脳機能からみた認知症

エイジングライフ研究所が蓄積してきた、脳機能という物差しからアルツハイマー型認知症を理解し、予防する!

脳機能検査をする意味(続)ー2022年の桜の記録と共に

2024年04月03日 | 二段階方式って?
(2022年4月投稿の「桜の下でゲミュートローゼを考える」が、前回投稿の記事を補足しているので再投稿します。この年もたくさん桜巡りをしました)

今年も桜を堪能しました。
圧巻は、今年初めて出会った三島市玉澤霊園の山桜。樹齢400年ですって。

我が家の稚木の桜(わかきのさくら)2年生でもう花をつけるという、牧野富太郎博士が最も好んだ可憐な一重の山桜です。

伊豆は暖かいので、色鮮やかな寒緋桜も時々目にします。

すごい…

伊豆市、法泉寺の枝垂れ桜。ひっそりと山を背景にたたずんでいました。ここも初見です。

見る人もなく…見事に咲いてくれていました。

聚光院伊東別院に咲く莫眼花(ばくがんか)。禅語で「眼花することなかれ」と読み下し「眼病の時に花でないものを花と見間違うように、真実の花でないものを花と見てはいけない。心を平安に落ち着かせているとそういうことは起きない」というような意味らしいです。

桜守佐野藤右衛門さんが発見し、命名した突然変異の桜です。一重から八重に向かう一番最初の段階がよくわかります。現時点では世界に一本といわれているようです。

この角度はどうでしょうか?ちょっと大ぶりな花でした。蕾ははっきりとピンク色ですが咲くとほとんど白い花になります。考えたらこの桜も始めてみました。アンテナを立てておくと、情報は飛び込んできてくれるものですね。

ところで「ゲミュートローゼ」です。
高校のクラスメートからのメールでこの言葉を発見した時が初対面。プーチンのウクライナ侵攻に絡んで書かれていたので、精神的な疾患を意味しているだろうとは思いました。
じつは私、去年、心理領域初の国家資格公認心理師試験に合格したんです。
近況報告ー公認心理師試験に挑戦
一応、「心理職」と名乗れるのですが、全くこの言葉を知りませんでした!
困ったときの検索頼み。
「「ゲミュート」とは、思いやり、同情、良心などを意味するドイツ語である。 このような高等感情を持たない人を、ドイツの精神科医クルト・シュナイダーは「ゲミュートローゼ」と名づけたわけで、「情性欠如者」と訳される」
シュナイダーは、統合失調症の症状をあげたり精神病の診断に寄与した人で、精神病質の10類型もシュナイダーが言い始めたらしいです。この辺りは確かに勉強したような気もしますが「ゲミュートローゼ」とは書いてなかった…没年が1967年なのでかなり前の方です。つまりずいぶん以前からこういうくくり方はあったということですね。

熱海なぎさ公園の大寒桜。花の間に熱海城が見えました。

私のキャリアは、精神科で心理担当として勤務したところからスタートしました。大学では臨床心理は全くやっていませんでしたから、診察室で出会う患者さんの話に耳を傾けるとびっくりすることの連続。考えたらとんでもない心理担当者だった…と赤面しながら反省しています。
統合失調症の方の話を一生懸命聞いていくと、どこかのところから「わかりません」と音をあげたくなる。うつ病の方には励ましたくなる。そう状態の方に対応すると言い聞かせたくなる。
全部やってはいけないことですから、ひたすら忍耐の日々でした。神経症の方の訴えはこちらも苦しくなる。場面緘黙や不登校や家庭内暴力の子どもたち。それまでに人生で全く体験がなかったことの連続で、仕事をそこから始められたことは、ほんとうにラッキーだったと思います。患者さんたちの話を聞いたり、投影法を主とする心理テストをやったり。箱庭療法もしました。
精神科で働いていたときには、症状を丸ごと理解しようとする、それは目の前の人が感じていることをそのままに受け入れることでもあるのですが、その気持ちは間違いなくあるのですが、本当に難しいことでした。

