脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

正常圧水頭症の診断には「急激な変化」が必須条件

2017年01月07日 | これって認知症?特殊なタイプ

この記事は2011年8月「劇的回復!と喜びすぎないで。正常圧水頭症」としてアップしたものです。(レイアウトのずれが直せません)
昨夜フェイスブックを読んでいたら、お母さんが正常圧水頭症からある程度回復した方の投稿がありました。関連していますので再投稿します。

N県T市のK池保健師さんから電話があったのは、夏の直前だったでしょうか。検査は6月16日実施でした。
「急激な変化なんです。娘さんもおかしいっていってます。MMSも変と言えば変だし・・・得点と30項目も合わないようだし・・・とにかく、変なんです」
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言いかえれば、いつも強調している

   A:脳機能検査
   B:生活実態
   C:生活歴

この三つの関係が
「Aもおかしいし、Bとも合わないみたいだし、とにかく急激な変化だって家族が言ってるんです!」

私の回答

「MMSの低下順がおかしいというけれど、たまたま間違ったんじゃなくて実力としても本当にできないのですか?その確認はしてありますか?」
私たちはAの低下順がおかしい時は、まず「検査上の不備があったのではないか」と考えます。再確認やその他の方法を駆使してもなおその項目が本当に能力的にできないのかどうか、確認しなくてはいけません。

→テストの再確認
「30項目と一致しないみたいというけれど、家族関係はチェックしてありますか?ご本人が難しくて関係性が悪いことだってありますね。そうするとより悪い結果になるんですよ」
生活実態とのずれがある時には、「本当に正しく申告されている」ことを確認しなくてはいけません。

→生活実態の再確認
「急に変になったと言うけれど、本当に急なんですか?K池さんがその人をよく知っていて、ほんとに直前まで普通に元気にしていらっしゃったことを知ってるんですか?」
とくに家族は「今までは大したことはなかったのですが、急に変になりました」といういい方をよくします。迷子や不潔行為などちょっとした大ボケに相当する事件が出来した時に、その前にはそれほどのことが起きてなかったという意味で、「急にこんなことになってしまって」というのです。

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→生活歴の再確認                                   
私たちが高齢者の方から相談を受ける時には、

   A:脳機能検査
   B:生活実態
   C:生活歴

この三つの意味するところがA=B=Cになるというつもりで事を運ばなくてはいけません。
当てはまる確率は95%くらいだと考えていいでしょう。                                                                                       

とにかくA=B=Cになるはずという姿勢が必要です。そのことを私は強調しました。ですから、K池さんの大きな疑問に対して水を差すような言い方を続けたのです。それでもK池さんは「やっぱり、変なんです」と強調します。そこで説明を促してみました。
ツバキの実
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K池さんの話です。

「家庭訪問しました。
まず、A脳機能検査ですが、前頭葉は全滅で、これはいいですよね。
MMSは15点。時の見当識は1点でした。でもカレンダーを見て答えようとしたりA4版白紙には6月って書けたり、実力がわかりませんでした。もっとおかしいと思うのは想起が1点。しかもヒントを出すと直ちに満点になるんです」

「様子を見ると、うまく歩けないみたいだし、失禁がひどいんです(これは後から聞きましたが、部屋中にパンツが干してある状態だったとか)。ボーとしてるし、春ごろお会いした人と同一人物とは思えませんでした」

「近所に住んでよく行き来のある娘さんとご主人から30項目をつけてもらいましたが、二人で話し合いながら付けてくださった結果は、1から18まですべて当てはまる。さらに25(食事をしたことをすぐに忘れる)27(家庭生活に会場が必要)30(大小便を失敗)に丸が付きます。30はわざわざ小を丸で囲んで小便だけの失敗であることを訴えていました。生活実態とかけ離れてはいないと思います」
「ほんとに急激な変化で娘さんは『何が起こったんだろう?』と泣いていました」
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「Aの低下順がおかしい。一応A≒Bとは言えるけど、良く検討すると、この点数では失禁は早すぎます。そのうえ、それを説明できるCがない。そうすると二段階方式では、次に何をすることになってますか?」と私が促すと

「受診です」

「そうですね。もう一度ご家族に確認して急激な変化というのが本当に確実になったら、脳外科の受診を勧めてあげてください」

翌々日に脳外科を受診して「正常圧水頭症」との診断が下ったという報告がありました。さっそく入院、少しして髄液を抜くことになったそうです。

先日いただいたK池さんのメールです。
「さて、○○さんですが、今は、以前の生活に戻りつつ、夫も本人も笑顔が見られております。
7月7日 髄液を抜きました。主治医からすぐに効果はでないと言われたということでしたが、『帰りには、なんとなく足の上がりが良くなったように思った』と夫が言われていました。
デイの送りだしに行っているヘルパーさんからも日が過ぎるごと歩行・物忘れが改善されてきたと報告を頂きました。
7月21日、約一カ月ぶりに 訪問して驚きました。杖なく歩け、庭の草取りもしていました。顔の表情明るく、物忘れも感じないようになり感情コントロールもしっかり出来ていました。味付けも前に戻りました。失禁も少なくなりました。本人からも夫からも『脳外科に行って良かった。良い人達と出会えたことを感謝している』と喜ばれました。
現在、転倒防止からリハビリを取り入れたデイを利用しています。
先生には、感謝しております。
髄液を抜いた後、どんどん症状が消えていったので、私もびっくりしています。良い、勉強をさせて頂きました」


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最近マスコミでも、手術で治る認知症ということで、今回のような正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫が、センセーショナルに取り上げられていますが、知っておかなくてはいけないことが二つあります。

まず最初に知らなくてはいけないことは、その頻度は非常に低いことです。
考えても見てください。このT市で、もうすでに数百人の脳の健康チェックが行われていますが初めてのケースですよ!

もう一つ心しておかなければいけないのは、このように簡単に劇的に改善すると、「どうにかして、うちのおばあちゃんも劇的に改善させたい」と思ってしまう家族が出てくることです。

認知症の大部分を占めるアルツハイマー型認知症(脳の老化が加速されたもの)は、地道な脳リハビリしか改善の道はありませんからね。
それはそれとして、今回のケースは本当に良かったですね。
AもBもCも同じように大切な情報であることがわかっていただけたでしょうか?

 

 

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