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アルバート編②

2016-04-02 14:56:31 | イケメン王宮☆その他
とても前なのでタイトルとか覚えていないやつ、

アルバート編の2話目です


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公務を終えた夜…―。

私は廊下を歩いていると、バルコニーに人影を見つけた。

(あれは……)

そのままバルコニーまで来ると、そこには思い描いた人の姿があった。

「アルバー…」

声をかけようとして、私はアルバートの表情に思わず息をのむ。

アルバート「………」

(とてもじゃないけど…声なんて掛けられない……)

月を見つめるアルバートの顔がどこか苦しそうで、胸が軋んだ。

すると、気配に気がついたのかアルバートが振り返る。

アルバート「なんですか、こんな時間に」

「いえ…たまたま見かけたので」

アルバート「そうですか。では、私はこれで失礼致します」

(アルバートの表情…どこか苦しそうだった)

私は先ほどのことを思い返すと、思い切って声をかける。

「あの……」

アルバート「なんでしょうか」

「何か悩み事があるのでしたら言ってください」

「私、聞くことだけは得意なんです」

にっこりと笑顔を見せると、アルバートは息をつく。

アルバート「まったく…プリンセスとは思えない発言ですね」

アルバート「こんな時間に出歩くのは、あまりよくないですよ。では」

軽くお辞儀をして、アルバートはそのまま行ってしまう。

(アルバート、苦しそうに見えたけど……気のせいなのかな…)

すれ違うアルバートの背中を見送りながら、私は小さく息をついた。


部屋に戻ってきたアルバートは扉を閉めると、眉を寄せた。

アルバート「……おかしい」

プリンセスの笑顔が過り、鼓動が痛いほど騒いでいる。

アルバート「…プリンセスを見ると、胸が苦しくなる」

息をつき、気持ちを切り替えるようにメガネをはずした…。



次の日…―。

勉強のための本を探しに書斎に行くと、そこにアルバートがいた。

「アルバートさん…?」

私の声に、アルバートが本から私へと視線を移す。

アルバート「ああ、あなたですか」

それだけ言い、また本を読み始めるアルバートに私は口をつぐんだ。

(あまり話しかけない方がいいのかな…?)

すると、アルバートが息をつきながらちらりと私を見る。

アルバート「…座ったらどうですか?本を読みに来たんでしょうから」

「ありがとうございます…」

私は椅子に腰かけると、アルバートの読んでいた本に目を瞬かせた。

「ウィスタリアの歴史について…調べているのですか?」

アルバート「こうして公務を休んでいる間でも、何か出来ることはあるはずですからね」

アルバート「ウィスタリアとの今後の交流にも役に立つ」

「努力家なんですね」

(そういうところは前から変わらないな…)

微笑むと、アルバートはメガネを指で押し上げる。

アルバート「…褒めてもプリンセスとは認めませんよ」

「わかってます」

(恋人になる前も、こんなやりとりしていたっけ)

そんなことを思っていると、ふと思いつく。

(そうだ……)

「あの…」

アルバート「なんですか」

「もしよろしければ、次の休日にウィスタリアを案内させてください」

「本を読むより、城下のことがわかると思いますし…」

アルバート「………」

何も答えないアルバートに私は慌てて言う。

(もしかして、困らせてしまった…?)

「…迷惑…でしたよね」

「もしもの話だったので気にしないでください」

小さく笑って、書棚に向かおうとすると…。

アルバート「待ってください」


私はアルバートに呼び止められて振り返る。

アルバートは咳払いをすると、口を開いた。

アルバート「…今後のために、案内してください」

(うそ……)

アルバートはそれだけ言い残し、本を脇に抱えて立ち去っていく。

アルバート「では、また後ほど」

「わかりました」

嬉しくて、少しはしゃいだ声で答えると、

私は心がふっと軽くなるのを感じた。

(恋人同士になる前も、ウィスタリアの案内をしたりしていたし)

(もしかして記憶を取り戻すキッカケになるかもしれない)

