魚と泡

2012年07月16日 10時34分14秒 | マーロックの雑記

                                           ォォォォォ    ・・・・・

                               コポ

魚が見える・・・

船底の倉庫には丸い窓が一つあって、そこから海の中を見れる。

外は天気がいい様で、太陽の光がよく届くから泳いでる魚が見える。

 黒猫とリスがいない。

少し寝ていたけど、その間にいなくなったみたいである。

細長い魚が、窓の前を泳いだ。

マグロいないかな。

                    コポコポ  ・・・

                                            ギィィ  ・・・

FOXP2という遺伝子がある。

私たちとの共通の祖先が一番近いチンパンジーのFOXP2は、715個のアミノ酸を指定するコードで、人間のものはそれに2つアミノ酸が付加されている。

このわずかな差が、確認されているだけで116種類の脳細胞の活動に影響を与えることが分かっている。

この遺伝子に異常があると、発話と言語理解の両方に影響を受ける。

FOXP2の働きで、脳の組織と発話器官を作っている様――神経の発達やコラーゲン、軟骨に軟組織の生成を促す。

人以外の霊長類も小さな言語野を持っているけど、人間のは大きく発達している。

ほとんどの人は左側の脳にある――右側や左右両方に言語野を持つ人もいて、ほとんどは左利き。

言語野が扱うのは、一定の規則を持ったコミュニケーション手段である。

言語としての意味を持たない叫びなどは言語野では扱われないけど、正式な手話は言語構造があるので、言語野で扱う。

文字の読み書きは、脳にあらかじめ専用の領域を持っていない。

なので教えられないと、読み書きはできない。

読み書きにも言語野は使われるけど、視覚野から文字の情報を受けたり、運動野から文字を書くための筋肉に指令を出さなければならない――この流れに支障が出ると、失読症になる。

左側頭葉の前の方に発話機能のブローカ野があり、少し離れた後ろ側に言語理解のウェルニッケ野がある。

その後ろ側に角回という領域があり、ここが損傷すると読み書きが不自由になる。

角回が、視覚認識とそれ以外の言語処理を橋渡ししていると考えられている。

角回の周囲が傷つくと、文字を書くことはできるけど黙読が出来なくなる。

ある女性は、話し言葉を理解できるし文字を書くこともできる。

だけど、書いたものを読み返すことができない。

声に出してなら読めるし、その自分の声を聴いて意味も理解できるけど、「見るだけ」では何も理解できないのである。

視覚野から角回へのニューロンの経路を損傷すると、目から届く文字の情報とその言葉の意味が一致させられないため、黙読が出来なくなると思われる――耳からの情報はルートが異なるため、意味を合わせることができる。

失読症にはさまざまな症状があって、原因もそれぞれだと思われる。

ブローカとウェルニッケの間に島という領域があり、ここは言語野どうしを結んで調整する場所で、失読症の人の脳をスキャンするとここが機能していない――言語野がばらばらに活動している。

―――島と前帯状皮質には、フォンエコノモニューロン・・・VENというひょろ長いニューロンがある。

前帯状皮質ではその下の大脳辺縁系と皮質を繋ぎ、本能的な反応を皮質に送る橋の役割をしていると考えられる。

島では本能的な自己感覚を橋渡ししていると思われる―――

                                                  ・・・・・   ォォォォ

               ポコ

読み書きと違い、言語を理解して発話する能力は脳にその機能が生まれつき備わっており、適切な時期に適切な言語に接するだけで、複雑な言語能力を発達させることができる。

言語野の発達は前頭葉の発達と同じ時期で、自意識も同じころに芽生える――顔に色粉を付けて鏡を見せると、幼いころは鏡を拭こうとするけど、言葉を話し出す頃になると、ちゃんと自分の顔を拭く。