河津桜に似ていますが、これは伊東小室桜。伊東市にしかありません。オオシマサクラとカンヒサクラの自然交配種だそうです。

その後、ドクターの転出があって脳外科で働くことになりました。病気やけがで脳に障害が起きた時に、治療前後の機能の比較、または後遺症として受け入れざるを得ない症状の説明、またその経過観察のために行われる神経心理テストの担当になりました。
一番最初に、脳外科のドクターから言われた言葉にはショックを受けました。
「脳が壊れると、できないことが起きてくる。それはどうしようもないことだから、できないことをよく見なさい。そしてそれをちゃんと説明してあげることが大切。あいまいな希望を持たせることは慎むべきなんだ」
きっと、「そんなぁ!」という顔をしていたのでしょう。
「脳が壊れると、どうしてもできないことはできないんだよ。脳が壊れて手足にマヒが残ってしまった人をどう励ましても、本人がどう頑張っても重い不全マヒの時は動かない。軽ければリハビリで改善できるけども、元通りというわけにはいかない」こんこんとそうおっしゃったドクターの声やたたずまいは、40年近くたっている今でも鮮やかによみがえります。あの時、ドクターはご自分の無力感も伝えてくださったのだと思います。
脳外科での勤務を続けるうちに、「全くその通り。壊れてしまった脳は以前と同じようには機能しない」と私も納得できました。
運動領域は壊れた部分にぴったり一致する運動障害が出てきます。左脳が壊れた人、右脳が壊れた人。そして、当時も現在になってもまだまだ理解されているとは思えない前頭葉に障害が残った人達が、特有の後遺症を示して、その働きを教えてくれました。

我が家で咲く河津桜

そして次の段階になりました。精神科で出会った方たちの症状は、脳の機能不全の面もあるのではないかと感じるようになったのです。症状を脳の機能障害と断じることには、感覚的な抵抗があることは、私にもよくわかります。困った症状に何らかの意味づけをして「全体的に理解してあげる」方が優しいような気がしますよね。
症状を脳の機能障害と考えるというのは、対人関係に問題がある人は、成育歴や現在の環境の影響以前に、対人的な情報を処理する脳の分野に問題があるのかもしれない。と推理するというようなことです。もう少し具体的に書いてみましょう。
例えば重度の認知症になると見当識の障害が起きてきます。今がいつなのかわからない。ここがどこなのかわからない。この人が誰なのかわからない。
夜中に騒ぐ。徘徊する。それに意味づけをして、その行動を理解しようとする立場があります。いっぽうで脳機能から見ると見当識をつかさどっている領域が機能できていない(だから夜中に騒いだり、徘徊したりすることには意味はない)と考えるのです。
どちらが優しいというか、その人に寄り添っていることになるのか考えてみてください。もう一例あげてみます。
脳卒中の後遺症で歩けない人に向かって「なぜ歩けないんでしょうねえ。
過去の何かが影響しているかもしれません。考え方を少し変えてみることはできませんか?」ということと、「命はとりとめたのですが、脳の病気のために残念ながら後遺症が残りました」そして「立てません。車いすを使います。歩行器を使います。装具を付けてリハビリします。杖を使います」ということと、どちらがよりその人の生活のために役立つでしょうか?

伊豆最福寺しだれ。日本で4例目の八重枝垂れ桜。

私の今の仕事は、認知症の早期発見や回復を図ること、それ以前に認知症にならない生活指導をすることです。
カギは、脳機能特に前頭葉機能なのですが、「ゲミュートローゼ」という知らない言葉に出会ったことで、何十年も昔のことを思い出してしまいました。
フロク。
ゲミュートローゼを脳機能から考えると、第一段階としてはやはり右脳の情報をキャッチする能力に欠けた状況を考えないといけないでしょう。生まれつきの問題もあるかもしれませんが、右脳を育てる過程で育てそこなってしまったことも考えないといけないでしょう。母子関係をベースにした感情的な交流が皆無だとしたら、感情を獲得することができませんから。
またわざわざ「思いやり、同情、良心などの高等感情」という表現は「前頭葉機能」そのものを指していると思われます。育っていく間に、種々の体験や決断をし、それを両親や先生や友人たちから評価されて、自分なりの前頭葉の色を付けていきます。そして最終的には「自分で自分の行動を計画し、実践し、評価しながら自己を確立していく」のが人が生きていく道です。
右脳と同様に、生得的に何かが欠落しているのか、一般的な成長過程を体験できなかったのか。いずれにしても前頭葉機能に欠落があるとしか思えません。
伊豆高原桜のトンネル。この日は海が見えていました。


