弁理士の日々

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山下一仁著「農協の大罪」

2013-12-14 13:05:23 | 歴史・社会
ネット情報で、山下一仁著「日本の農業を破壊したのは誰か」がおもしろそうなので、渋谷図書館が借りようとしたのですが、大勢の順番待ちになっていました。そこで、とりあえずはその本を予約するとともに、同じ著者の以下の本を借りてみました。
農協の大罪 (宝島社新書)
山下一仁
宝島社
2009年1月発行
著者の山下一仁さんの経歴は、著書によると以下の通りです。
1955年生まれ。1977年東大卒、同年農林省入省、ミシガン大学にて応用経済学修士、農学博士、2008年農水省退職。
経済産業研究所、東京財団などの研究員。

著書の内容は、日本の農業が戦後どのようにして衰退の経路をたどってきたのか、その衰退に農協がどのような悪影響を及ぼしてきたか、といったことがらです。

以下、忘れないうちにポイントを列記しておきます。
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1960年から2005年までの農業の推移
 GDPに占める農業生産 9% → 1%
 農業就業人口 1196万人 → 252万人
 総就業人口に占める農業就業人口の割合 27% → 4%
 農家戸数 606万戸 → 285万戸
 専業農家 34.3% → 22.6%
 第二種兼業農家 32.1% → 61.7%

農業就業人口の減少の割には農家戸数が減少しておらず、現在では農業就業人口が農家戸数を下回っている。兼業農家が増加しているため。
専業農家といっても、65歳未満の男子のいる農家は全農家の9.5%にすぎない。
年齢別農業就労人口構成では、70歳以上が46.8%(08年)

フランスでは農家戸数は大きく減少したが耕地面積の減少はわずかだったため、農家の経営規模は拡大し、「フランス農業の栄光の30年」が実現した。しかしわが国では、農地が61年の609万ヘクタールから463万ヘクタールへと大きく減少した。しかも兼業化が進んだ。

日本における06年の農業総産出額は8.5兆円であり、パナソニック1社の売上額9.1兆円にも及ばない。パナソニックの従業員は30万人弱なのに、農業では、農家戸数は285万戸、農協職員だけで31万人、農協の組合員は約500万人、准組合員は約440万人もいる。GDPに占める農業の割合は1%にすぎないのに、日本の成人人口の1割が農協の職員、組合員、准組合員ということになる。

戦後しばらく、「食管制度」は消費者対策であった。ところが60年代以降、この食管制度が農家保護に転換され、生産者米価引き上げに使われた。

農協は、14000円の米価は17000円の米生産費を補っていない、と主張する。しかし、農協自体、ここから3000円もマージンを取っている。生産費のかなりの部分は、労働時間に他産業の労賃を掛けて出された計算上の労務費(5000円)である。本当のコストは物材費と呼ばれる部分で、14000円の米価に対して9000円。規模の大きい農家(5~10ヘクタール)では6000円程度である(2006年)。

生産者米価の引き上げの後を追って消費者米価の引き上げが行われた。
 1人1年当たり米消費量 62年で118kg → 06年で61kg
 米の総消費量 63年の1341万トン → 05年で874万トン

70年から減反が実施された。米の減反は現在では250万ヘクタールの水田の4割にあたる110万ヘクタールに及んでいる。

米以外の農業は、4割の農家で8割の生産をしている。しかし米は零細の兼業農家によって生産されている。
農協は、兼業農家がいなくなると日本の食糧供給が脅かされると主張するが、零細な兼業農家が農業をやめれば、主業農家が生産を拡大するので、食糧供給に不安は生じない。
逆に、兼業農家を維持しつつ減反強化に反対するため、単収増加のための品種改良は、国や道府県の研究者にとってタブーになってしまった。
現在、日本の米の単収は粗放的な農業を行っているカリフォルニアよりも3割も低い。

食管制度が維持されていたとき、農協は減反に反対していた。しかし95年に食管制度が廃止されてからは、米価は減反によって維持されている。今では減反を農協が支持している。
消費者には、減反がなければ60kg当たり9500円で買える米に、15000円という高い価格を支払わせている。カルテルを破っても得にならないよう、政府は毎年2000億円、累計で7兆円の減反補助金をカルテルに参加した生産者に税金から支出している。
減反の影響を最も強く受けたのは主業農家だ。結局、経営面積に応じた一律の減反面積の配分が実施され、主業農家への配分が加重されるケースも見られた。

この50年間で、現在の全水田面積に相当する250万ヘクタールを超える農地が消滅したが、その約半分は宅地や工業用地などへの転用である。

農業大国といわれるフランスでは、ゾーニングにより都市的地域と農業地域を明確に区分し、農地資源を確保するとともに、農政の対象を、所得の半分を農業から、かつ労働の半分を農業に投下する主業農家に限定し、農地を主業農家に対して積極的に集積した。これによって、食糧自給率は99%から122%へ、農地規模は17ヘクタールから52ヘクタール(2005年)へ拡大した。