42年前に、合衆国で13歳の女の子が発見された。

見たり遊んだりするものが何もない部屋に、生まれてからずっと閉じ込められていた。

女の子は跳ねたり手を伸ばしたりすることもできず、部屋の幅よりも広い範囲に焦点を合わせることもできなかった。

しゃべれる単語も少なく、その後の学習で語彙は飛躍的に増えたけど、幼児が本能的に習得できる文法は身に付けることが出来なかった。

この女性の脳をスキャンすると、言語野が委縮していた――右側に言語野があったけど、これ自体は病気ではない。

このため話しかけられても、環境音として処理してしまう。

監禁されていた部屋の隣りの浴室の音、床のきしみ、遠くの鳥のさえずりなどがわずかに届いていたようで、環境音を扱う機能は何とか発達していた。

ある程度成長してから身に付けた第2言語は、母国語とは処理される領域が違う――なので、脳の損傷で母国語を失っても、第2言語は扱えるというケースもある。

ウェルニッケのすぐ近くに、子音を聞いたときだけ活発になる小さな領域があり、ここを抑制させると子音のわずかな差で判別する必要のある単語が理解しづらくなる――母音中心の単語なら問題ない。

言葉の意味はウェルニッケの領域内かその近くで判断され、一次聴覚野とウェルニッケの連絡が上手くいかなくなると、語聾という言語障害になる。

語聾は、文章を読んだり書いたりは問題なく自分で話すのもできるけど、相手の言葉が理解できない――声は届くけど言葉と感じないとか、雑音にしか聞こえないらしい。

ウェルニッケそのものに損傷を受けると、ウェルニッケ失語症という言語障害になることがある。

この患者は正しい発話ができるので、一見すると障害が分からない。

だけど近づいて話をよく聞くと、ちんぷんかんぷんであることが分かる。

あきらかに意味の通じない単語を使ったり、意味自体が良く分からない単語を使ったりする――文章自体は、それらしくまとめる。

ウェルニッケ失語症の人は、自分で何をしゃべっているか分からないから、変なことを話していると意識していない。

意味を理解していないから、かなり奇妙な文章でもすらすら話す――発話が別の領域でコントロールされるため。

そういう事情でコミュニケーションが出来ないので判断が難しいのだけど、ウェルニッケ失語症の人は論理的な思考能力は失われていない様。

ブローカはウェルニッケよりも前の方、前頭葉の側にあり、あごや喉頭、舌、唇の動きをコントロールする運動野と接している。

ここに損傷があると、言語は理解できるし話したいことも頭に浮かぶけど、文章で話すことができない。

とぎれとぎれの電報のような話し方になる。

まったく話せなくなる場合もあるけど、外国人と話す時みたいに、効率的に単語を使ってかなりの情報を相手に伝えれる人もいる。

ブローカとウェルニッケの間の領域が損傷を受けると、様々な言語障害になる。

2つの言語野の連絡が弱くなると、言われたことを反復できない――ウェルニッケで認識した言葉を、発話のブローカに伝えることができないため。

逆に連絡が強くなると、何度も反復する反響言語という障害になる。

脳卒中などで言語野の周囲を損傷して言語野が孤立すると、話せなくなって言語の理解もできないように見えるけど、一般的な内容なら言える――「空は青い」と言えば、「雲は白い」と返したり。

言語はとても発達しているので、ちょっとした内容の話を、大きく膨らませることが出来る。

そんな話が楽しい事もあるし、社交上手という印象を与えることもできるだろう。

その傾向が極端になると、ウィリアムズ症候群になる。

ウィリアムズ症候群のある子供は、なかなか言葉を発しなかった。

バブバブ言わないしママとも言わない――3歳の時に、精神遅滞の兆候が出た。

5歳のときに初めて話したのが「この扇風機動かないよ!」という完成された文章で、周囲を驚かせた――暑い日で、主治医の待合室で扇風機の羽根に指を当てようとしていたので、受付の人がプラグを抜いて高いところに置いたのである。

