的にはどんな混乱が生じているのか。

 「多くの医療関係者から、インフルエンザの簡易検査キットが不足していると聞いた。医師数や設備が不十分な医療機関では、感染の可能性がある患者の診療を断っているところもある。予算措置をとり、感染疑いのある人が受診する発熱外来の整備を急ぐ必要がある。国が支援しなければ自助努力だけでは難しい」

-患者は医療機関を頼るしかないが。

 「一般への啓発活動も必要だ。毒性は従来の季節性と同程度である点を理解してもらい過剰反応が起きないようにする。大勢が不安に陥り、感染の可能性がまったくない人まで押し寄せれば、医療機関がパンクし、必要な人が受診できないケースが出てくる」

   ×   ×

 木村盛世氏(きむら・もりよ) 65年生まれ、米ジョンズ・ホプキンス大公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。02年に厚労省入省、統計情報部などを経て羽田空港検疫官。

(共同通信、2009年5月15日)

**** 共同通信、2009年5月14日20時0分

新型インフル3分の1が発熱せず 米医師が報告、早期発見困難に

 メキシコ市の病院で新型インフルエンザの感染者を調べた米国の医師が「患者のうち約3分の1に発熱がなかった」との報告をまとめた。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が13日、報じた。

 発熱はインフルエンザの感染を見分ける重要な指標とされる。報告が事実なら、感染の早期発見と拡大防止が、これまで考えられていた以上に困難になる可能性がありそうだ。

 同医師はメキシコ市の2つの病院で5月上旬、4日間にわたって検診に当たった。報告によると、重症者の多くは高熱を出したが、症状が軽い患者の半数ほどは発熱がなかった。せきや倦怠(けんたい)感は、ほぼすべての患者が訴えた。

 また、患者の約12%が激しい下痢を起こしたという。同医師は、患者の便に新型インフルエンザウイルスが含まれているかどうか調べるようメキシコ側に促したと説明。「ウイルスが便を介して伝染すれば、特に発展途上国での感染拡大の抑止は難しくなるだろう」と話した。

(共同通信、2009年5月14日20時0分)


愛育病院、総合周産期母子医療センター継続を決定

2009年05月16日 | 地域周産期医療

****** m3.com医療維新、2009年5月14日

「宿直は夜勤」なら、手当が支払える財源投入を

----愛育病院・中林正雄氏に聞く

“総合周産期母子医療センター”継続決定の経緯

【村山みのり、m3.com編集部】

 4月24日、東京都に総合周産期母子医療センター(以下「総合センター」)の指定返上を打診していた愛育病院(東京都港区)は、非常勤医師の増員などにより医師の勤務体制が整ったとして、総合センターとして継続することを決定した。 3月の労基署勧告後の院内体制の整備、指定返上を取りやめた背景、今回の出来事が医療界に与えた影響などを、愛育病院院長・中林正雄氏に聞いた(2009年5月1日にインタビュー)。

――総合センター指定の返上を取りやめた経緯をお教えください。また、3月に東京都へ返上を打診した際、理由として、非常勤医師のみによる当直体制、母子医療を専門とする病院であり、救急救命センター等を併設していないことなどを挙げていましたが、これらについての東京都や厚生労働省の見解は。

 これらの2点は、東京都としては差し支えないとの見解が出ました。当直体制については、都立墨東病院でも非常勤医師のみによる当直が行われており、医師が2人揃っていれば良いとのことでした。救急救命センターに関しては、厚労省医政局が、総合センターの設置基準について、連携病院を明らかにし、届け出を行えば良いとする文書を追加しました(編集部注:5月中に都道府県へ通知される予定)。愛育病院は以前から東京慈恵医大、日赤医療センターと連携しています。現実に、そのような病院が多くあるため、医政局も実態に沿ったものとなるよう対応を考えたのでしょう。

 東京都周産期医療協議会は、役員の交代時期であるなどの事情からまだ開催されていませんが、岡井崇昭会長(昭和大学産婦人科教授)から「そういうシステムであれば続けてほしい」との話もあり、続けることとなりました。

 むしろ愛育病院として考慮したのは、総合センターとしての十分な対応が、非常勤の医師でも行っていけるかどうかです。医療技術・知識的には問題ありませんが、総合センターにはコーディネーター的な役割があるため、それができるかどうか。非常勤であるが故に対応ができないということになると、病院としては大変責任が取りづらい。