農協法の施行は47年12月。わずか3ヶ月後の48年3月には、ほとんどの農協が設立を完了するというスピードだった。農協は、戦前の「農会(全戸加入)」を引き継ぐ形となり、全農家が半強制的に参加し、多様な事業を行う総合農協となった。

農協にとって、米価を高くすると、米の販売手数料収入も高くなるし、農家に肥料、農薬や農業機械を高く売れる。高い肥料や農薬、農業機械などの価格は、米価に満額織り込まれるので、農家に批判されることはない。
硫安の国内向け価格は、86年には輸出向け価格の3倍にまでなった。

農業の補助金は、農家個人には交付されず、複数の農家や農協が協同で行う機械、施設のみに交付された。大規模専業農家は補助の対象に入らない。フランスが、農政の対象を主業農家に限定したのとは逆の対応を取ったのだ。

農協法の1人1票制のもとでは、数のうえで圧倒的に優位に立つ兼業農家の声が農協運営に反映されやすい。
兼業農家は週末しか農業をしないので、雑草が生えると農薬を撒いてかたづけてしまう。
1年に1回しか使わない農業機械を、農家が1軒ずつ持つ必要はない。機械を共同購入して月曜から日曜まで順番に機械を利用すればコストは安くなる。しかし兼業農家は週末しか農業を行えないので、各戸ずつ農業機械を持たざるを得ない。
機械化は農業の兼業化を促進することとなった。兼業先でサラリーマンとして働くために機械を買ったのである。このような機械購入代金も生産者米価の算定上、コストとして織り込まれた。
独自の農協で、韓国から国内の2/3の価格で肥料を購入しているところがある。JAの飼料価格は市場価格の4割高だったという話もある。
しかし、全員一致、和の原理が基本の農村社会では、農家は農協から資材を購入することが事実上、求められることとなった。そうしない場合は、社会的制裁も覚悟する必要があった。

長野県川上村のレタス農家が有機栽培のレタスで自立しようと、農協から資材を買わず、農協を通さずに直接スーパーなどに出荷しようとしたら、農協はこれら農家の農協口座を閉じ、プロパンガスの供給を止め、共同利用の用水の使用を禁じ、文字通り「村八分」にした。こうした例は全国に無数にある。

現在(05年)、専業農家は23%、第一種兼業農家(農業の比率が多い)が16%、第二種兼業農家(農外所得の比重が多い)が62%となっている。専業農家のほとんどは、農外所得がなくなったため第二種兼業農家を卒業した高齢農家であり、65歳未満の男子生産年齢人口のいる専業農家は9.5%にすぎない。
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著書の後半では、「農協=自民党=農水省」のつながりを「農政トライアングル」と呼んで厳しく批判しています。しかし疲れてきたのでここは飛ばし、結論に行きます。
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わが国では現在、東京都の1.8倍の面積に相当する39万ヘクタールの耕作放棄が生じている。原因は、減反を強化しているにもかかわらず、この10年間で米価が60kg当たり2万円から14000円に低下するなどし、農業収入が減少しているからだ。
減反を段階的に廃止して農産物価格を下げ、影響を受ける農家に補助金を直接支払いしてはどうか。減反をやめれば、米価は60kg当たり約9500円に下がり、需要は1000万トン以上に拡大する。また米価が下がると、零細な農家はますます農地を貸し出すようになる。
こうして農地が集まれば、規模が拡大してコストが下がり、主業農家の所得が増える。
現時点で、米作主業農家の年間所得は664万円なのに、兼業農家の所得は792万円で、サラリーマンの所得を大きく上回っている(02年)。
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農協は強大な政治力を保持し、その農協が農業振興よりも自身の既得権益保持に突っ走ってしまったため、日本の農業はひどいことになっているようです。
この状況から脱出するために、日本の政治はTPPという外圧を利用せざるを得ないであろうと私は考えていました。そして、安倍政権はきっとTPPを外圧として利用するであろうと。
ところが直近、TPP交渉で日本は農業で1mmも譲歩しないと突っ張り、日米交渉の成立を阻みました。一体、安倍政権内で何が起こっているのでしょうか。
最近、安倍政権の硬直化が目立ちます。成長戦略の核であるべき規制緩和は見かけ倒しです。そのかわり、秘密保護法の成立は拙速に急ぎました。
結局、安倍政権の政策で役に立ったのは、金融緩和のみであるように思います。このままずるずると行ったら、「ちょっと待った」と言わざるを得ないのですが、それを言うべき野党がひどい体たらくです。
今回のみんなの党の分裂を奇貨として、野党のうちで政策を同じくする人たちが集結してくれるとありがたいのですが・・・。
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