弁理士の日々

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第2回審査基準専門委員会

2009-05-10 18:32:12 | 知的財産権
産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の中に審査基準専門委員会が設置されており、このブログでも第1回の審議状況をこちらで紹介しました。
その後、第2回が4月7日に開催され、その議事要旨が4月21日に公表されました。この議事要旨では、進歩性についての審査基準改定に否定的な議論が終始した印象を受け、一体何を議論したのだろうかと疑問に思っていました。
最近、ttさんがご紹介されたとおり、4月30日付けで詳細な議事録が公表されました。

議事要旨議事録を対比してみると、一応議事要旨は議事録のエッセンスを抽出した形とはなっていますが、微妙に変質を遂げており、何か裏で結論をねじ曲げようとしている意思が働いている危惧を感じます。

そこで、特許庁が公表した《議事要旨》に対し、議事録を参考にして実際の議論内容に忠実になるように私が修正を加えてみました。

以下に、各委員の発言別に、まず《議事要旨》として特許庁が作成した議事要旨の内容を記述し、そのすぐ後に《議事録》として私が修正した内容を記述します。

第2回審査基準専門委員会議事要旨
平成21年4月21日
4月7日(火)午後、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会第2回審査基準専門委員会(座長:中山信弘 明治大学教授・弁護士・東京大学名誉教授)が開催された。
1. 審議内容
事務局から配布資料に沿って説明、及び、竹中委員、参考人の山口様(日本知的財産協会)、小西様(日本弁理士会)からのプレゼンテーションを行い、その後討論を行った。委員・参考人からの意見・要望の概要は以下のとおり。

1.1 進歩性のレベルについて
[永井委員]
《議事要旨》
○ 審査基準を動かすことによって進歩性のレベルを変えるというような発想自体は慎重であるべき。
○ 一般論として、それなりに良くできている審査基準ではないかと思う。
○ 個別の意見はいろいろあるかもしれないが、今あえて変える時期ではない。
《議事録》
◎ 審査基準を動かすことによって進歩性のレベルを変えるというような発想自体は慎重であるべき。
◎ 個別的に指摘されている点は別にしても、それなりに良くできている審査基準ではないかと思う。
◎ むしろいかに使いやすいものにしていくかという現実論から議論していったほうがいいのではないか。

[野間口委員]
○ むしろしっかりやっていただくべきは米国・欧州の取組である。
[竹中委員]
○ 日本の場合、特許権者が勝訴する確率が他の国と比べて非常に低く、訴訟費用も非常に低いためパテントトロールの問題を心配する必要はない。
[片山委員]
○ 現在の裁判所における無効になる確率はかなり異常であるが、審査基準の問題ではないと思う。特許庁の結果が安定しているが、裁判所でどうなるのかを、今はウォッチしていくべき。
[榊委員]
○ 雑誌ごとに複数の基準を設けている学術論文の査読のようにはいかない。
[長岡委員]
《議事要旨》
○ 特許の質のコントロールは、イノベーション促進の観点からも重要である。
《議事録》
◎ 特許の質のコントロールがイノベーション促進の観点で非常に重要で、進歩性というのが非常にクリティカルな役割を果たしている。
[中山座長]
《議事要旨》
○ わかりやすくするなどは審査基準外で行い、進歩性についての審査基準自体は従来どおりでよい。
《議事録》
◎ 法的安定性の観点等から審査基準の改訂によって審査レベルを変更するということ自体につきましては、どうも否定的な方が多かったように思われますので、今回は審査基準の変更によって進歩性のレベルを変更すべきではないという結論でよろしいでしょうか。

1.2 後知恵防止について
[中島委員]
《議事要旨》
○ 審査基準には裁量の余地が広く、ベテランの審査官には大変有用で適用しやすいものだが、ベテランの審査官に聞かなくても自分ですぐわかるような基準が必要。
《議事録》
◎ 審査基準には裁量の余地が広く、ベテランの審査官には大変有用で適用しやすいものだが、ベテランの審査官に聞かなくても自分ですぐわかるような基準が必要。2000年より前のように、もう一回、明記されることが必要だ。
[竹中委員]
○ 仮に、日本でも欧州と同じような客観的な課題の作成から論理づけを行っているのであれば、後知恵防止ということを明記する必要がある。
[野間口委員]
《議事要旨》(記述なし)
《議事録》
◎ 私も90%までは入れるべきだと思う。
[片山委員]
《議事要旨》
○ 審査基準を一から書くというのであれば後知恵をしてはいけないという記載をいれるべきだが、進歩性のレベルは現状でいいのではないかという立場からすると躊躇を覚える。
《議事録》
◎ 審査基準を一から書くというのであれば後知恵をしてはいけないという記載をいれるべきだが、進歩性のレベルは現状でいいのではないかという立場からすると躊躇を覚える。一から書くのであれば、確かにあったほうがわかりやすいだろう。
[永井委員]
《議事要旨》
○ 発明の技術の歴史的なところ、すなわち技術の流れを知り、その流れの中で判断することで、後知恵を排除できるのではないか。
《議事録》
◎ 裁判所にいるときに先輩からよく言われてきたことだが、意識して「出願時」であるということを十分銘記しようと言われた。発明の技術の歴史的なところ、すなわち技術の流れを知り、その流れの中で判断することで、やはり当時においてはそれなりの難しさがあったんだということが理解しやすい。後知恵防止ということを書くかどうかというより、むしろそういった流れの中で判断するような、何かそういう意識が出るような書き方があるのではないか。
[山口参考人]
《議事要旨》
○ 「後知恵」というと、非常に悪いイメージがあるが、現場の審査官は後で論理付けするということで実質的に事後分析をする必要があり、事後分析がすべて悪い訳ではない。
《議事録》
◎ 「後知恵」というと、非常に悪いイメージがある。しかし現場の審査官は後で論理付けするということで実質的に事後分析をしている。具体的に何が事後分析であって何が事後分析ではないかということについて、具体的な論議に落としていく必要がある。具体的な事例を集めて、まずは現状認識をされるところから始める。そして、もし必要であれば改訂ということに結びつけていく必要があるのではないか。
[小西参考人]
《議事要旨》
○ 「後知恵防止」は目的であり、それを記載するのではなく、後知恵が入りがちな点について、それを排除するような具体的な仕組を基準に生かして欲しい。
《議事録》
◎ 「後知恵防止」は目的であり、それを記載していただきたいということよりむしろ、後知恵が入りがちな点について、それを排除するような具体的な仕組を基準に生かして欲しい。

[中山座長]
《議事要旨》(記述なし)
《議事録》
◎ 後知恵というのは、一回種明かしを見てしまった後に手品を見ると、幾ら注意したっておもしろくは見えないというのが人間の常でして、どんな条文を書いても難しいことは難しいと思いますが、基準を変えるべきという御意見もございましたし、あるいは、基準は現状のままでも先ほどのハイパーテキスト化等で補充的な資料をつけ加えるとか、現状をもっと分析するとか、あるいは、これ以降で議論をテーマの中で、いろいろな要件・基準がありますから、その中で手当てをするとか、いろいろな意見が出ました。きょうは時間の都合でこれぐらいにしたいと思いますけれども、きょうの各委員の御意見を踏まえまして次回までに取りまとめをお願いしたいと思います。

2. 今後の審議スケジュール
第3回審査基準専門委員会を6月30日に開催する予定。
(以上)

続きを次回アップします。
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