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南シナ海ハーグ裁定と日本の安全保障

2016-07-16 11:27:34 | 歴史・社会
南シナ海領有権、「中国に歴史的権利なし」 国際仲裁裁判所
AFPBB News 7月13日(水)10時10分配信
『南シナ海の領有権をめぐってフィリピンが中国を提訴した裁判で、オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所は12日、中国には同海域の島々に対する「歴史的権利」を主張する法的根拠はないとする裁定を下した。
 同裁判所は、中国が南シナ海での領有権を主張するために独自に設定している境界である「九段線」の内側の海域について「中国が歴史的権利を主張する法的根拠はないと結論付けた」と述べ、「中国はフィリピンの主権を犯している」とした。
 13年に中国を提訴したフィリピンは仲裁裁判所の裁定を歓迎した。一方で中国外務省は同日「裁定は無効で何の拘束力もない。中国はこれを受け入れないし、認めない」と真っ向から拒絶した。さらに「第三者によるいかなる手段の紛争解決も受け入れない」とし、領有権問題に関する長年の姿勢を繰り返した。』

習近平中国は、南シナ海全体の実効支配を手放そうとしません。
私は以前から、中国にとっての南シナ海の重要性は、南シナ海を中国のミサイル潜水艦の活動場所にするためではないか、と推定していました。南シナ海の岩や暗礁を埋め立てて軍事基地にし、ミサイル潜水艦の基地を設ければ、基地から南シナ海の深い部分まで敵に知られずに潜水艦を派遣することができるからです。
その場合、安全保障上のリスクが生じるのは、決して南シナ海に面する国や米国のみではなく、日本にも重大な安全保障上のリスクが生じるのです。

昨2015年7月18日、安全保障関連法案において、以下のように記事にしました。
《普通の国であれば当然に行使できる集団的自衛権》
『現代世界において、それぞれの国は集団的自衛権を保持し、健全な普通の国家であれば、国と地域の平和と安全を確保するために必要であれば当然に集団的自衛権を行使し得るものと考えます。
日本を取り巻く情勢を見ると、同盟国であるアメリカは、オバマ大統領が「世界の警察官であることをやめた!」と宣言し、実際に軍事費は大幅に削減されつつあります。
一方で中国は、周辺地域で覇権を握ろうとする思惑が露わであり、南シナ海でも東シナ海でも膨張の機会を虎視眈々と狙っている状況です。南シナ海が中国の制海権下におかれ、中国のミサイル潜水艦が南シナ海の底を遊弋するようになれば、横須賀に司令部を置く米国第7艦隊はハワイまで撤退することになるでしょう(飯柴智亮著「2020年日本から米軍はいなくなる」)。
このような状況下で、日本と周辺地域の平和を守るために必要なのは「抑止力」と「対話」であると考えられます。米国による抑止力が減退している状況下で、日本は何をなすべきなのか、その点を考えると、集団的自衛権をどのように取り扱うのか、真剣に討議すべき時期だと思われます。普通の国であれば集団的自衛権を保持して平和を守ることは当然に認められているのですから。』

飯柴智亮著「2020年日本から米軍はいなくなる」には、横須賀を母港とする米国の第7艦隊について以下のように描かれています。
横須賀の米第7艦隊は絶対に必要。
現在、中国は800~900のミサイル発射台を持ち、そのうちの100~150が在日米軍向けと予測される。第7艦隊の攻撃型原潜にはトマホークが200発搭載されている。ターゲットリストには中国の司令部とミサイル発射台100~150の情報すべてが入っている。中国が横須賀に向けてミサイルを発射する前に、アメリカの原潜からのミサイルですべて潰される。だから、横須賀の第7艦隊はまだ大丈夫。
中国海軍が潜水艦発射型弾道ミサイルJL-2のような長距離高性能ミサイルを200発、実戦配備するまでだが。
横須賀を攻撃できるようになるのは2035年頃だろう。そのときは、フィリピンのスービック基地に横須賀と同様の施設を造って、フィリピンと横須賀に第7艦隊を分散させる。さらに危険だと判断すればその後方にあるハワイを使う。』

陸上に設けられた現在の中国のミサイルは、少なくとも横須賀の第7艦隊母港をターゲットとするものについては、それが発射される前に、米国原潜から発射されるミサイルによって無力化されるというのです。しかし、中国がミサイル潜水艦を十分に配備したら話は別です。アメリカは中国のミサイル潜水艦を無力化できないので、中国がその気になれば横須賀は破壊されるでしょう。フィリピンもだめですね。そうなると、米第7艦隊はハワイまで撤退します。

こう考えると、南シナ海を中国が支配して暗礁を埋め立てて軍事基地にするということは、日本の安全保障に重大な影響を及ぼします。
また中国にとっても、南シナ海を中国潜水艦の安全な内海にできれば、まずは第7艦隊を横須賀から追い出すことができますし、さらにハワイや米本土をミサイル潜水艦の射程に入れることも可能になります。
従って、中国は、ハーグの仲裁裁判所の裁定程度では、「はいわかりました」と南シナ海から撤退することはないはずです。中国がいう「核心的利益」の中には、ミサイル潜水艦を南シナ海で自由に運用する利益が大きな部分を占めると思われます。

以上のような考え方、以前はあまり報道で接することがありませんでしたが、ハーグ裁定以降はだいぶ言われるようになったようです。
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