犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

河野談話の誤訳(1)

2014-03-16 23:35:56 | 慰安婦問題

 李明博前大統領の竹島上陸以来、悪化の一途をたどっている日韓関係は、朴槿恵大統領 の代になっても一向に改善されず、なぜか従軍慰安婦問題がいまさらのようにクローズアップされているのが不思議です。

 最近では、従軍慰安婦問題について日本が新しい提案をしないかぎり、首脳会議を開かないなんて言ってます。河野談話の見直しを約束していた安倍首相は、最近になって「見直しはしない」などと言い、韓国側がこれを「評価」しちゃっています。

 中央日報は3月16日の社説

「日本の安倍晋三首相が14日、日帝時代に慰安婦の強制動員と軍・官憲の介入を認めた河野談話を修正せず継承するという立場を明らかにした。これに対して韓国政府はひとまず肯定的に評価した」

と伝えています。


 同社説は、河野談話について

「1993年8月に当時の河野洋平官房長官は日本軍の慰安婦強制動員の事実を日本の閣僚としては初めて認め謝罪した。」

と紹介。韓国では河野談話が「慰安婦強制動員」を事実として認めたものと位置づけられています。

 そんなはずはないけどなあ、と思って、あらためて河野談話をみてみると…(→リンク


慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話 平成5年8月4日

 いわゆる従軍慰安婦問題については、政府は、一昨年12月より、調査を進めて来たが、今般その結果がまとまったので発表することとした。

 今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

 なお、戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった。

(以下略)

 これをもって、「日本軍の慰安婦強制動員の事実を認めた」というのは、ずいぶん強引な気がします。談話の中で、「日本軍の慰安婦強制動員」に関する部分は、

「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」

という部分でしょう。

 これを詳しく読み解くと、まず、冒頭の「慰安婦の募集は、軍の要請を受けた業者が主として当たった」という文には、「主ではないが、軍の要請を受けなかった業者も募集を行った」ことが示唆されています。

 「その場合も」というのは、「軍の要請を受けた業者が募集した場合も」。これを解釈すれば、「軍の要請を受けなかった業者ならいざしらず、軍の要請を受けた業者の場合でさえも、(本来あってはならない)甘言、強圧による等、本人の意思に反して集められた事例が多かった」

 「事例が多かった」という表現には、「そうではなかった事例も存在した」ことが示唆されています。すなわち、「甘言や強圧などによらない募集、本人たちの意思に反することなく集められた事例もあった」という意味です。

 「更に、官憲等が直接これに加担したこともあった」は、「官憲、すなわち日本の警察が、「これ」すなわち「慰安婦の募集」に直接加担した事例があった」と読み取れます。

 「直接加担する」というのは、日本語として少しおかしいですね。「加担する」は、「力を貸す」こと。「直接」は「他のものを仲立ちにしたり経由したりしない」という意味です。また、「事例があった」というのは、「そうではない事例のほうが多かった」ことが暗示されています。

まとめると、

 「慰安婦の募集は業者が行ったが、業者の中には軍の要請を受けた者が多く、業者は(本人たちの意思によって集められた事例もあったが、)甘言、強圧による等の方法で、本人たちの意思に反して集めた場合が多く、そのような業者の募集に対し、日本の警察が力を貸した事例があった(がそれほど多くなかった)」

 「官憲が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」という部分は、「談話」の作成に関わった関係者の証言により、「慰安婦の証言以外に、官憲の加担を示す資料はなかった」ことが明らかになっているため、河野談話を見直そうという動きがあるのはご存じの通り。

 それはともかく、韓国の新聞が、上記の談話を、「日本軍の慰安婦強制動員の事実を認めた」と解釈するのは、意図的な拡大解釈したのか、それとも原文の日本語を正しく読解できなかったのか…。

 そこで、談話の韓国語バージョンを見てみました。韓国のウィキペディアにあった訳文は以下の通り(→リンク

이른바 일본군 위안부 문제에 대해서 정부는 재작년 12월부터 조사를 진행해 왔으나, 이번에 그 결과가 정리되었으므로 발표하기로 하였다.
이번 조사 결과, 장기간에, 또한 광범한 지역에 걸쳐 위안소가 설치되어 수많은 위안부가 존재했다는 것이 인정되었다. 위안소는 당시의 군 당국의 요청에 의해 설영된 것이며, 위안소의 설치, 관리 및 위안부의 이송에 관해서는 구 일본군이 직접 혹은 간접적으로 이에 관여하였다. 위안부의 모집에 대해서는, 군의 요청을 받은 업자가 주로 이를 맡았으나, 그 경우에도 감언, 강압에 의하는 등, 본인들의 의사에 반하여 모집된 사례가 많이 있으며, 더욱이 관헌 등이 직접 이에 가담하였다는 것이 명확하게 되었다. 또한, 위안서에서의 생활은 강제적인 상태 하에서의 참혹한 것이었다.

 これを見ると、もっとも重要な「更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった」の部分に、見過ごすことのできない違いがあります。

 韓国語のほうは「更に、官憲などが直接これに加担したことが明らかになった」となっているのですね。

 韓国語版では「こともあった」が訳されていません。

 また、日本語の原文の「直接」は韓国語でも同じ「直接(チクチョプ)」が使われていますが、韓国語の「直接」は、「自分で、自ら」というニュアンスが強いのも問題です。

 つまり、韓国語版によれば、「業者が行った甘言や強圧などによる、本人の意思に反した募集に、(例外なく)日本の警察自ら加担したことが明らかになった」という意味になるのです。


 それでもなお「日本軍の慰安婦強制動員を認めた」と解釈するのは無理だと思いますが、この誤訳が、新聞社の誤った解釈を後押ししていることは確かです。

 安倍首相は、河野談話を見直す考えはないことを表明しましたが、少なくとも河野談話の韓国語訳の見直しを韓国側に求めるべきです。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 慰安婦の契約 | トップ | 河野談話の誤訳(2) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

慰安婦問題」カテゴリの最新記事