 4月、過去に愛育病院に勤務し、現在大学に戻っている医師を中心に、経験があり、かつある程度上級クラスの医師に非常勤として来ていただいたところ、大変良く業務を行っていただけたため、これならば実質的には問題はないと担当部長が判断しました。

――労基署の是正勧告への対応、勧告後の勤務体制は。

 労基署へは改善後の体制を報告し、承認を受けました。

 愛育病院では、常勤医15人のうち、妊娠・出産・育児中の女性医師や他院へ出向中の医師などを除く5人の医師が夜間勤務に当たっていましたが、これに加え、現在3人の非常勤医師に来ていただいています。いずれも以前愛育病院で働いていたことのある医師で、夜間勤務はそれぞれ週1-2回、月6-8回程度。なお、これは暫定的な体制で、秋からは常勤医が2人増えるため、それ以降は常勤医で夜間勤務を行えるようになります。

 「36協定」も締結しました。あらかじめ時間外勤務時間数を定める必要がありますが、産科では「月45時間、年間360時間」という法定範囲に近い数字を出すことができるものの、NICUの担当医ではこれが全く不可能でした。結局、NICUの基準に合わせて、特例条項の時間数、標準の約2倍近い時間で届け出ています。おおむね常識的な範囲だと思います。

 現在NICUの医師は6人。これを7人にしなければ、どうしても勤務時間が長く、オーバーワークとなってしまいますが、NICUの医師は常勤・非常勤とも、どうにも見つけられません。

――今回の一連の出来事について、勤務している医師の反応はどのようなものでしたか。

 これまで、愛育病院では当直料を、所定の額に搬送数・分娩数などに基づいてランク付けした金額を上乗せする、という仕組みで支払っていました。これを、労働基準法に基づいた時間外手当とした結果、若い医師では以前よりも手当てが下がった状態が生じています。医長クラスも夜間勤務を行っているため、彼らにとっては多少の増額となりましたが、総額では大きな差はありませんでした。

 30代程度までの若い医師にとっては、月6回ほどの当直は、さほど負担・不満ではなく、むしろ収入源になっていました。産科医療従事者としては普通の回数であり、以前から当直の翌日は半日休みにしています。しかも時間外手当は30万円程度の収入になる。愛育病院は公務員準拠なので、基本給はさほど高くない。そこからすると、当直は少し多めの方が、収入が確保され、休みも取れて良かった。自身の勉強にもなることから、愛育病院では若い医師たちは比較的喜んで当直をしていました。

 そのため、今回労働基準法に沿った勤務体制となり、時間外手当が減ったことにより、その減収分が今後どう補てんされるのか、という不安の声の方がかえって聞かれます。今までそれで生活をしていたのだから、何らかの形で減給保障が必要だと考えていますが、非常勤の医師に支払う給与もあり、病院全体の人件費を大幅に上げる訳にはいきません。これはつらいところです。スタッフの給与の維持がどうしても困難であれば、分娩料を上げることも考えていかざるを得ないかもしれません。

――以前の勤務体制についても、院内の医師の間では特に問題視されていなかったということですか。

 愛育病院の勤務環境は、全国的に見れば非常に恵まれています。院内は平和に業務に当たっていたところへ、急に労基署の監査が入ったため、皆が戸惑ったことは事実です。恐らく、全体的に考えれば、今後の方向性を示しているものだろうと私は認識しています。労基署が指摘をしますよ、と示せば、他の医療機関も自主的にある程度の基準に整備していかなければなりません。それを踏まえた指導なのではないかと考えています。

 愛育病院としては、医師の健康・年齢を考慮して勤務体制を考え、どうしてもやむを得ない部分は金銭面で補う、という対策を取ってきましたが、医師の勤務環境の改善が必要だとわれわれが訴えている時に指導が入ったというのはどういうことなのかを、世間に問わなければなりません。

