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弁理士の日々

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駐ロ大使更迭(2)

2010-12-26 17:54:58 | 歴史・社会
先日の駐ロ大使更迭と「闇権力の執行人」では、最近動きのあった日本外務省のロシア外交当局者と鈴木宗男氏との関係について書いたところです。

<駐露大使更迭>私はロシアに詳しくない…首相、怒り爆発
毎日新聞 12月24日(金)2時30分配信
『北方領土をめぐる日露の主張
関係者の証言をまとめると、政府が河野雅治駐ロシア大使(62)を事実上更迭する背景には、在ロシア大使館側から発信された情報を信じ、ロシアに対して事前に北方領土訪問の中止を求めるなどメッセージを発信できなかった官邸側の強い不信感があるようだ。
メドベージェフ大統領が9月下旬に北方領土を「近く訪問する」と明言、10月下旬に訪問の観測記事が頻繁に流されて以降も、外務省は首相官邸に「訪問はない」と報告し続けた。菅直人首相は、周辺に「本当に行かないのか」と繰り返し確認したが、返ってきたのは「大使館からの情報では『訪問はない』ということです」との答えばかりだった。
だが、大統領は11月1日、北方領土・国後島への訪問に踏み切った。一時帰国を命じられ、同月3日午前に帰国した河野大使は、同日夕、外務省の佐々江賢一郎事務次官、小寺次郎欧州局長らとともに首相公邸に呼び出された。菅首相や仙谷由人官房長官が事情聴取を始めた。
「なぜだ。なぜ訪問しないと判断したのだ」。官邸側から問いただされ、河野大使は「ロシア外務省からそういう報告を受けていましたから」と答えた。これに菅首相はカチンときた。「そんなことは聞いていない。誰が言ったかじゃなく、どうしてそう思ったんだ」口ごもる河野大使を見て、仙谷長官が助け舟を出した。「大統領はプーチン首相との関係など、いろいろあるのじゃないのか。そのあたりの判断は」。だが、河野大使の口は重くなる一方だった。
「要するにどういうことだ」。いら立つ首相ら。最後に、河野大使はこう口走ってしまった。「私はあまりロシアに詳しくないので……」。次の瞬間、首相らの怒りが爆発した。』

11月30日に武田善憲「ロシアの論理」で取り上げた武田善憲著「ロシアの論理―復活した大国は何を目指すか (中公新書)」によると、現在のロシアでの権力中枢においては、いわゆる政府を構成する従来からの官僚組織だけではなく、「大統領府」が大きな力を有しているようです。
大統領の仕事をあらゆる面でサポートする機関が大統領府であり、強大な権限を有しているといいます。そして、ネガティブな意味での官僚機構そのものといった様相を呈していた政府の各機関の非効率を補うべく、日夜圧倒的な仕事の量をこなしていました。
政府が相対的に機能不全である理由は、第一に社会主義時代の「大きな政府」をそのまま引きずり、非効率であること、第二に国家の基本的な方向性を決めるのが大統領や安全保障会議だとして、それを政策に落とし込む作業は政府ではなく大統領府が担当していること、第三にロシアの政治構造において政府は事実上スケープゴートにされてきたこと、だといいます。
このように政府は重要な地位を占めず、大統領府が仕事をしているというロシア政権において、政府の一部である外務省はどれほどの力を有しているのでしょうか。もし、在モスクワ日本国大使館が外務省にしか人脈を持たないのであれば、日本が対ロシアで情報収集能力を有していなくてもおかしくありません。

また、ロシアの重要な政策決定に関しては、大統領府どころか、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相の二人しか知らず、その二人がきわめて口が堅いことから、この二人が口を割らない限り、世の誰も知ることができない状況にあるようです。駐ロシア日本大使館がこのようなロシアの状況を知っているのであれば、ロシア外務省筋からしか情報が取れない状況の中で、日本政府に対して「メドヴェージェフ大統領が国後を訪問するかどうか不明」という情勢判断を送るべきでしょう。