脳機能検査をする意味

2024年03月31日 | 二段階方式って?
エイジングライフ研究所が提唱する認知症の早期診断法「二段階方式」は、まず脳機能検査を実施して脳機能の状態を測ります。その時、普通に使われている認知機能検査だけでなく、前頭葉機能に特化した検査を行うことが大きな特徴で、脳機能を二段階に分けて測るために「ニ段階方式」と名乗っているわけです。横軸の「かなひろい(御者の働き)」が前頭葉検査です。

普通の認知検査で測られるものは高次機能と言われるのですが、前頭葉機能は最高次機能とでも言わなくては、実態を表すことになりません。
3/31の庭の花たち

(牧野富太郎が最も好んだと言われる稚木桜)
世界でよく使われている認知検査(知能検査)であるMMSEやWAISで見事に合格した人たちの中に、前頭葉検査不合格の人たちがいるという事実を知っている人はほとんどいないでしょう。
二段階方式では、MMSEが満点の30点でも、安心せずにむしろ緊張して丁寧に前頭葉検査に取り掛かるようにと研修会では口を酸っぱくしていいます。
MMSEが不合格ならば、前頭葉検査は不要!高次機能に問題があれば最高次機能が機能しないのは当然でしょう。
ムスカリ
MMSE合格で前頭葉検査不合格の方に出会った保健師さんが「不思議なケースに出会いました」と何度も報告してくれました。
普通に見当識や記憶や計算力や言語関係の検査、図形の模写までもスラスラできて、満点。それなのに前頭葉検査になった途端に別人のように四苦八苦してしまうのです。

ペチコート水仙(バブルコジウム)
一般的な認知検査(知能検査)は見当識や記憶力や計算力や言語関係の検査、図形の模写などの「高次機能」をチェックします。
前頭葉機能は、それらの「高次機能」を手足のように使う「最高次機能」です。
状況を判断して、自分の行動を決断し、場合によったら修正をかける。
物事を発想し計画を立てる。
感動したり、抑制をかけたりする。
注意集中力と注意分配力。
分配力こそヒトの行動のベースにあるものですが「何を知っているかをチェックする」認知検査では分配力はおろか上記の機能を測ることは困難です。そしてこれらの機能こそがその人らしさをかたちづくっている…

貝母
鈴蘭水仙
高次機能が合格のテストをしている時にはテスターは安心もしなんだか嬉しくなるものです。その時こそ、前頭葉機能が万全かどうかを慎重に見極めないといけません。
「MMSE合格者の中には、前頭葉機能合格者と不合格者がいる!さあ、どちらの群の方だろうか」という姿勢が必要なのです。

ヒアシンス

カンパニュラ
前頭葉機能はその人らしさの根源です。だからこそ、不合格の時には先行して行ったMMSEで感じた「ちゃんとできている」という印象が砂上の楼閣に過ぎなかったというショックを強く感じてしまうのでしょう。
MMSEが不合格ならば、前頭葉機能は不合格ですから、その確認をするだけです。
西洋石楠花、チラリと紅花トキワマンサク、その向こうに稚木桜。
保健師さんたちを見ていて気づくことですが、「よりよく評価してあげたい」傾向が強いということです。
確かに一般的な「試験」なら、そのような温情も意味がある時があるかもしれません。
でも脳機能検査の時は、そのような態度ははっきりと間違いだと言わなくてはなりません。
できることは二の次で、できないところを探す姿勢で臨まないと検査をしている意味がありません。
できることは良いことで、できないことは悪いことという到達度チェックの検査に慣れすぎています。

フリージア

金時草
良い成績を確認するのではなく、思いがけない「穴」があるかないかをチェックしているのです。
「穴」が見つかれば、生活を支えるために何が必要かを考えることができます。
例えば、生活の援助をする時に腕がどのくらい上がるのかということを調べるとします。
上がって当たり前と思ったり、上がるに違いないと思って省略したら、実際は上がらないのに適切な援助ができないことになってしまいます。運動機能なら正確にチェックする(できないことをはっきりさせる)ことに抵抗がないのに、脳機能はできないことを明らかにさせることを躊躇う…できるものと思ってあげたい…



