脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

慢性硬膜下血腫にご注意

2017年11月13日 | これって認知症?特殊なタイプ

久し振りに友人から電話がありました。8月に入ったころだったでしょうか。
写真は「城ヶ崎海岸Jガーデン、秋。」
Jガーデンのオーナーの石井さんはシダの収集家として有名ですが、珍しいネストリーブス

 
「変わりなくお元気?」と問いかけるのと「実はね…」という言葉とどちらが早かったのでしょうか。
ご主人(76歳)が納屋の二階から落ちてしまった!というのです。
絶句してしまった私に「すぐ病院に行ったけど、おかげさまで大したことはなくてそのまま帰っていいことになったのよ。骨も折れてなかったし不幸中の幸いだったと思ってる」と安心の言葉が続きました。
「頭は打ってないの?」と尋ねると「それが打っちゃって、すごく出血があったの。びっくりしたぁ。でも、脳外科の先生がCTだか撮ってみてくださって何ともないですよって」
ネストリーブスの二種類の葉

私「頭の外に出血した時は、頭蓋骨が大丈夫だったら頭皮からの出血ということでしょ?血はたくさん出るけど大丈夫なのよ。」
専門医にかかって「大丈夫」と診断されたのだから、これ以上言う必要はないかなあと思いながら、やっぱり言ってしまいました。
私「頭を打った時には、カレンダーに、打った日と、3か月くらい先に事故のことを書いておかなくっちゃあダメよ」

「慢性硬膜下血腫」の説明をしておいた方がいいのじゃないかと思ったのです。
頭を打って、そのときはCTをとっても異常はないのに、1~3か月くらい後にいろいろな症状が出てくる場合があります。何しろ電話ですからどこまで伝えられるかと思いながら説明しました。ここに再掲してみましょう。
私「脳は大切なものだからとっても守られてます。柔らかい軟脳膜がピタリとカバーしてくれて、その外側に、よく聞くでしょ?クモ膜下出血。そのクモ膜っていう血液がたっぷり含まれた膜がカバーします。さらにその外側に硬脳膜があるの。そして全体は脳脊髄液という液体におおわれていて、その外側に頭蓋骨。そして頭皮。そして毛髪ね。
だから、頭を打ってコブができても、そのコブは頭蓋骨に守られている脳とは無関係。頭皮の問題ね。
さっき言ったように、頭蓋骨に骨折がなくて頭の外にたくさん出血しても、やっぱり頭皮の問題だってわかるでしょ」

「ただね。こんなことも考えなくてはいけないの。お弁当箱に水を入れてお豆腐を運んでる時に落としちゃったとするでしょ。お弁当箱は何ともないのに、中のお豆腐が崩れることもあるでしょ。
脳が水に浮かんでるから、激しい衝撃で頭を打ったらもちろんその部分は頭蓋骨にぶつかって壊れちゃうけど、その揺り戻しで、ちょうど逆の場所もやられることもあります。そんな時には、左の前頭葉を打ったのに右脳の後ろ側の症状が出たりするのね。
今言ったことはとっても怖がらせたかもしれないけど、CTを撮れば見えるから見落とすことはないと思えばいいのよ」

「いよいよ慢性硬膜下血腫の説明です。
頭を打ったその時は、脳には何の損傷もなく、だからCTをとっても『何ともありません。きれいです』と言われるのだけど、しばらくたった後で『おかしなこと』が起きてくることがあります。
頭を打った衝撃で静脈が傷ついて、徐々に出血していって硬膜の内側、これを硬膜下って言いますけど、ここに血腫を作るの。その血種が大きくなっていくと、硬い頭蓋骨は押せないから、柔らかい脳を押さえることになるでしょ。押さえられた部分の脳はうまく機能できないから症状が出るというメカニズムなの(正確にはちょっと違う点もありますが一般的にはこの理解でいいでしょう)。
どこに血種ができるかによって出てくる症状は全く違うことになるのね。
うまく歩けない。手に力が入らない。ボーとしている。何を言ってるかわからない。変なことをする(確かに右脳障害は『変なことをする』としか言いようがないけれど)。またはできていたことができなくなる…こうして症状を説明するとボケたみたいでしょう。この慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症は手術で治る認知症として、マスコミでセンセーショナルに取り上げられることが多いから、気を付けていてね。
(関心がある方はこちらもお読みください)