菅外交、繰り返される「その場しのぎ」ロシア大使更迭へ
産経新聞 12月24日(金)0時18分配信
『メドベージェフ露大統領の北方領土訪問という前代未聞の“日本外交の失態”に対し、菅政権は、河野雅治駐ロシア大使更迭で決着を図ろうとしている。だが、日米同盟にずれがあるかのようにふるまい、ロシアに付け入るすきを与えたのは民主党政権だ。河野大使を一時帰国させた際もあいまいな態度で、13日にはシュワロフ第1副首相の北方領土訪問も許すなど、その後も失態は続く。定まらない菅政権の外交姿勢を放置した「その場しのぎ」が繰り返されている。
対露外交では近年、情報収集能力の低下が指摘されてきた。影響力のある鈴木宗男前衆院議員と、鈴木氏に反発する勢力が外務省内で対立。刑事事件で鈴木前議員の影響力が低下すると、ロシアとの太いパイプを持つ「鈴木派」の官僚が一掃された-との見方だ。
それ以上に問題なのは、政権交代以来、官邸の外交方針がふらつくことで、外交情報が政府内で滞留する混乱が生じていることだ。
河野氏は当初、露大統領の国後島訪問について「具体的計画があるとは承知していない」と指摘。外務省欧州局も同様の判断で、首相官邸は楽観していた。
その後、日本大使館から伝えられた「大統領訪問は確実」という新しい情報は、10月末に東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会議出席のためハノイに滞在していた菅直人首相と前原誠司外相には伝わらなかった。露大統領もハノイにおり、情報があれば、訪問阻止の直接交渉もあり得たが、それもできなかった。
情報の軽重と、どこまで首相に報告するかという外交の基本が政府内で壊れていることを示す事案だ。外務省内から「政府全体の問題を放置して、河野氏をスケープゴートにするのか」という声が出るのはこのためだ。
政府は今後、「日露協力関係が新段階へ進むように努力する」(前原外相)との戦略を描く。後任に有力な原田親仁(ちかひと)駐チェコ大使はロシアスクール(ロシア語研修組)だが、鈴木前議員と対立した経緯がある。混乱を抱えたままで政府が一枚岩になれるかどうかは不透明だ。』

鈴木宗男議員を刑務所に送り込み、東郷和彦欧州局長を追放し、佐藤優情報分析官を特捜検察に売り渡したのは外務省です。このとき、佐藤優氏が率いていた「チーム」も崩壊したものと推定されます。これによって日本の対ロ情報収集能力が大きく低下したであろうことは容易に推察できます。そしてその推察通りのことが、実際に日本外務省で起こっている、ということでしょうか。

それに加え、今回の対ロ外交失敗の要因の一つが、官邸にもあったということですね。
尖閣問題の際には、中国人船長の勾留を延長するか否かの段階で官邸、新旧外務大臣が機能しませんでした。そして国後問題では、ハノイに滞在する首相と外務大臣に最新情報が的確に伝わらなかったというのですか。
そうだとしたら、遅ればせながら「大統領訪問は確実」と伝えた駐ロ日本国大使の落ち度は少なく、その情報を首相と外務大臣に伝えなかった官邸の方が責任は重大である、といえます。

私がまったく評価しない小寺次郎氏が欧州局長、同じく評価しない原田親仁氏が駐ロ大使、ロシアの専門家ではない岡野正敬氏がロシア課長という布陣で、日本の対ロ外交は立ちゆくのでしょうか。
せめて、「ロシアの論理―復活した大国は何を目指すか (中公新書)」を執筆した武田善憲氏を、外務省軍縮不拡散・科学部軍備管理軍縮課課長補佐という役職から、駐ロ日本大使館書記官あるいは欧州局ロシア課に転任してもらってはいかがでしょうか。
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