元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「日本で一番悪い奴ら」

2016-07-25 06:20:55 | 映画の感想(な行)

 万全の出来ではないが、十分楽しめる快作であることは確かだ。少なくとも、やたら深刻ぶっている割には警察内のチマチマしたもめごとに終始している「64(ロクヨン)」の原作よりも、数段面白い。さらに本作は実話を下敷きにしており、まさに“事実は小説よりも奇なり”を地で行くインパクトの大きさが光る。

 大学柔道部での腕を買われて北海道警察に入った諸星要一だが、所詮は“体育会系要員”でしかなく、26歳で道警本部の刑事にはなるが、捜査も事務も満足にこなせない。成績抜群の先輩刑事の村井定夫は、諸星に“この世界も成果主義だ。とにかく犯人を捕まえて点数を稼ぐしかない。そのためには形振り構わぬ営業活動と、S(協力者=スパイ)を作ることが必要だ”と指導する。

 早速諸星は自分の名刺をばら撒き、組の内通者を得て暴力団員を次々と逮捕。その功績で本部長賞を授与される。調子に乗った諸星はヤクザの親分である黒岩と兄弟盃を交わし、彼から“業界内”の情報を得ると共に、ロシアルートの銃器横流しに精通するSも作り、拳銃の摘発にも大々的に乗り出す。黒岩はさらに大きな計画を諸星に持ち掛けるが、それが税関や道警本部及び警視庁をも巻き込む日本警察史上最大の不祥事に繋がることになる。2002年に実際に道警で起こった“稲葉事件”を元にした実録物だ。

 とにかく、警察の中にはびこる悪しきノルマ主義の扱いが強烈だ。警察庁は95年の長官狙撃事件を受けて、銃器取締の特命部署を全国の警察本部に設置する。その意図は悪くはないが、いつの間にか“銃器を押収すること”自体が目的化し、数字を挙げるため暴力団との“取引”が常態化。肝心の治安の維持なんかどうでも良くなっている。

 これは警察に限ったことではなく、役所だろうが民間企業だろうが同じこと。組織が大きくなってくると上層部が官僚化し、役にも立たない“仕事のための仕事”が大手を振って罷り通るようになる。それが行き詰まってくると愚にも付かない“責任のなすり合い”が横行。結局はウヤムヤに終わる。実際にはこの事件は発覚して10年以上経つのに、何ら根本的解決が成されていないことを見ても、それは明らかだ。

 諸星を演じる綾野剛は絶好調。先輩の言うことを真に受け、何ら疑問も持たないまま突っ走る単細胞ぶりを賑々しく表現している。果たしてそのハイテンションが事実通り長い期間にわたって持続するのかどうかは別にして(笑)、役柄としては目覚ましい求心力を発揮していると言えよう。ピエール瀧や青木崇高、中村獅童、YOUNG DAIS、矢吹春奈といった濃い面々も適役である。

 白石和彌の演出はケレン味たっぷりだが、それがワザとらしくなる寸前で抑制しているあたり、見上げたものだ。時代背景や主人公の内面描写に関しては不十分ではあるものの、絶妙のスピード感で乗り切っている。東映マークにふさわしいピカレスク編で、観る価値は大いにある。
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