 やはり一番基本となるのは、医療への財源の振り分けです。夜間勤務をしている医師に対して、当直という名目ではなく、きちんとした額が支払えるような医療費を国が出すということにならなければ、第一の段階はクリアしない。勤務状況は厳しくても金銭的にはある程度優遇されるようになれば、人も増えてきます。その上で、労働基準法の時間を少しずつ基準に近づけていくことが必要です。現在の人数ではどうにもなりません。

 今回非常勤で雇った方々も、本来の職は持っています。非常勤なので労働時間の基準には入りませんが、当人の労働時間は増えています。規約上は解決されて見えても、実際に医師の過重労働という点では何も解決されていません。

――労基署の介入が今後の医療に与える影響は。

 労基署が入ったことにより、今後、夜間勤務は「当直」ではなく「時間外勤務」と扱われるようになります。この方向が示されたのは、現実には大きな問題です。どこの病院でもすぐに対応できる訳ではなく、これから集約化、金銭面での対応など各病院が努力していかなければならないということが、実感されるようになったのではないでしょうか。

 今回、愛育病院に立ち入り調査、是正勧告があったが、国としての全体の対策ができていないのでは困ります。医師の働き方については、これまでパンドラの箱的に開けてこなかった。それを開けて、今後はどうするのか。先行きを心配する人も多くいます。しかし、開けたからには国としてきちんとした対応をするきっかけにしてほしいと思っています。国として「夜勤である」と言ったからには、夜勤手当に相当するだけの医療費をきちんと病院サイドに払うようにすることが不可欠であり、従事する医師を育てることが必要となります。女性医師が仕事を継続できるような支援対策を強力に行うといったような、ポジティブな方向へ進めていただきたい。

 また、厚労省には、産科医療だけではなく、全国の「当直」を行っている医師に適切な夜勤手当を支払った場合にどの程度の財源が必要となるのかという試算をしていただきたい。われわれの試算では2000億円程度と考えられ、1兆円はかからない。小泉改革で2200億円が削減されたが、あれを戻せば充填できる程度の金額です。

――2008年度診療報酬改定で創設されたハイリスク妊娠管理加算、ハイリスク分娩管理加算は、財源投入によるバックアップの一環として機能していますか。

 ハイリスク妊娠、分娩管理加算の創設により、収入は上がりました。愛育病院では、増収分の半額を医師全体へ還元しています。この点数は、本来は医師に還元するためのもの。しかし、医師に還元せず、これ幸いと病院の赤字補てんに当ててしまった医療機関も多くあります。また、還元した場合でも、産科医へ少し払っただけで、同様に周産期医療に携わるNICUへは全く支払われないことが多数です。しかし、NICUがなければ、現在の産科医療は成り立たちません。

 もっとも、医師へ還元していない医療機関の中には、当直は皆が行っているのに、産科医だけに手当てを支払う訳にはいかないと考える施設もあります。愛育病院のように母子医療専門で、すべての医師がこれに携わっている病院ではなく、大学病院や総合病院など色々な科があり、それぞれが夜勤も行っている中では、産科医に限るわけにはいかないという判断もあるでしょう。

――NICUの充実、携わる医師の勤務状況改善には何が必要ですか。

 NICUについては、携わる医師を増やさなければどうにもなりません。今回、産婦人科が少し陽の目を見たのは、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会全体で国と交渉したため。皆にアピールし、入局者も少し増えつつあります。しかし、NICUは小児科の一部であり、少人数である上に、そういった政治的な動きをする時間すらない。親元である日本小児科学会全体が、NICUを何とかしようという動きをすることが必要ではないでしょうか。もっとも、小児科学会でも、NICUに対して理解のある医師がどの程度いるのかという問題はあります。

 行政が対策を行うと、国公立の箱物、病床を増やそうということになりますが、NICUの病床を増やしても診られる医師、コメディカルがいない。それよりも、小児科医になってそこに勤めようという人を増やすことが必要です。箱を作るのは簡単です。しかし、いかに人を育てていくか、また女性医師が就労を続けていけるようにするか。これには社会全体、多方面から対策を行わなければなりません。それが取り組まれていないことが、非常に大きな問題です。

(m3.com医療維新、2009年5月14日)

