弁理士の日々

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金賢姫拘束の真相(4)

2008-01-29 20:42:34 | 歴史・社会
砂川昌順著「極秘指令~金賢姫拘束の真相」(NHK出版)
李鍾植著「朝鮮半島最後の陰謀」(幻冬舎)
極秘指令~金賢姫拘束の真相
砂川 昌順
NHK出版

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朝鮮半島最後の陰謀―アメリカは、日本・韓国を見捨てたのか? 「非道な北朝鮮」と「愚かな韓国」
李 鍾植
幻冬舎

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昨年12月15日、フジテレビで『大韓航空機爆破事件から20年 金賢姫を捕らえた男たち~封印された3日間~』を見て以来、金賢姫拘束に至る真相にこだわっています。
12月26日の記事では、《在中東日本大使館ルート》と《韓国官憲ルート》がそれぞれ独立で、事件の核心に迫っていったのではないか、との推論を立てました。
テレビ番組で紹介された日本大使館ルートが独立で金賢姫らに迫ったのと独立に、韓国ルートでも事件を押さえており、たとえ日本大使館ルートが失敗したとしても、韓国ルートで結局は金賢姫らが拘束されたのではないかと・・・。

最近になって、テレビ番組の主人公である砂川昌順氏の著書である上記「極秘指令~金賢姫拘束の真相」がやっと手に入り、読み終わりました。テレビ番組やネット検索で得られた以上の情報、特に韓国ルートについての情報が書かれていました。

まず、この本に記載されている《在中東日本大使館ルート》についてです。
砂川氏という人は、著者本人が記述するところによると、実に有能な諜報員として描かれています。こんな人が在外日本大使館のノンキャリア館員として実在していたのか、とまず驚きます。

砂川氏は当時、在バーレーン日本大使館員です。
1987年11月30日午後、アラブ首長国連合の日本大使館から極秘大至急電報が入ります。「大韓航空機が行方不明になったことと、その飛行機からアブダビ空港で降りた客の中に2名の日本人名らしき客がいること、貴国に入国していないか調べてほしい」という内容でした。
ところが砂川氏は、すでにその前日、普段から情報をもらっているフライトアテンダントのエリーナから裏情報として、大韓航空機が行方不明になった状況を詳しく聞いていたのです。

大使館で砂川氏の上司である参事官は、「無理だと思うけれど一応調査してくれ」と砂川氏に指示します。一通りの調査をしてわからなければそのように報告すればいい、というスタンスです。それに対し砂川氏は、「今日中になんとしても見つけ出す。」と決意するのです。時刻は4時6分、中東での就業時間を考えると、1時間以内に手がかりを見つけないと絶望的です。

まず各航空会社に乗員名簿を見せてくれるように電話で依頼しますが、外務省を通した正規の依頼ではないので、みな断られます。そこで彼が取った行動は、裏ルートの諜報員への調査依頼です。そこから、ガルフ航空の乗客名簿にシニチとマユミの2名の名前があることを、あっというまにつきとめます。

砂川氏は直ちに空港に向かいます。出入国管理官室へ向かい、膨大な入国カードの調査を開始します。砂川氏は2人が入国した時刻を勘で予想し、入国カードの山の一部から調査を開始します。勘は当たり、チェックをはじめて6、7分経過後に2人の入国カードが見つかりました。

その日の夜は、本国の外務省から出張でやってきた審議官との夕食会です。その席上で砂川氏は「バーレーン中のホテルに電話をかけまくりましょう」と提案しますが、実は2人の滞在ホテルについては推理し、すでに目星をつけていたのです。まず最初にその目星をつけたリージェンシーホテルに電話をしたら、果たして2人は滞在していたのでした。ホテルのフロントに2人の滞在有無のみを確認しようとしたのに、フロントは2人が泊まっている客室に電話を回してしまいました。砂川氏が蜂谷真一と電話で話をします。話の様子から、砂川氏はこの2人がただの旅行者でないことに気付きました。

砂川氏は、その夜にホテルで見張りを行うことを主張しますが、参事官は「その必要はない!」と拒否します。砂川氏は独断で、リージェンシーホテルに勤める知人に頼み、二人がチェックアウトすることがあったら直ちに連絡するように依頼します。

こうして、調査は砂川氏の推理通りに進み、足を棒にして探し回ることなく、2人に到達したのでした。


砂川氏の著書から、《韓国ルート》との接点について触れます。
翌12月1日の早朝、真由美のパスポートが偽造であることが判明します。砂川氏らは上司の参事官から「バーレーンの官憲には連絡せず、とにかく2人を見張れ」と指示を受けます。しかしリージェンシーホテルで2人がチェックアウトする場面に砂川氏らが居合わせていながら、2人がホテルを出る際に見失ってしまいます。あわてて砂川氏らは空港へ向かい、独断で出入国管理官室に協力を依頼し、やっとのことで出国審査カウンターで2人を足止めします。

そのとき韓国ルートとの接点が生じます。
ボディーチェックで押収した蜂谷真一の所持品の中から、在バーレーン韓国大使館の金書記官の名刺が見つかったのです。名刺には、大韓航空機の墜落を示唆する文字がボールペンでメモ書きされていました。ホテルで金書記官が2人に接触したことを物語っています。

2人が自殺を図り、病院へ搬送された後、韓国大使館の金書記官が空港に飛び込んできます。「ホテルで会った時は、二人は単なる旅行者だと思ったのですが・・・。まさか、こんな事態になるとはまったく想像だにしていませんでした」

以上が、砂川氏と韓国ルートとの接点です。
韓国当局から2名について外務省を通じて在バーレーン日本大使館に照会があったことなど、一切登場しません。
これが真実とすると、韓国ルートにおいて、蜂谷真一と真由美をバーレーンで捕捉し、面会までしていながら、単なる旅行者であって爆破犯人であるとは気付かず、あやうく取り逃がすところだった、ということになります。
金賢姫を拘束できたのは、まさに砂川氏の能力と努力の賜であったことになります。

もう1冊、李 鍾植著「朝鮮半島最後の陰謀」について
この本に大韓航空機爆破について記されています。この中で、
「(30日)夕刻には在バーレーン韓国大使館副領事の金正奇がホテルを訪れ、『蜂谷真一』『蜂谷真由美』に面会、尋問したのですが、2人は、自分たちは日本人の父娘だと繰り返すだけでした。
12月1日午前8時過ぎ頃までには、在バーレーン日本大使館の調査で「蜂谷真由美」名義の旅券が偽造であることが判明したので、韓国当局から通報を受けていた日本政府が、現地の日本大使館員と地元警察官をホテルに差し向けたところ、・・・2人は青酸カリのアンプルを口中で噛み砕き・・・」とあります。
砂川氏の著作とはずいぶん様子が異なることがわかります。
コメント (2)
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