その時から、突然普通に話し出した――それまで聞いて覚えていた言葉を、いきなり使いだした様。

9歳ごろには大人と変わらぬほどになった。

抑揚も上手く自信たっぷりで外向的で、だれとでも話し続ける。

ただ、話の内容自体は5歳の頃から進歩はなかった。

ウィリアムズ症候群は遺伝子の突然変異で起き、知的障害があるものの言語能力だけ異常に発達する。

10歳のウィリアムズ症候群の子供に2つのものを持って来てくれるように頼むと、こんがらがって違うものを持ってくる。

靴ひもも結べないし簡単な足し算もできない。

絵もめちゃくちゃに描くけど、思いつく動物を書いてもらうと、多彩な一覧になる――想像上の動物も含めて、様々な動物を挙げる。

おしゃべりがいつまでも続き、少しの事を大きく膨らませて楽しそうに話す。

ウィリアムズ症候群の人に相手を騙してやろうと言う悪意はなく、作り話で優位に立とうとしている訳でもない。

情報を相手に伝えるために言葉を使っているのではなく、相手とのつながりを強めて維持したいだけなのである。

              コポポ  ・・・

                                                  ィィィ   ・・・

他人との距離を縮めてより理解を深めることは、協力して生きていく上では欠かせない。

そのために最も重要な働きをするのが、おそらくミラーニューロン。

相手が何か行動を起こした時にミラーニューロンが活発になり、共感する。

最初にミラーニューロンが発見されたのはサルの運動前野で、17年前に偶然発見された――運動野の前の方、前頭葉との間に運動前野、あるいは捕捉運動野と呼ばれる部分があって、ここは実際に行動を起こす前にシミュレーションするところ。

ジャコモ・リゾラッティを中心とした研究グループが、サルの動きと活発になる運動野のニューロンを調べていた。

ある日、食事をしているサルの運動前野を調べていた。

その実験の途中で、お腹が空いた実験者のひとりが、サルの食べ物をつまみ食いした。

サルはその様子を見ていたけど、脳の方に反応が出た。

機械のミスで片づけられることも多いのだけど、研究者はそれを逃さず、サルの前でいろんな動きを試してみた。

すると、サルが実際に同じ動きをするときと同じニューロンが、見ているだけで発火した。

つまり重たいものを持っている人を見かけたら、自分もそれと同じような気持ちになる。

これはとても弱い信号なので意識には上がらないこともあるけど、相手がどういう状態かを「考える」ことなく、理解できる。

行動だけでなく、触覚にもミラーニューロンがある。

被験者の足を少し触った後で、他人の足を触った映像を見せると、そのどちらでも活発になるニューロンが見つかった――この実験では左脳だけだけど、左右両方で重なる場合もある。

       ゴポ  ・・・

                                                  ・・・  ォォォォ

ウィリアムズ症候群の人は、無関係の内容であったり想像の事を筋の通った話にまとめ上げるけど、自閉症の人は逆に、コミュニケーションを取るのがとても苦手である――自閉症は男性が圧倒的に多い。