私は小さな期待を胸に潜ませながら、閉まる扉を見つめた…―。



そうして、迎えた休日…―。

私とアルバートは待ち合わせをして、城下に向かうことになった。

アルバート「……」

約束の時間前に着いたのに、すでにアルバートは門の前に立っている。

胸の中で鼓動が跳ねて、わずかに頬が熱くなる。

「お待たせしました」

アルバートは私に気がつくと、咳払いをした。

アルバート「さっさと案内してください」

「はい…では、行きましょう」

(なんだか、初めてのデートみたいだな)

素っ気ない態度のアルバートに、くすっと微笑んで私は歩き出した。


市場に着くと、私は屋台で買ったフレッシュジュースを渡す。

「こちらが市場ですが、果実のジュースがおいしいんですよ」

アルバート「…なるほど」

アルバートは興味深そうに頷き、ジュースを飲んでいる。

すると……

アルバート「あなたも飲んでみてはいかがですか」

一口飲んで目を細めたアルバートは、そのジュースを私に差し出した。

「えっ……」

(これじゃあ…間接キスなんじゃ……)

思いがけない行動に、頬が火照ってしまう。

すると、そんな私に気付いたアルバートが気まずそうに目を逸らした。

アルバート「こ、これは決してそういう意味では……」

アルバートは口をつぐみ、気を取り直すように咳払いをする。

アルバート「次に案内してください」

「は、はい…」

私は答えながらも、跳ねる鼓動に眉を寄せる。

(どうしよう…なんだか変な空気になってきちゃった)


次に私は、町の景色が良く見える高台にアルバートを案内した。

「ここから、ウィスタリアが見えます」

風になびく髪を押さえながら、広がる風景に目を細める。

アルバート「これは…素晴らしいですね」

アルバートの声に、ふと私は視線を向けた。

(…アルバート)

短い髪を風に揺らし、目を細めるアルバートの姿に、私は目が離せなくなる。

(前にもアルバートとこの景色を見たことがあったっけ。確か、あの時は……)


―あれは、恋人同士になってから城下に出かけた日のこと…

アルバート「綺麗だ…」

「私もそう思います。本当に綺麗な景色…」

町が一望できる高台で微笑むと、ぎこちない咳払いが聞こえた。

アルバート「…違います」

「え?」

アルバート「今、褒めたのはこれです」

アルバートの手が伸びて、髪に触れる。

アルバート「あなたによく似合っている」

(景色じゃなくて…髪飾りを褒めてくれるなんて)―


(あの時、嬉しかったな)

小さく思い出し笑いをしてしまうと……。

アルバート「プリンセス」

アルバートはメガネを押し上げると、真っすぐに私を見つめた。

アルバート「その…よく似合っています。ピアス」

アルバートの言葉に、私ははっと瞳を揺らす。

(あの時は髪飾りだったけど…同じ状況…)

思わず耳元に触れると、蝶のピアスが揺れる。

そんな私の様子に気がついたのか、アルバートが尋ねてきた。

アルバート「…何か?」

「いえ、ありがとうございます」

(どうしてだろう…嬉しいはずなのに…)

恋人同士だった時の思い出と重なって、胸に切なさが込み上げる。

(アルバートの記憶に私がいないことが、つらい…)

瞼が熱くなって、涙が滲みそうになったその時…。

「あ……」

頭上から、ざあっと雨が降ってくる。

見上げていると、アルバートが私に声をかけた。

アルバート「そこで雨宿りをしましょう」


「濡れてしまいましたね」

アルバート「ええ。大丈夫ですか?」

アルバートが気にするようにそばに近づいた瞬間、耳に刺さるような雷の音が鳴った。

「……!」

思わず、目の前にいたアルバートに抱きついてしまう。

そのままの勢いで、私たちは床に倒れ込んだ。

アルバート「……なっ!」

アルバートに覆いかぶさってしまった私は、慌てて謝る。

「す、すみません…」

そうして身体を離そうとした、その時…

(え…?)

アルバートが優しく私の頭を自分の胸元に引き寄せた。

私の鼓動が、加速していく。

アルバート「このままでいますから」

アルバート「あなたは怖がらなくていい」




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つづく


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