****** 東京新聞、2009年5月15日

スーパー周産期センター 指定1カ月半 

都民の不安に『応急処置』

 昨年十月、脳出血を起こした妊婦が都立墨東病院など複数の病院に受け入れを断られ死亡した問題を受け、都の周産期医療協議会が、都内三病院を「スーパー総合周産期センター」に指定して一カ月半が過ぎた。救命処置が必要な妊婦は必ず受け入れる全国で初めての方式について、協議会長の岡井崇・昭和大教授に現状と課題を聞いた。 【砂本紅年】

-搬送患者が集中し、パンクするという懸念の声もあったが。

 「まだ始まったばかりだが、対象患者の搬送例はなく、パンクの心配はない。対象患者は多くても年間九十件と見積もっていた。今のところ(患者の)近くの病院が頑張ってくれていると思う」

-妊婦が死亡した問題では、大都市での母体救命救急の危機が浮き彫りになった。

 「母と胎児の両方に対する診療が必要で、産科だけでなく脳神経外科などの関連科、新生児集中治療室(NICU)がそろわないと受け入れは難しい。東京は救急施設の数は多いが、一つ一つの規模が小さい。受け入れ率はもともと全国でも低かったが、高齢出産などでリスクの高い患者が増え、さらに受け入れ率が悪くなった」

-スーパーセンターを発想した背景は。

 「都民の不安に応え“応急処置”として頑張ろうと考えた。本当は、医師が多くてベッドがいつも空いているのが理想だが、今の診療報酬制度では経営が成り立たない。救急医療の診療報酬体系は見直す必要がある」

-センターの医師の態勢は。

 「昭和大病院の場合は産婦人科の当直を三人から四人に増やし、自宅待機が二人。NICU、脳神経外科、整形外科なども自宅待機を置いた。今春、産婦人科の研修医が九人入ったので、一人当たりの当直回数は月四回で増やさずに済んだ」

-産科医不足に必要な対策は。

 「産婦人科が敬遠される理由のトップは当直の多さ。せめて当直の翌日を休みにしたい。いい兆しもある。産婦人科の入局者は今年、全国で五十人増えた。国民が産科医を望み、国も産科を大事にしようとしている雰囲気が学生に伝わり始めたのではないか。今後さらに医療機関の集約を進め、診療報酬改正で手厚くなったハイリスク妊産婦管理加算などが、病院だけでなく医師の収入になるようにすることも必要だ」

スーパー総合周産期センター 昭和大病院(品川)、日赤医療センター(渋谷)、日大板橋病院(板橋)の3カ所。対象患者は脳血管障害や急性心疾患など6種類の妊産婦の救急疾患合併症▽羊水塞栓(そくせん)症など5種類の産科救急疾患の重症▽激しい頭痛や意識障害など6種類の症状があり重篤な疾患が疑われる症例-など。

(東京新聞、2009年5月15日)

****** 共同通信、2009年5月15日

出産費の地域格差1・5倍 所得水準反映、

平均42万円 厚労省研究班が初調査

 赤ちゃん一人当たりの出産費用について、厚生労働省研究班(代表者=可世木成明(かせき・しげあき)・日本産婦人科医会理事)が全国の医療機関を対象に実施した初めての実態調査で、都道府県別の平均額は最大1.5倍の地域格差があることが14日分かった。最も高い東京都が51万5000円、最も低い熊本県は34万6000円で、全国平均は42万4000円だった。

 研究班は、地域格差には住民の所得水準の違いが反映されていると分析。妊産婦と医療機関の双方に対し地域事情に合わせた財政的な支援が必要だとしている。

 調査したのは分娩料や入院料、新生児管理料、部屋代などの総額。今年1月、全国約2900の診療所・病院を対象に実施、59%の約1700カ所から回答を得た。

 通常の出産は保険適用外の自由診療で、価格設定は医療機関に任されている。医療機関別の出産費用をみると、最高の81万円と最低の21万8000円で4倍の格差があった。

 全国平均の約42万円は、公的医療保険から妊産婦に全国一律で支給される出産育児一時金の現行額の38万円を上回った。一時金は、10月から1年半に限り4万円の引き上げが決まっており、全国平均額には見合う水準となる。

 また、医療機関側が「適正と考える出産費用」は平均53万5000円。緊急時に備えた人員配置の経費などは妊産婦側に請求していない。研究班は「真に安全な出産管理には60万円は必要」と結論付けている。

(共同通信、2009年5月15日)