自閉症には様々な状態があり、同じ動きを繰り返す人もいれば、知的活動が得意で専門職に就いている人もいるし、絵画や音楽に優れた才能を示す人もいる。

ただ、自閉症の患者に共通するのが共感する力の欠如である――相手の価値観が自分とは違うのだという事が、理解できない。

この共感の欠如は、異論もあるけど、ミラーニューロンの働きが弱いためだと思われる――それがすべてではないかもしれない。

色々な表情を見せて模倣させる実験では、自閉症の子は前頭葉のミラーニューロンがほとんど働いていなかった――程度の重い自閉症の場合、ほぼ停止していた。

自閉症の成人を対象とした研究では、ミラーニューロンと関わる領域の皮質が、正常な人よりも薄いという結果が出ている。

自閉症の子供は、自分の欲求を抑えることが分からない。

ほしいものは、すぐ手を出す。

それで、ある自閉症の子の父親が、根気強くほしいものがあれば指を差すように学習させた――大人がくれるのを待つように、教えたのである。

ある日、父親が窓越しに自閉症の子がビスケットの置いてある食器棚を指さしているのに気付いた。

その子供は父親には気づいていなかったので、父親はそれを観察していた。

いくら待ってもビスケットがもらえないので、怒りだした。

指を差すのは誰かに自分の意思を伝えるためで、誰も見ていない所でそれをしても意味はないのだけど、自閉症の子にはそれが理解できなかったのである。

他人への共感は、普通の人なら無意識にできる。

だけど自閉症の人は、同様の概念を理解するのに意識的な脳である皮質を使う必要がある。

知的障害を持たない自閉症のことをアスペルガー症候群と呼ぶ――物理学者のポール・ディラックも、アスペルガー症候群だったのではとされている。

正常な人とアスペルガー症候群の人に、2つの話を聞いてもらって質問する実験が行われた。

ひとつ目は、お店から出てきた泥棒が、逃げる途中で手袋を落とす。

ちょうど通りかかった警官が、落ちた手袋を見て声をかけた――警官は、相手が泥棒だとは知らない。

振り返った泥棒は警官を見て観念し、両手をあげて今お店に押し入ったことを白状する・・・

2つ目は、宝石店に忍び込む泥棒の話で、鍵を外して防犯の赤外線ビームも床を這って上手く避けていく――ビームにあたれば、警報装置が作動する。

上手く宝石に手を伸ばそうとしたとき、泥棒は何かやわらかいものを踏んだ。

声がして、毛むくじゃらのかたまりが飛びだして警報が鳴った・・・

まず、正常な人に質問が行われた。

ひとつ目の話については「なぜ泥棒はあきらめたのか?」で、2つ目は「なぜ警報装置が鳴ったのか?」である。

脳のスキャンで、2つの質問に答える際に脳の別の部分が反応することが分かった。

最初の質問は他者の精神状態を予測するもので、前頭葉の真ん中が強く活動していた。

2つ目の質問では、そこに変化はなかった。

アスペルガー症候群の人にひとつ目の質問をすると、時間はかかったものの答えることはできた。

ただ、正常な人が活発になる部分は変化せず、その下が活発になった――ここは、単純な因果関係を見つける際に活発になる。

正常な人が泥棒の気持ちになって考えるのに対して、アスペルガー症候群の人はそれ以外の状況をヒントに、パズルを解くように答えを出したと思われる。

またアスペルガー症候群の人は、他人の表情を読むことも苦手である。

サイモン・バロン=コーエンの研究に、様々な感情の写真を見せてそれを読む実験がある。

顔の表情で感情を豊かに表現できる女優に、悲しみや満足、怒りなどの基本的な感情と、たくらみ、感嘆や興味などの複雑な感情を、それぞれ10パターンずつ表現してもらって写真を撮った。

それを正常な人とアスペルガー症候群の人に見せて、感情を読んでもらった。

写真は顔全体のものと、目や口などの一部だけを取り出したものが使われた。

基本的な表情は、顔全体で判断する――目や口だけでは分からなかった。

複雑な表情になると、目や口だけでも判断できる――顔全体でも判断できる。

アスペルガー症候群のグループも、基本的な表情は読むことができた。

だけど複雑な表情は分からなくて、目だけの写真ではより混乱した。

アスペルガー症候群は300人に1人の割合で見られ、ほとんどが男性――知能は高く、日常生活はそれなりに送れるので全員が病気だとは診断されない。

彼らは決まりごとに執着し、収集や分類がとても好き。

あまりジョークに笑わず、人付き合いは駄目で、でもいつまでも長居して嫌がられたりする。

噂話にも興味を持たず、他人が話している目の前で寝たりする。

ただアスペルガー症候群の人は相手が自分をどう思うかという意識がないので、なんとも思わない。

こうした自閉症的傾向を持った人は他人にはあまり共感しないけど、自分が興味を持ったことをひたすら追求する。

     ――  ・・・

                                         ・・・・  ィィィ

人は、他人の感情を読み取って共感したり、それに適した対応をすることができる。

ほとんどの人は、苦しんでいる人を見れば心が動揺する――わくわくしたり興奮する人も中にはいる。

感情を生み出すのは扁桃体という小さな部分で、大脳辺縁系にある――左右に一つずつあって、側頭葉の奥深くにある。

体から送られてきた情報は複数の経路で同時に処理されるけど、その中で一番速く処理され重要な意味づけが行われるのが扁桃体。

扁桃体から前頭皮質に情報が伝わり、扁桃体を経由しないで前頭皮質に送られた情報と合わさる――扁桃体を経由しない情報は、約0.25秒遅い。

笑顔になったり身構えたりする、無意識の反射的な反応は扁桃体が生む。

前頭皮質は高度な思考を生み出す部分で、異なる経路の情報や古い記憶を利用して、様々な感情を生む。

相手の感情を読み取ってそれを模倣することで、共感することができる。

顔の筋肉を動かす、つまり表情を作るための脳の部分を無反応にさせることができる――経頭蓋磁気刺激装置…TMSを使ってパルス状の磁場を照射して、脳の特定の部分の働きを安全に抑制させることができる。

