弁理士の日々

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理工系博士課程活性化?

2008-10-26 12:39:57 | 歴史・社会
10月20日日経新聞の「教育」欄で、東京大学教授大垣真一郎氏が「理工系博士課程活性化を 志願者減で大学院に危機感」との記事を寄せています。
冒頭に「日本人のノーベル賞受賞に国中が沸く一方で、理工系大学院博士課程の志願者が減り続け、関係者の間に危機感が広がっている。日本学術会議の若手・人材育成問題検討分科会委員長を務めた大垣真一郎東大教授に寄稿してもらった。」とあります。
《現状認識》
我が国の大学院が送り出す博士号取得者の数は、国際的に見ると少ない。2005年度の取得者は、日本:5826人、米国:18770人、英国:8400人、ドイツ:9056人
さらに我が国では、最近5年間で博士課程進学者が顕著に減少し、理学系は1900人が1100人、工学系は1900人が1100人に減少している。
一方、分野によっては博士学位取得者の就職問題、いわゆるポスドク問題がある。
《提言》
日本学術会議は、「新しい理工系大学院博士後期課程の構築に向けて-科学技術を担うべき若い世代のために-」を公表した。
提言1 大学は、育成すべき人材像を明確に示しつつ、新たな時代に相応しい博士号取得者の育成を構想するべきである。
提言2 国際的な競争力を持つ、多彩で魅力ある大学院教育体制を構築すべきである。
提言3 大学院の学生定員制度の柔軟化を図るべきである。
提言4 将来の理工系博士人材を確保するため、政策の継続性とその投資を堅持するべきである。
提言5 博士課程の大学院生個々人への投資を拡充すべきである。
提言6 博士号取得者の社会的処遇の改善を図るべきである。
提言7 大学院教育に関する統計の整備と若い世代への情報提供を強化すべきである。
(以上)

私の認識では、「大学院博士課程の定員だけ増員したが、肝腎の博士学位取得者の就職ポストは何ら増員していない。就職先が見つからないので、学生が博士課程を見限った」と理解しています。
しかし大垣先生は、学位取得者の就職問題があるのは一部の分野のみ、という理解のようです。本当でしょうか。

そして提言においては、博士課程教育を行う大学院が取り組むべき課題が大部分で、研究者ポストの増強については提言6でちょっと述べているだけです。
そもそも順番が逆です。
「研究の要請から、研究者のポストを増員する必要がある。するとそこで働く研究者を確保する必要があるので、博士課程の定員を増強する」ならわかりますが、研究者ポストを増やさずに博士課程定員だけ増やしたら、就職問題が生じるのは当たり前です。

ところで、記事の中にある「いわゆるポスドク問題」とは何でしょうか。学術会議の「提言」の中には以下の文章があります。

「理工系大学院改革の必要性の背景の第一は、「大学院重点化」、「ポストドクター1 万人計画」などによって大学院生数、特に博士号取得者数が大幅に増加したことである。現在、理工系での博士号取得者数は年間5500名程度であるが、大学等の教育職や研究職に就ける者の数は年間1500名程度にすぎない。また産業界においては、依然として修士課程修了者に採用の重点があり、博士号取得者の採用数は多くない。一方、大学院博士課程においては狭い領域の研究者育成を主眼とした教育がいまだに続いている分野も多く、博士号取得者自身も研究・教育職に執着する傾向が強い。しかし、狭い専門分野を極めた従来型の研究者への需要が今後急速に増大することは予想しがたく、若手研究者の多くが短期の期限付きの職を続けるという「ポストドクター問題」につながっている。」

「ポスドク問題」というと、「ポストドクター制度に問題がある」かのようですが、そうではないのです。結局、「博士号取得者の数に見合った就職先がない」という問題であり、それであれば古典的な「オーバードクター問題」との言い方をした方が誤解がないでしょう。

「ポスドク」、米国でいう「ポストドクトラルフェロー」は、任期付きの研究職であり、ここで成果を挙げれば輝かしい研究者への道が開ける、というポジティブな職種です。これに対し、日本でいう「ポストドクター」は、安定的就職先がないので腰掛け的に任期付き研究職(ポスドク)に就くが、任期が明けた後の就職先は絶望的である、といった意味合いに変化しています。この辺の事情は当ブログの「日米ポスドク比較」で述べました。


ところで、日経記事を寄稿した大垣先生というのはどういう人でしょうか。こちらで調べると、ちゃんとした理工系のキャリアを積んだ先生ですね。
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