弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

米と英の特別な関係

2016-07-21 20:23:05 | 歴史・社会
イラク戦争について、イギリスが行った検証が話題になっています。例えば、・・・
イラク戦争を検証し続けるイギリスと、一顧だにしない日本?その「外交力」の致命的な差
2016年07月21日(木) 笠原敏彦
『7年の歳月をかけ、参戦を決めたブレア首相ら当時の政府高官ら約150人を聴取、政府文書への完全なアクセス権を与えられ15万件の証拠を調べ上げた。そして、「軍事行動は最後の手段ではなかった」「法的根拠を十分に満たしたというにはほど遠い」などとブレア氏を厳しく批判している。』
『世界はイラク戦争の「落とし子」と言える過激派組織「イスラム国(IS)」のテロの脅威にさらされている。多大な犠牲を払ったイラク戦争とは「一体何のための戦争だったのか」。国民の多くが自問し続けてきたのである。』

『報告書は、ブレア首相が開戦8ヵ月前の2002年7月、「何があっても行動を共にする」とブッシュ大統領に伝えていた書簡を機密解除させ、公表した。すでに参戦を決意しているかのような物言いだ。
ブレア首相はなぜ、そこまでしてアメリカを支えようとしたのか。』

『英米関係を特徴づけるものに「2つのアングロサクソン国家」と「特別な関係」という2つの言葉がある。
「特別な関係」という言葉は、ウィンストン・チャーチルが1946年に行った「鉄のカーテン」演説で初めて使われた。東西冷戦が幕を開け、イギリス単独では共産主義の脅威から欧州を守れなくなった時代だ。この言葉には、アメリカを欧州防衛に関与させ、英米の「特別な関係」で欧州と自由主義世界の平和と繁栄を支えようという思惑が込められている。』
『筆者が気になるのは、検証報告書が「利益と判断が異なるとき、無条件の(対米)支援は必要ない」と提言している点だ。』(以上)

私は、「米と英の特別な関係」というと、思い出すことがあります。
第二次大戦前から直後にかけての日本の外交官・外務大臣であった幣原喜重郎氏が、「外交五十年」という自伝を出しています。私は2008年にこのブログで、『幣原喜重郎「外交五十年」』として記事にしました。その中に記述したことです。
『幣原氏が1919年に駐米大使としてワシントンに着いた頃、カリフォルニア州で排日土地法が問題になり、とうとう州議会で可決してしまいます。この頃のアメリカにおける日本からの移民に対する差別待遇が、日本人のアメリカ嫌いを形成する大きな要因となりました。その意味では後に日米戦争の起因のひとつです。

幣原氏が大使館参事官としてワシントンにいた頃、1912年にパナマ運河が開通し、アメリカはイギリス船を含め外国船に通行税をかけることにしました。イギリスは米英間の条約違反であると抗議します。しかし米国議会はこの法案を可決してしまいます。
当時の在米イギリス大使はブライス氏です。ある日、幣原氏はブライス氏を訪ねます。幣原氏はパナマ運河問題についてブライス氏に「抗議を続けられるでしょう」と訊くと、「いいえ、もう抗議は一切しません」との答えです。幣原氏が突っ込むと、ブライス氏は昂然として、「どんな場合でも、イギリスはアメリカと戦争をしないという国是になっている。抗議を続ければそれは結局戦争にまで発展するほかない。戦争をする腹がなくて、抗議を続けても意味がない。」と答えます。
逆にブライス氏がカリフォルニアの排日問題に転じます。幣原氏が「抗議を続けます」と答えるとブライス氏は、「一体あなたはアメリカと戦争する覚悟があるのですか。もし覚悟があるなら、それは大変な間違いです。これだけの問題でアメリカと戦争をして、日本の存亡興廃をかけるような問題じゃないでしょう。」とし、こう付け加えます。「アメリカ人の歴史を見ると、外国に対して相当不正と思われるような行為をおかした例はあります。しかしその不正は、外国からの抗議とか請求とかによらず、アメリカ人自身の発意でそれを矯正しております。これはアメリカの歴史が証明するところです。われわれは黙ってその時期の来るのを待つべきです。加州の問題についても、あなた方が私と同じような立場をとられることを、私はあなたに忠告します。」

アメリカの排日問題が、日本人のアメリカ嫌いを助長し、対米開戦にまで到達してしまったのですが、日本にイギリスの智恵があったらと惜しまれるところです。
またブライス氏が予測したとおり、1931年頃、アメリカは排日法を撤廃する気運になりました。ところがその後まもなく満州事変が勃発して日本の評判が再び険悪となったので、排日立法撤廃の発案は立ち消えになってしまいました。
この点からも、「満州事変がなければ、太平洋戦争には至らなかったのでは」という繋がりを感じます。』(以上)

1910年代にはすでに存在していた「米と英の特別な関係」ですが、イラク戦争を契機として、この関係は解消してしまうのでしょうか。
コメント
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