弁理士の日々

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震災前の原発事故防止対策~国会事故調報告書

2012-07-22 14:52:01 | サイエンス・パソコン
福島原発事故に関し、今年7月5日に国会事故調が報告書を発表しました(ダウンロードサイト)。
地震発生後の1号機に関しては、このブログでも国会事故調が指摘した1号機の初期事象としてまとめました。

震災発生に至るまでの、原発の地震・津波対策についてはどのように報告されているでしょうか。

去年の末に公表された政府事故調中間報告に関しては、このブログで以下の記事としてまとめました。
原発事故政府事故調中間報告~津波予防対策(主に東電について)
原発事故政府事故調中間報告~津波対策と原子力安全保安院

政府事故調の中間報告と対比しながら、今回の国会事故調の報告書(本文)を読んでみました。
---国会事故調報告書目次などから---
第1部 事故は防げなかったのか?……57
1. 2 認識していながら対策を怠った津波リスク ・・・・・・82
1. 2. 1 津波想定と被害予測の変遷 ・・・・・・・・・・・・82
2) 地震調査研究推進本部の長期評価以降 ・・・・・・・・・・85
 e 地震本部の長期評価:平成4(2002)年7月
 f 溢水勉強会:平成18(2006)年5月
 g 耐震設計審査指針の改定:平成18(2006)年9月(3回目の津波想定見直し)
 h 貞観津波考慮の指摘:平成21(2009)年6月
---以上---

上記のうち、e、hについては政府事故調中間報告でも取り上げられています。地震調査研究推進本部について、政府事故調では「推本」と略称し、国会事故調の上記箇所では「地震本部」と略称しています。ただし、国会事故調報告書の後半部分では、政府事故調と同様「推本」と略称していました。

f の溢水勉強会に関しては、政府事故調報告書では報告されていないようです。
溢水勉強会は、スマトラ沖津波(平成16(2004)年)や宮城県沖の地震(平成17(2005)年8月)を受けて、想定を超える事象も一定の確率で発生するとの問題意識を持ち、保安院と独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が平成18(2006)年1月に設置した勉強会だ、と記載されています。
この勉強会で、O.P+10mの津波が到来した場合、建屋への浸水で電源機能を失い、非常用ディーゼル発電機、外部交流電源、直流電源全てが使えなくなって全電源喪失に至る可能性があることが示され、それらの情報が、この時点で東電と保安院で共有されました。(85ページ)
溢水勉強会の結果を踏まえ、平成18(2006)8月の検討会において、保安院の担当者は、「海水ポンプへの影響では、ハザード確率≒炉心損傷確率」と発言しています。報告書は注釈で「津波の発生確率が炉心損傷の確率にほとんど等しいということは、(海水ポンプを止めるような)津波が来ればほぼ100%炉心損傷(炉心溶融を含む)に至るという意味であろう」と注釈しています。

また、e 地震本部の長期評価では、推本の超過評価の中で「福島第一原発の沖合を含む日本海溝沿いで、M8くらすの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生すると予測した」とあります。推本の評価で地震発生確率がこのように具体的に示されていることは今回初めて知りました。

政府事故調中間報告では、2002年の推本(地震本部)の長期評価が東電に伝わり、東電内部では福島原発を高い津波が襲うシミュレーションを実施していたにもかかわらず、対策をとっていなかった状況を克明に報告しました。ただし政府事故調では、原子力安全保安院に関しては必ずしも深く責任を追及できていない状況でした。

それに対して今回の国会事故調報告書では、政府事故調中間報告にはなかった「溢水勉強会」について詳細に触れました。推本の長期評価と溢水勉強会の結果を重ね合わせれば、福島原発を高い津波が襲う確率が存在し、津波が来ればほぼ100%炉心損傷(炉心溶融を含む)に至ることが、保安院においても認識されていたことが明らかです。
溢水勉強会は保安院が設置した勉強会ですから、ここで得られた結果を規制として反映すべき保安院の責任が明らかです。

政府事故調中間報告では、もちろん保安院がどのように対応していたのかという「事実」について知り得たところを記述しているのですが、保安院を責める口調はマイルドでした。それに対して国会事故調報告書は、政府事故調中間報告に比較して、保安院を責める舌鋒が鋭くなっていると感じました。

政府事故調の最終報告は、明日23日に公表されるようです。政府事故調中間報告、国会事故調報告書とどのような一致点・相違点があるのか、注目しています。

なお、今回の原発事故に関しては、政府事故調、国会事故調、民間事故調、そして東電社内事故調が並立しました。このような並立を、私はとても良いことだと思っています。複数の団体がそれぞれ異なった視点で事故を観察し、お互いが切磋琢磨して真相に迫ろうとしている姿勢が見受けられます。
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