元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「シー・ユー・イエスタデイ」

2021-02-05 06:33:17 | 映画の感想(さ行)

 (原題:SEE YOU YESTERDAY )2019年5月よりNetflixにて配信。巷では“タイムトラベルを題材にした若者向けSF映画に、無理矢理に時事ネタを詰め込んだ、居心地の悪いシャシン”とかいう評価が多いらしいが、個人的には決して悪くない内容だと思う。すこぶる現代的なモチーフを取り上げたという意味で、その存在感は捨てがたい。

 ブルックリンに住む女子高生CJは、電気科クラスではトップの成績を収め、有名工科系大学への進学も狙えるほどだった。親友セバスチャンと共に科学展に出品しようとしていたのは、時間を数日遡れるタイムマシンである。そんな折、CJの兄カルヴィンが強盗と間違われて警官に射殺されてしまう。彼女は兄を救うため、事件が起こった日にタイムトラベルするが、今度は別の者が犠牲になる。何とかして事態を好転させたいCJは、万全の準備を整えて、再び事件当日に戻るのだった。新人監督ステフォン・ブリストルが、自身の短編映画を長編として作り直したものだ。

 製作にスパイク・リーが関与していることからも、本作が単純なライト感覚のSFではないことが窺える。カルヴィンは理不尽な状況で命を落とすが、それはいわゆるBLM運動の発端となった数々の事件と同じ構図である。なお、本作はBLM運動が盛り上がる切っ掛けになったジョージ・フロイド事件(2020年)よりも前に作られている。

 ヒロインは身内に起こった悲劇を“無かったこと”にするため奮闘するが、運命の力は個人の努力をまったく寄せ付けない。それでも、彼女は行動せざるを得ない。あきらめることは、即ちこの不条理な現実を押し付けられることになるからだ。明朗な学園ドラマのエクステリアを纏って始まる本作に、辛い世相を反映させることは観客の賛同を得られないのかもしれないが、言い換えれば、シビアな社会情勢に無関係ではいられない場所なんか存在しないという、作者の主張が明確化しているとも言える。賛否両論あると思われるラストの扱いも納得できる。

 ブリストルの演出はソツが無く、ドラマが停滞するようなことはない。主人公だけではなく、周りのキャラキターの扱いも地に足がついている。主演のエデン・ダンカン=スミスをはじめ、ダンテ・クリッチロウ、マーシャ・ステファニー・ブレイク、ジョナサン・ニーブスといったキャストは馴染みはないが、皆悪くない演技をしている。あと、教師役でマイケル・J・フォックスが出ているのが嬉しかった。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする