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今、多くの産科医が、その激務に耐えられず、産科業務に従事することを辞めていて、全国各地の多くの産科施設が閉鎖に追い込まれ、連日、新聞各紙で大きく報道されている。
厚生労働省や日本産科婦人科学会などが公表している資料によれば、病院における産科医の激務を緩和し、地域の産科医療を存続させるための今後の方策として、国を挙げて、産科医の集約化策を柱にすえて大きく動き出そうとしているようだ。
報道されている多くの事例では、産科医が撤退して産科が閉鎖された病院にも助産師がそのまま残っていることが多い。彼女達の多くは、病院の産科以外の部署で看護師として働いている。要するに、助産師資格を持っていて助産業務に従事する意欲が十分にありながらも、助産業務には従事していない者が日本中に非常に多く存在していることになる。
ところがその一方で、現在、分娩を取り扱っている産科施設の多くが、助産師不足で悩んでいるという矛盾した現実もある。
今後、国の政策として、日本の多くの地域で、産科医療の生き残りのために、瀕死の状態にあるいくつかの産科施設が統合されて、産科医の集約化策が実行に移されてゆく筈である。その際には、産科医と一緒に助産師も連動して同じ施設に集約化することが非常に重要だと思う。
産科医が撤退して分娩取り扱いを中止している病院にとり残された助産師達が、院内助産院を立ち上げるような動きが一部に報道されている。産科医の体制が不十分となり安全な分娩管理ができなくなったという理由で、産科医が撤退し分娩の取り扱いが中止となった病院で、とり残された助産師だけで分娩の取り扱いを再開するような動きが全国的に広がってゆくようであれば、分娩時の安全性確保という観点からは非常に問題だと思われる。
参考:
産婦人科医療を安定的に供給する体制の提案、日本産科婦人科学会
緊急提言(日産婦委員会):ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う病院は3名以上の常勤医を!
拡大産婦人科医療提供体制検討委員会配付資料
朝日新聞 神奈川: 助産師の活躍期待
****** 読売新聞、2006年6月16日
どうする?私たちのお産 “マイ助産師”見つけよう
静岡県浜松市の主婦佐藤友子さん(30、仮名)は2人目のお産に、同市の「石井第一産科・婦人科クリニック」を選んだ。6人の助産師が、母乳育児に熱心に取り組み、入院中は毎日母乳の勉強会があり、丁寧に教えてくれた。
3年前に初めてのお産で入院した病院では、母乳で育てたかったのに相談に乗ってもらえず、ノイローゼのようになってしまった。
「1人目の時、あんなに悩んだのがウソみたいです」
同クリニックでは、お産も助産師が中心となり、できるだけ医療処置を行わない自然なお産を目指している。院長の石井広重さん(56)は「いよいよ生まれるという時に呼ばれていくけれど、僕が分娩(ぶんべん)室にいるのは10分程度。そうでなければ、常勤医師1人で年間600件のお産はこなせない」
産科医が不足している今、リスクの低いお産は助産師に任せてはどうか、という議論が盛り上がっている。しかし、石井さんのクリニックのように、助産師が活躍している診療所は少ない。
厚生労働省によると、日本の赤ちゃんの47%は、ベッド数19以下の診療所で生まれている。ところが、2万6000人いる助産師のうち、診療所勤務は2割足らず。雇用は義務付けられているわけではないため、1人もいない診療所もある。
診療所に助産師が少ない背景には、待遇の問題などもあるが、横浜市などで出産準備クラスを開いている日本出産教育協会代表の戸田律子さんは「妊婦がもっと助産師の役割を知り、活躍している所を選ぶようになれば、そうした施設が増える手助けにもなるのでは」と話す。
戸田さんのクラスに来る妊婦の中にはお産の知識はあっても、看護師と助産師の区別が付かない人が3~4割はいるという。
実際どこで産むか選ぶ際、助産師の有無を考慮する妊婦はあまりいない。首都圏のある総合病院は、助産師が妊婦健診を担当する「助産師外来」を導入し、きめ細かいサービスに取り組んでいるが、きれいな病室や豪華な食事が売り物の診療所に妊婦が流れ、ベッドが余っているという。
このような状況で、自ら「助・助産師」を名乗り、母親と助産師をつなぐ活動に力を入れる女性もいる。横浜市の熊手麻紀子さんは3人の子の出産や子育てを助けてもらった経験から、2001年に母親の体験談を集めた「だから日本に助産婦さんが必要です」を自費出版した。
「助産師は、妊娠・出産や子育てのプロ。お産の場でもっと活躍すれば、女性も支援が受けやすいし、医師の負担も減らせるはず。ホームページで情報発信している人も多いので、相談ができる“マイ助産師”を見つけて」と、熊手さんは話している。
(2006年6月16日 読売新聞)
****** 読売新聞、2006年5月1日
助産師6700人不足
産科施設 75%“定員割れ”
全国的に産婦人科医不足が問題になる中、出産を扱う産科施設の75%で助産師が不足し、その不足数は約6700人に上っていることが日本産婦人科医会(会長・坂元正一東大名誉教授)の「助産師充足状況緊急実態調査」で明らかになった。
厚生労働省の助産師の需給見通し(1700人不足)を大幅に上回るもので、産科医に加え、助産師も不足と我が国の産科医療が極めて深刻な状況にあることが改めて浮き彫りになった。
調査は昨年12月から今年2月にかけて、産婦人科を標榜(ひょうぼう)するほぼすべての医療機関6363施設を対象に実施。5861施設から回答(回答率92・1%)を得た。
分娩(ぶんべん)を取り扱っている医療機関(有床診療所と病院)は2905施設。現在、計1万6748人の助産師(うち病院は1万3872人)が勤務していた。
これら産科施設が、24時間態勢の整備に加え、週40時間勤務や助産師自身の産休、育児休暇の確保など、労働基準法を順守する、労働環境を維持するには計2万3466人の助産師が必要で、計6718人(病院は2515人)が不足していることが分かった。
また、分娩を扱う医療機関で、必要な助産師の数を満たしていなかったのは75・3%に当たる2188施設に上った。
厚労省の今年の助産師の需給見通しによると、助産師の不足は1700人程度と今回の調査より少なかった。
同医会常務理事の佐藤仁(まさし)・舘出張(たてでばり)佐藤病院院長(群馬県高崎市)は「この深刻な状況が続けば、多くの産婦人科の医療機関が機能マヒに陥る。スタッフ不足の過重な負担を避けるため、現在は許容されていない、看護師が分娩前に妊婦の容体を監視・管理することを、認めてもらいたい」と話している。
助産師 看護師資格を持つかそれと同等の教育を受けた女性が、国家試験に合格すると免許が与えられる。正常分娩の場合、医師の監督なしで病院、家庭などでの出産に立ち会い、介助、支援ができる。助産婦と呼ばれていたが、法改正に伴い、2002年3月に助産師に改められた。
(2006年5月1日 読売新聞)