正常圧水頭症の診断には「急激な変化」が必須条件

高齢者やアルコールをたくさん飲む人は脳の萎縮が進んでいることが多いから、頭を打ってから時間がたってから症状が出ることが多い。だって脳がピチピチ状態で頭蓋内に収まっていたら、血腫ができたらすぐ圧迫が始まるでしょ。とはいえ血腫のできるスピードの差もあるでしょうし、だから1か月から3か月くらいの期間を見るのよね。

だから10月くらいまでは気を付けていてね。変なことが起きたら、すぐ脳外科に行くのよ。冬になるころまで大丈夫なら、もう忘れていてもいいけど」
当然ですが、「どんなことが起きるのか」と心配そうな返事がありました。
「ウーン。どこに血腫ができるかわからないからどんな症状か言えないけど、絶対わかるから。それとあれあれという間にどんどん症状が出てくるから見落とすことはないから」と励ましにもならないような励ましをして電話は終わりました。
トックリヤシ

10月末に電話がありました。
「ありがとう!この前、慢性硬膜下血腫の話してくれてて!」
私「えっ!血腫ができちゃったの!」
「でも、もう手術も終わって退院もして普通に元気にしてるから心配しないで!」
私「慢性硬膜下血腫は、タイミングを外さないで先生のところに行けたら、脳外科では一番簡単なオペって言われてるくらいだから、そして後遺症なんか残さないから心配はしないけど…万一のためにと思って言ったんだけどねえ、まさかね!」
ふたりの間では「!」の連続みたいな会話が続きました。
リュウゼツラン

私「ところで、どんな症状だったの?すぐわかったでしょ。病院に行かなくっちゃあいけないって」
「ほんとに、言われたとおりだったの。
なんか『左手がおかしい』って言い始めたの。
スーパーに行って買ったものを袋詰めにする時、いつもきちんと入れて『上手だなあ』と感心するんだけど何だかメチャクチャで、私が代わったくらい。それから、自転車に乗ってるのを見たら左へ左へ寄って行ってしまって落ちそうになるし、車に乗ったら『変だなあ。シートベルトがかけられん』というの。
だからすぐに病院に行ったらそのまま入院だった。
考えたら、けがをした時に先生から『何かあったらすぐ来なさい』って言われてたけど、この前の説明で慢性硬膜下血腫のことがよくよくわかってたから、あまりビックリもしないで病院に行けたし、手術と言われてもショックじゃなかったのね」

このブログを読んでくださってる方は、まさに右脳の症状が出ていることがわかるでしょう。
私「CT見せていただいたの?血腫ができていたのは右耳のちょっと上のあたりだったんだけど」
「え!なんでわかるの。ここが右耳なんですけどと説明があったの。その上だった!」
説明が重なる部分もありますが、脳の左側に慢性硬膜下血腫が起きた場合にはこんな症状が。左右でまったく違うことに感動しますね。

慢性硬膜下血腫で初笑い

バオバブの実

この話には続編があります。長電話になったことを白状しなくてはいけませんが。
「お父さんの幼なじみがおんなじ慢性硬膜下血腫でオペしたのよ」
私「頭を打ってからどのくらい?」
「それが、いつかは分からなかったんですって。ただ慢性硬膜下血腫の症状があってオペしたみたいの」
私「どんな症状だったの?」
「靴を履いたまま、寝ちゃったり、ボタンがかけられなかったりで洋服がうまく着られない…それも急にそうなったんだって」
私「やはり、右側ね。頭を打ったのがいつか分からないって、もしかしたらお酒をたくさん飲むんじゃないの?この前言ったみたいにアルコールが過ぎる人は脳の萎縮が進んでいて血腫が大きくなって初めて症状が出るから、頭を打ってずいぶん経ってから症状が出ることが多いのよ。しょっちゅう酔っぱらっているのかも。だからどこかで頭を打ったに違いないということで皆が納得したんでしょう。オペがうまくいっても、後の家族関係は難しいかも」
なぜこんな話になったかというとこの友人とはいつも認知症の話をしている間柄だからです。これも彼女とのおしゃべりでした。よかったら。

「親をみたことがない男って所詮こんなものよ」と看護師さんが。



 

 

 




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