弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

リハビリ難民の行方

2008-02-19 21:08:29 | 歴史・社会
2月10日のNHKスペシャルで「闘うリハビリ第1回 あなたはここまで再生できる~脳がもつ可能性~」を観ました。
大脳の右半球の大半を切除しながら、リハビリの結果左足が動くようになった若者、脳梗塞で脳から足へ向かう神経がやられたのに、リハビリによって別の神経が繋がり、歩けるようになった70台のおじいさん、などの話は驚異的でした。

また、リハビリによる効果は、発症後1年程度で改善が止まるようなことはなく、リハビリを続けることによって確実に改善が見られることも紹介されています。
長嶋茂雄氏が登場します。右半身に障害が残るような症状だったのですが、映像では杖を使わずに歩くまでに回復していました。右半身不随ですから、言語にも障害が出たはずですが、喋りもゆっくりながらしっかりしていました。
その長島氏のことばで印象的だったのは、「リハビリを1日休むと2日後退する?」といったような発言でした。
この発言から読み取れることは、「リハビリを続けても改善が微々たるものとなった段階においては、リハビリをやめると機能が逆に後退してしまう」という事実です。ですから、「リハビリを続けているのに効果が上がらない」という状況でも、リハビリを止めてはならず、止めたらそれまでの成果が失われる、ということです。

厚労省による医療改革でとんでもないことが実施されました。2006年4月から、医療保険でリハビリを受けられる期間が180日に制限されるようになったのです。理由は、「効果が乏しいのにリハビリを長く続けるのは医療費のムダ遣い」ということのようです。
この厚労省のロジックと上記の実態を勘案すると、「リハビリを続けても効果が上がらない」と判断するのではなく、「リハビリをやめると機能が減退するから止めてはならない」と判断すべきだということです。

本田宏著「誰が日本の医療を殺すのか」には、東大名誉教授多田富雄氏の経験が紹介されています。
多田氏は、脳梗塞の後遺症で重度の右半身麻痺に言語障害、嚥下障害などを負って4年になりますが、リハビリのおかげで何とか人間らしいくらしができていました。ところが2006年3月、突然医師から今回の診療報酬改定で、医療保険の対象としては障害者のリハビリが発症後180日を上限として実施できなくなったと宣言されます。
多田氏はその前の年、別の病気で3週間ほどリハビリを休んだら、以前は50メートルは歩けたのに、立ち上がることすら難しくなりました。身体機能はリハビリをちょっと怠ると瞬く間に低下することを思い知らされます。
今回の改定によって、何人の患者が社会から脱落し、尊厳を失い、命を落とすことになるか、と多田氏は警告します。

今回のNHKスペシャルでも、リハビリを取り上げて長嶋茂雄氏に登場を願うのであれば、リハビリ難民の実態について紹介してほしかったです。
コメント
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