(原題:Che Part One)対象が描き切れていない感じだ。革命家エルネスト・チェ・ゲバラのキューバ時代を描く伝記映画だが、史実を時系列に添って並べていないことから、革命のプロセスを追うことをせずにゲバラ自身の人物像に迫ろうとしていることは分かる。しかし、それがどうも不十分なのだ。
映画は64年にゲバラが国連総会で演説する場面、およびインタビューのシーンなどをドキュメンタリー・タッチで綴り、これが全編の基調となってあとはカストロと共にキューバに上陸し、首都ハバナに至る道程を描いている。だが、ゲバラの国連総会での言動がどうして物議を醸したのか、その背景がキューバでの戦いの部分ではまったく説明されていない。
それに戦闘の最前線では沈着冷静に振る舞っている彼と、国連本部における不用意な発言で顰蹙を買うゲバラの姿とが全然オーヴァーラップしないのだ。革命を成し遂げてから何かが彼の中で変わったのだとは思わせるが、それについて何の明示も暗示もない。明らかにアプローチの違う二つのパートが、互いに何ら関係性を持たせられないままに平行線をたどっているような印象を受ける。これは作劇の不手際と言わざるを得ないだろう。
クセ者である監督のスティーヴン・ソダーバーグに平易なドラマツルギーなど期待する方がおかしいのだろうが、それでも革命が起こる背景やアメリカとの確執、ソ連など東側との距離感など、舞台設定に関する十分な言及がないのは愉快になれない。策を弄した挙げ句、ゲバラの内面がまったく浮き彫りにされていないのは、失敗作と評されても仕方がない。
本作を観る前にゲバラの青春時代を題材にした「モーターサイクル・ダイアリーズ」をもチェックした方が良いかもしれない。それだけ本作は独立した作品としての完成度に欠ける。ソダーバーグ作品としても中南米をネタにした「トラフィック」には遠く及ばない出来だ。
主演のベニチオ・デル・トロは好演だが、予想の範疇を出るものではない。脇のキャスティングにも特筆すべき部分はない。戦闘場面を軽く流したのは意図的なものであることは分かるが、気勢が上がらないのもまた事実。展開にうまくメリハリを付けられていない。後日公開される第二部の「チェ 39歳別れの手紙」に対する鑑賞意欲も減退してきた。