元・副会長のCinema Days

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「トゥルー・グリット」

2011-03-25 06:33:46 | 映画の感想(た行)

 (原題:TRUE GRIT )新星ヘイリー・スタインフェルドの存在感に圧倒される一編だ。父親の仇を討つため、連邦保安官コグバーンと共に遙かなる西部の荒野を行く14歳のマティに扮した彼女は、コグバーン役のジェフ・ブリッジスや彼らに同行するテキサス・レンジャー役のマット・デイモン、敵役のジョシュ・ブローリンといったベテラン俳優たちを相手に一歩も引かない演技の確かさを見せる。

 何があってもへこたれない精神力と、海千山千の荒くれどもと五分に渡り合うタフ・ネゴシエーターぶり。この年齢にして一家を支える使命感を持ち、自分が何をやるべきなのかを熟知している。そんな凛とした佇まいと清潔感は、コグバーン達はもとより悪い奴らも一目を置くほどの存在の大きさを醸し出す。そんなヒロイン像を見事にスクリーン上に創造したスタインフェルドを起用した時点で、本作の成功は約束されたようなものだろう。

 元ネタのジョン・ウェインがアカデミー賞を獲得した「勇気ある追跡」(1969年作)は観ていないが、この映画単体で見てもかなり出来は良い。リメイクしたのがコーエン兄弟というのは少し意外だが、いつもの一種“病的な”シチュエーションがないことを別にすれば、追いつめられた人間が開き直っていくというプロセスにコーエン兄弟の今までの作品に通じるものはある。強がってはいても弱さを隠せない西部の男達の描写も“毎度お馴染み”といった具合だ。

 ただし、今回は製作総指揮のスティーヴン・スピルバークの持ち味も強く出ていると思う。キビキビとしたドラマ運びや、広がりのある映像空間の創出にそれを感じる。特に、終盤に映し出される満天の星空をバックに馬を走らせるシークエンスなど、多分に作り物めいてはいるが目覚ましい美しさと魅力に溢れている。おそらくは、スピルバーグの参加が広範囲な支持を集めるのに貢献したのだろう。

 映画のラストには大人になったマティを登場させる。少女時代に体験した西部での冒険のあとにも、彼女には人生の苦難が待っていた。それにしっかりと対峙して生きたマティこそが真の勇気(トゥルー・グリット)の持ち主であると、高らかに宣言しているようだ。

 カーター・バーウェルの音楽、ロジャー・ディーキンスのカメラ、共に言うこと無し。惜しくもオスカーは逃したが、受賞作の「英国王のスピーチ」よりはずっと好きな作品だ。本年度のアメリカ映画のひとつの収穫である。

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