元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「若葉のころ」

2016-08-31 06:21:06 | 映画の感想(わ行)

 (原題:五月一號)欠点はあるが、それを軽くカバーしてしまうほどの魅力がこの映画にはある。本当に観て良かったと思える、台湾製青春映画の佳作だ。長らく忘れていたピュアな感覚が戻ってきたような、そんな甘酸っぱい気分を味わうことが出来る。

 主人公バイは台北に住む17歳の女子高生だ。両親は離婚しており、今は母と祖母との3人暮らしである。高校生活は順調であったが、ある日、母のワンが交通事故に遭い、意識不明の重体となってしまう。そんな中、バイは母のパソコンに初恋の相手リンに宛てた未送信メールがあるのを発見する。ワンは現在でもリンのことを忘れられないのだ。バイは母に代わってリンに“会いたい”とメールを送る。一方、リンはいまだに独身で、そこそこ実入りの良い仕事には就いているものの、私生活はあまり恵まれてはいない。時折、30年前の高校時代を回想し、初恋の人だったワンのことを思うのだった。

 現在の出来事と、リンとワンが高校生だった80年代が交互に描き出されるのだが、その段取りが上手くいっているとは思えない。バイの友人の男関係がどうのとか、高校時代のリンが担任の女教師に憧れていたが思わぬ“真相”を突きつけられて動揺するとか、明らかに余計なエピソードが無理筋で挿入されており、映画のテンポが鈍くなると同時に上映時間が無駄に長くなっている。

 それでも、バイと若い頃のワン、そしてリンの微妙な内面をすくい取る演出には惹き付けられてしまう。出色なのは、高校生のリンがビージーズの「若葉のころ」の歌詞を中国語に翻訳する課題を教師から与えられることで、この曲が後半のドラマを形成する重要な“小道具”になっていること。言うまでもなくこの曲は「小さな恋のメロディ」(71年)の挿入歌であり、歌詞の内容も映画の内容と微妙にシンクロしている。そして終盤近くの感動シーンの伏線でもある。

 ラストは御都合主義かもしれないが、後味は良い。この映画がデビュー作になる監督のジョウ・グータイはミュージック・ビデオの演出家らしいが、映像の訴求力には目覚ましいものを感じる。原題にもある5月の季節感の描出など、悩ましいほどだ。

 バイと若い頃のワンを演じるルゥルゥ・チェンはとびきりの美少女ではないものの、表情の豊かさとしなやかな身のこなしで観る者を魅了する。高校時代のリンに扮したシー・チーティアンもナイーヴな好演。現在のリン役のリッチー・レンとワン役のアリッサ・チアも堅実な仕事ぶりを見せる。

 関係ないが、現在のリンの友人がオーディオ・ショップを営んでおり、リン自身も高級な機器を導入しているのは印象的だった。リンの自宅にあるのは米国McIntosh社のスピーカーXR290を中心としたシステムで、日本円にして総額一千万円を軽く超えるだろう。80年代の回想シーンでもオーディオ機器がフィーチャーされている箇所があり、監督の趣味をあらわしているのかもしれない。
コメント
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