この状態で顔の表情から相手の感情を読み取るテストをさせると、そうでない場合に比べて成績が一気に落ちる。

―――笑顔を作る筋肉を動かすための信号は、意識的に作った作り笑顔と自発的な笑顔で、別の経路が使われる。

作り笑顔が皮質の運動野から送られ、自発的笑顔は大脳辺縁系から送られる。

目の周りの筋肉などは、運動野からの経路では動かせない部分がある。

作り笑顔はすぐ消えるけど、心からの笑顔は消え方がゆっくりである―――

相手の感情に共感できるのはミラーニューロンのおかげで、無意識に即座に反応する。

ミラーニューロンの活動が強い人だと、他者に共感しすぎて、他人の痛みを自分も感じる――意識的に痛みを引き起こしている訳ではなく、相手の痛みの範囲を分からせているという状態の様である。

目から入ってきた情報が最初に送られて、それを意識的な視覚へと変えるのは一次視覚野で、V1と呼ばれる。

ここを損傷すると、視覚情報は脳に届くけど「見えなく」なる。

ただ、見たという意識は無いものの脳が目からの情報に反応することはできる。

このような状態を盲視と呼び、最初に確認されたのは、第一次世界大戦で視力を失った兵士が弾をよけたことである。

        コポ ――

                                             ォォォォ  ・・・・

ラリー・ワイスクランツの実験では、目標の位置と形を言い当てた。

一度も失敗することなくすべて正解だったけど、被験者に「どのくらい当たったか分かるか」という質問がなされた。

けど被験者は、「見えないから分からない」と答えた――なおV1の活動を抑える実験をすると、正常な視力を持つ人でもある程度盲視を再現できる。

これは不思議な状態で、無意識の認識が意識的な脳を伝って言葉にできるの様なのである――被験者は、盲視を繰り返すとだんだん上達する。

盲視は原始的な視覚の名残ではないかと考えられている――盲触や盲嗅もある。

盲視の人は、ものの動きや形に色だけでなく、顔の表情も認識できる。

ミラーニューロンの反応は意識するよりも早く、盲視の人でも反応する――それだけ、相手の表情を読み取ることが脳にとって重要なのだと思われる。

また、視野の周辺ではなく中心でとらえた方が反応が強い。

ミラーニューロンが働くと顔の筋肉がかすかに反応する。

皮質のコントロールから外れているため、意識的な表情の動きとは異なる。

たとえば好きな人を見ると、瞳孔が開く――散大という。

薄暗いところでも瞳孔の散大が起こるので、そういうところでは勘違いすることもあるだろう。

恐怖を感じた時には唇が横に張り、嫌悪感では鼻が少し開く。

相手の表情に反応するのも扁桃体で、左の扁桃体は声の調子に、右は顔の表情に敏感に感応する。

扁桃体が不活発だと、相手の表情が分からない。

そういう人は、興奮や喜びが得られないけど心が傷つくこともない。

けど、他人との会話に困る。

そのようなある男性は、相手の歯を見て話すという。

歯が出ていれば笑顔を返すという方法で、意識して返すので若干遅れる。

会話は途切れることなく続くため、相手にあまりいい印象を与えていないようだと言う・・・

表情を作るのも一苦労で、かなり意識しないと作れないため普段は無表情になる。

それで、その男性は言葉を大げさにすることで意志を伝えるようにしているそうである――無表情なので、そうしないと相手にちゃんと伝わらないため。

感情は分かるけど表現できない人もいる――無感情症と呼ばれている。

皮質の感情を処理する部分と、感情を表す回路の接続が悪いと起こる。

左脳の言語野との接続が悪いと、会話に抑揚がつけられなくなり、やはり大げさな言葉を付け足すことで相手に気持ちを伝えようとする――でないとうまく伝わらないので。

         ――   ・・・

                                                   ギィィ  ・・・

とても少数だけど、ウソ発見器のような力を持った人もいる。

ミラーニューロンによる顔の筋肉の反応は、無意識でしかも速い。

0.06秒程度の一瞬なため、普通の人はそれを見過ごす。

けどウソを見抜く人はそれを見抜く――どんな小さな嘘でも見抜き、85%の確率でウソを言い当てる。

そういう人は少数だけど、そうでない人も訓練次第である程度捉えられるようにはなる――質問の組み合わせなどでウソを見抜く人もいるけど、これとは違う。

そして顔の筋肉の動きは、感情そのものを生み出す働きもある。

不安そうな表情をしていると、それがかすかな不安の感情を生む。

実際になにも起きていなくても、そういうとき脳は一応理由を探す。

心配の理由というのは、誰にでもいくつかはあると思う。

何か理由を見つけると、脳から顔の筋肉に信号が伝わり、顔の筋肉の動きの程度がさらに強まる。

それが脳に戻って・・・というフィードバックが進み、悪循環になる。

