![]() | 自壊する帝国 (新潮文庫)佐藤 優新潮社このアイテムの詳細を見る |
最近になってこの本を読みました。
佐藤優は凄い人だと思っていましたが、この本を読んでさらに、佐藤優の凄さを実感しました。
この本は、佐藤優氏が外務省に入省するいきさつから始まり、イギリス陸軍語学学校でのロシア語研修、そしてそれから7年8ヶ月に及びソ連での佐藤氏の活動の様子が、この本の内容です。
もちろん佐藤氏の自画自賛の部分はあるかも知れません。従って、この本の記述を100%受け入れていいのかどうかは定かでありませんが、それにしても、佐藤氏の異能ぶりは間違いないものと思われます。
ノンキャリアの専門職として外務省に入省し、行く先々で、特異な人脈を築いていきます。佐藤氏が、人を引きつける並外れた人格を持っていたからなのでしょう。佐藤氏と懇意になる人たちは皆、その後のソ連において枢要な地位に上り詰めたり、あるいは卓越した情勢評価能力を発揮して佐藤氏を助けます。
リトアニア独立運動に際しては、独立派と守旧派の両方に強力な人脈を有していました。そのため、ゴルバチョフの思惑も絡んでソ連軍が独立派に発砲し、内乱一歩手前の一触即発の事態に陥ったときには、佐藤氏はまず守旧派の人脈をたぐって守旧派の真の意図(武力行使は行わない)を探り出し、それを守旧派の了解の下に独立派に伝えることで、最終的に独立派が勝利を獲得する上で重要な契機となりました。後に独立を達成したリトアニア政府から、佐藤氏は独立に貢献した60人の外国人の一人として勲章を受けるに至ります。
ソ連崩壊のきっかけとなったクーデター未遂事件に際しても、佐藤氏は、対立する3つの主な勢力のそれぞれに、緊密な人脈を確保していました。そしてそれぞれの人脈から、西側外交官のだれも得ることのできなかった内部情報を入手していたのです。
クーデター未遂事件の真っ最中に、佐藤氏はクーデター派の主要人物から、ゴルバチョフが健在であることを聞かされます。西側外交官としては最初の情報でした。クーデター未遂事件からしばらく経った後、佐藤氏はこの人物に、「なぜ自分に情報を教えてくれたのか」と問うたことがあります。「人間は生き死ににかかわる状況になると誰かにほんとうのことを伝えておきたくなるんだよ。真実を伝えたいという欲望なんだ。」その相手がなぜ佐藤氏だったのか。「そうだな。それは君がイデオロギーの力を知っているからだよ」
佐藤氏が旧ソ連においてこれだけの卓越した人脈を築き上げたのは、佐藤氏本人が相手から信頼と尊敬を勝ち得る人格を持っていたからでしょう。このような優秀な外交官が、日本外務省にどれだけ実在するのか、あるいは実在しないのか、わかりません。
外務省が佐藤優氏を葬り去ったことによる国益の損失は、おそらく計り知れないでしょう。それに対し、佐藤氏が500日以上も拘置所に勾留され、その揚げ句に立件された事件の実体が極めて微罪であったことを対比すると、何ともやりきれなさを感じます。
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