弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

人工衛星「きく8号」

2007-05-12 21:47:01 | サイエンス・パソコン
日本が打ち上げた大型展開アンテナ衛星「きく8号」は、昨年12月8日に最大級の大きさを持つH2Aロケット204型で無事に打ち上げられ、12月26日、最大の難関であった大型展開アンテナを見事展開することに成功しました。

ところが、今年1月末になって、衛星内にある通信装置の一部に電源が投入できないという異常事態が発生しました。その後、組織を挙げて対策に取り組んでいたはずなのですが、状況の報告に接することができませんでした。

5月9日、以下の報道がありました。
「受信アンテナ、回復困難=きく8号故障で中間報告-宇宙開発委」5月9日18時30分配信 時事通信

「宇宙航空研究開発機構が昨年12月に打ち上げた通信技術試験衛星「きく8号」の受信アンテナに異常が発生した問題で、原因究明や対策を検討している総務省のワーキンググループは「回復は極めて困難」とする中間報告をまとめ、9日の文部科学省宇宙開発委員会に提出した。
 宇宙機構などは復旧作業を継続しながら、地上に中継設備を設置するなどの代替手段も用いて通信実験の早期開始を目指す。」

そこで、JAXAのホームページで「技術試験衛星VIII型(ETS-VIII)「きく8号」の定常段階移行について」平成19年5月9日宇宙航空研究開発機構という資料を眺めてみました。

全16ページの資料です。
途中5ページに、「移動体通信用Sバンド受信系異常1月30日に発生したSバンド受信系低雑音増幅器電源(LNA-PS)がオンできない「移動体通信用Sバンド受信系異常」については、開発担当であるNICTと共に原因究明・対策作業を実施中である。引き続き実験運用との整合を図りつつ原因究明・対策作業を実施する計画である。」とあるのみで、その他は順調に経過している状況が報告されているのみです。
最後の16ページで、「大型展開アンテナ受信部の不具合による基本実験への影響」として、
・受信系全損の場合の影響→影響あったりなかったり
・32台中4台のLNAのみ使用不可の場合の影響→(ほとんど)影響なし
と記載されているのみで、全損の可能性がどの程度あるのかはさっぱり分かりません。

時事通信の報道のニュアンスと全く異なります。

そこで、故障した通信装置を担当しているNICT(独立行政法人情報通信研究機構)のページで中間報告を見てみました。
「「きく8号」の移動体通信ミッションは、大型展開アンテナ反射鏡部、アンテナ給電部、中継器部等から構成されている。地上携帯端末等からの電波は、「きく8号」の大型展開アンテナで集められ、アンテナ給電部にある31台の低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)(1個は消しゴム大)で並列に増幅され」このLNAにLNA-PS(LNA電源系)から電源が供給されます。
1月30日にこの電源をオンにしたところ、LNAに電気が供給されなかったのです。調べた結果、電源の過電流保護回路が働いて電気が供給されないらしく、保護回路が働いた原因はどこかで回路がショートしているため、というところまでわかりました。

LNAは、4台を一組として溶断ヒューズが挿入されているので、もしLNAのいずれかでショートが起こっており、ショートに基づいてヒューズを溶断することができれば、32台中4台以外は生き返ることとなります。
現在、その可能性を探っているようですが、生き返る可能性は低いようです。

今回、いくつかの問題を感じました。
1.電源供給部というごくごく基本的なところで故障が発生し、そのために衛星を使った主要実験ができないというのでは、何ともなさけないです。

衛星の信頼性設計に問題があったのでしょうか。

日本の衛星開発では、身の丈を超えた過大な計画を立ててしまい、1個の衛星に膨大な費用をかけ、基本的な技術力の問題で計画を達成できなかった事例が過去にいくつもあります。今回の事例がその延長でなければいいのですが。

2.宇宙航空研究開発機構が報告のために作成して公開した資料では、問題の姿が全く見えてきません。責任逃れを目的とした資料なのでしょうか。

3.報道で「受信アンテナが故障」と書かれると、あたかも大型展開アンテナそのものに故障があったように読めてしまいます。あくまで通信回路の問題なのですから、そこを間違えないように正確に報道して欲しいものです。
コメント
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