弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

アメリカのロースクール

2007-05-26 19:58:08 | 弁理士
日本にロースクール制度ができて何年か経ち、昨年は2年(法学既習)コースの卒業生による初めての司法試験が行われ、今年は3年(法学未習)コースの卒業生による初めての司法試験が行われます。
新聞によると、合格確率は5割、いや4割ということで、厳しい試験になりそうです。

日本のロースクール制度は、もともとはアメリカのロースクール制度に範を求めたものだと思います。
日本のロースクールに関する新聞記事を見るにつけ、アメリカのロースクール制度との比較が気になります。
アメリカの大学の学部には法学部が存在せず、従ってロースクール進学者は全員が法学未習で3年コースのみです。

「パテント」2004年7月号に、「アメリカのロースクールの3年制課程について」と題して、弁理士の日野真美さんが体験記を書かれています(こちらにpdf)。

まえがきによると、
「私は,アメリカのニュージャージー州にあるシートンホール大学 (Seton Hall University) ロースクールの3年制課程(J.D.コース)を1999年6 月に卒業し,ニューヨーク市にあったペニー&エドモンズという知的財産権専門の法律事務所で2002年10月まで働きました。今後私と同じように法学部出身ではないがアメリカのロースクールへ行ってみたい,アメリカで働いてみたい,と思われる方のために,何かのご参考になればと,ロースクールの3 年制課程への進学について私の経験を交えて以下に述べることにします。」

日野さんは、大学の薬学部卒業、大手製薬会社の研究所勤務、大阪の特許事務所で弁理士として勤務と経歴を重ね、ご主人のアメリカ転勤が決まり、「それなら、私はアメリカでロースクールに行きたい」と無謀な(^_^)計画を立てます。

まずは英語力をつけるための苦労があり、ついで入学試験です。
「学校によって違いがありますが,上記TOEFL の得点,LSAT(ロースクール入学共通試験)の得点に加えて,大学の成績平均点,恩師などに書いていただく推薦状,及び小論文などをそろえて出願します。」「私はLSAT の点数は高くありませんでしたが,大学時代の成績はそれほど悪くなく,何よりも経歴がとても珍しかったので,それが考慮されて入学できたのだろうと思います。」

1年目の授業は、学生をパニック状態まで追い詰める「ソクラテスメソッド」という手法で進められます。英語のハンディを背負う辛さを日本人と分かち合いたいと思っても、その学校には日本語ネイティブの同学年生は皆無でした。

ロースクールは学生サポートシステムが充実しています。
前年の優等生が教授アシスタントとして学校に雇われており、補習や相談に乗ってくれます。図書館には過去問が製本されています。学部長に相談したところ、「過去問をやってそれぞれの教授に見せるように」とアドバイスされ、それで試験を乗りきります。図書館には有能で親切な司書がいます。またライティングコンサルタントの先生が雇われており、ライティングについてじっくり相談に乗ってくれます。

ロースクールの授業の成績は厳しい相対評価であり、出席も取ります。これは全米弁護士会(ABA)によって要求される条件であり、ABAの認定がないと卒業生が司法試験を受けることができません。

ロースクールの2年から3年に上がる夏休みには、法律事務所の見習いとしてサマー・アソシエート・プログラム(3ヶ月間)に参加します。ここで働いて内定をもらうことが就職に直結するので、皆真剣に手の込んだ履歴書と手紙を用意し、100近くの法律事務所に送りますが、大部分は不採用です。
日野さんはたまに一次面接に進みますが、どうしても二次面接に進めません。日野さんは面接で日本人の習性として謙遜口調で臨んでいましたが、面接の本を読んで考え方を改め、自分のアピールに変更します。その結果、ニューヨークの大手事務所のプログラムに参加が認められました。さらにプログラムの最後には思いもかけず内定までもらってしまいます。


5月末にロースクールを卒業すると、司法試験は7月末にあります。その2ヶ月間、ほとんどの人はバーブリ(BarBri)という試験対策の塾に通います。
「学生の中には「なんだ,ロースクールに3年も行かないでもこの2ヵ月間バーブリで勉強するだけで充分じゃないの」と言う者も出る始末です。」

司法試験は7月と2月の年2回行われ、合格率は7月の試験で70%、2月の試験で45%程度とのことです。2月の試験には7月試験で不合格だった30%の人が受けるとすると、最終合格率=70+30×0.45=84%程度になるのでしょうか。
日本の50%程度とは随分な開きがあります。


実は日野さんは、2年目の半分の頃、ご主人が日本に転勤します。しかしご主人の理解で学業を続け、さらにご主人の理解で1年程度法律事務所に勤務することにしますが、結局は丸3年間働いたとのことです。

いやいや、いつもは硬い記事で満載のパテント誌ですが、この記事はおもしろさで特筆です。アメリカのロースクール制度に触れる意味も含め、ぜひご一読をお薦めします。
コメント (5)
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