心理療法のひとつに、普段から笑顔を心がけることで、その循環を反転させるというのがある。

同じことが、美容整形でも可能である。

顔のしわを消すのに使われるボトックスは毒物のボツリヌストキシンで、顔の筋肉を麻痺させることで効果を得る。

ボトックス注射を受けたひとの中には、不安や落ち込みが減って高い満足感を得たという人がいる。

つまりしわが減ったからではなく、顔をしかめられないので脳が勘違いしているのである。

        ゴポ

この表情による模倣は、他人にも伝わる。

意識できないかすかな笑顔の筋肉の振動を見せると、相手は反射的に笑顔になる――電極を使って生み出された筋肉の運動である。

              コポポ  ・・・

                                                  ィィィ   ・・・

正常な人と暴力的な犯罪者とでは、脳が同じでないことが確認されている。

特に衝動的な殺人の場合。

怒りなどの感情を抑える前頭葉が不活発で、前頭前皮質の灰色の部分が1割少ない。

犯罪者の中には、犯罪時の「記憶がない」とか「頭が真っ白になった」という言い訳をする人がいる。

最近の研究からは、言い訳ではなくてそれが本当な場合もあるようである。

感情を感じる脳の前部の切除手術を受けた人には、感情を失う人がいる――腹内側前頭前皮質の損傷が原因と考えられる。

残酷な場面を見ると、それが残酷だとは理解するけど感情の反応がないのである。

それ以外は正常で合理的な判断ができるのだけど、感情がないので物事の優先順位が評価できなくなる。

何かの判断を迫られると、様々な対応が頭に浮かぶのだけど、どれが正しいのかが分からないという。

それで、詐欺師にも騙される――無意識に送られる情報による判断である直感が、働かないためである。

このような患者の場合、感情がないので他者の為に何かをしたいという動機がなく、そのような行動も積極的には起こさない。

けれど、他者が苦しむのを見て喜ぶような感情もないため、そのような行動もとらない。

       ミャ~ゥ

研究者がサイコパスと呼ぶ人たちがいる。

彼らも感情を持たず、他人を貶めても嫌悪感を感じない。

暴力的な写真を見ると、正常な人だと扁桃体が激しく反応するけど、サイコパスは無反応である。

扁桃体が機能しないことが、サイコパスの原因だと思われる。

腹内側前頭前皮質を損傷した人と違い、サイコパスは自分から行動する。

自分の欲求を満たすために、平気で嘘をつくしだましたり脅迫したりする。

その様な行為が悪いことであることは理解しているけど、気にしないのである――扁桃体が機能不全であるため、通常の人が感じる嫌悪感などが生まれないのだ。

このため行動のブレーキがかからない。

サイコパスの割合は0.5%くらいの様――程度にも差があり、そう判断されない人もいる。

けど、犯罪者ではその割合が増える。

また、組織のトップにも多いことが知られている。

その様な社会的に高い地位にいるサイコパスは、社会のルールを守って生活している。

良心を持たないことが、他者を押しのけて富と権力を手に入れる強い武器になるからである――言うまでもなく、サイコパスでない成功者も多くいる。

                 ポコポコ  ・・・

                                                 ・・・  ィィィ

「・・・」

ニャッティラがいる。

魚が見たいのかな。

                 パサ

私は側にあった本を取って、荷物から下りる。

今日は、夕ご飯をメインダイニングで食べない。

エレガントさんの部屋に、みんな招待された。

老夫婦も来る。

それで、ノロマさんやエレガントさん達がご飯を作るらしい。

食材はメインダイニングで使うものを、コックさんが用意してくれる様。

キッチンは船底にあって、クルーが使うもの。

                  トン

                               トコ  ・・・

荷物の下から上を見ると、ニャッティラが窓の外を見てる。

魚が食べたいんだろうか。

「行こう」

「ミャ~ゥ」

              ――  タッ

                                トトン  ・・・

呼んだら降りてきた。

マッチョさんとコックさんの仕事の終わる時間があるので、いつもより夕食の時間は遅くなる予定。

だから、スイカを食べに行こう・・・

                          ィィィ  ――

                                             ォォォォォ     ・・・・・


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。