雲南黄梅
繰り返します。
二段階方式では脳機能検査は脳機能の状態を知って、生活遂行能力を推し量るために実施しているのですから、勇気を持って、脳機能が正しく反映されたテストを心がけてください。
二段階方式は、続けて30項目問診票、生活歴の聞き取りという段階を経て、その方がアルツハイマー型認知症であるかないか、重症度、脳の老化を加速させた期間までが理解できるのです。所要時間はたかだか40〜60分です。




詳しいブログです。
「認知症の早期診断、介護並びに回復と予防のシステム」
http://blog.goo.ne.jp/kinukototadao












小ボケの人への励まし

2023年04月20日 | 二段階方式って?
パソコンの整理をしていたら、ずいぶん以前に書いた手紙が出てきました。
珍しく講演前に皆さんにかなひろいテストを実施してあげたのです。ふつうは、個別に検査して生活実態や生活歴を聞くことも必ず行うのですが。その時は「前頭葉機能」があるということを理解してもらうために、実施したのです。
講演後私のところに「まったく意味が書けませんでした」と真剣な顔で相談に見えた方がいました。後の予定が立て込んでいたために、説明ができず、お手紙を出したのです。
アルツハイマー型認知症は、脳の使い方が悪いために老化が加速されてしまう(廃用性機能低下を起こす)、いわば生活習慣病ともいえるものです。
足腰は老化しますが、安静にしたりして使い方が足りないとその老化は驚くほど速く進みます。それと同じなのです。
伊東市の藤の名所 林泉寺(4/20)

「お元気にお過ごしですか?桜も、そろそろ見納めですね…
 さて、先日の前頭葉機能検査の結果をお話しします。
皆さんにお返しする結果でいえば、
「にこにこレベル:年齢相応のお元気な脳です。友達つきあいや、散歩や運動など変化のある楽しい生活に挑戦されると脳はさらにイキイキしてきますよ。さあ、新しい楽しみごとは何でしょう?」ということになりました。
つまり合格ライン。
〇〇さんのことを知らないままのいわゆるブラインド分析はしないので、本来ならば、集団でやった検査結果からはここまでしか言えませんが、
講演後お話しましたので、もう少し解説を試みてみようと思います。
私の結論は、〇〇さんの前頭葉機能は元来持っていらっしゃる能力よりも少し力を落としていると思います。
あの時に「がんばりすぎたのではないでしょうか?」とお話ししましたね。
〇〇さんから受ける印象は、まじめで芯のあるご自分をきちんとお持ちの方のようでした。そのような方が初めて受検されると、がんばりすぎてスピードを上げて「あ・い・う・え・お」に〇をつけることに集中しすぎることがあるのです。その結果内容がおろそかになってしまう…このようなケースを想定しました。結果は、少し違います。
 受検中は、むしろスピードを落として慎重に対応されています。(まじめさが表れています)
〇〇さんから受けた印象をもとに考えると、この慎重さであるなら当然内容把握にも能力を振り向けることは、必ずできるはずです。それが難しかったということは、〇〇さんが本来持っている前頭葉機能がフルに発揮できなかったということを意味しています。
〇〇さんは講演後しばらく待ってでも「ご自分が感じた、なぜできなかったか?」という違和感を解消されたかったですよね?〇〇さんは自他ともに認めるような、人の上に立つようなお仕事をなさってきたからではないでしょうか。
 つまり、〇〇さんは間違いなく意味は読み取れる方なのです。

先日講演でお話ししましたね。
人は誰でも、何らかの出来事が降りかかってきたとき、そのことが自分の生きる力を削いでしまうようなことであれば、例えどんなに立派な方であっても前頭葉は老化を加速し、本来の力は発揮できなくなります。
 〇〇さん
ここ1~2年前、大きな出来ごと、生きる力を抑え込んでしまうような出来事があったはずです。今、そのことに負けてしまおうとしていますよ。
 講演では、それを退職とか病気やケガ、トラブルの発生などといいましたが、何であっても〇〇さんがそのことに大きなショックを受けて、それまでのような生活ができなくなるようなことが起きたのです。
いや、言いなおしましょう。生活はできているでしょうが、生活に立ち向かう気持ちが、そのことが起きる前といまでは違ってしまっているのです。
ここまで書くと、〇〇さんはきっと膝を打って「確かに思い当たることがある!」といわれると思います。
 多分そのことは、消し去ることはできないはずです。でも、負けないでください。
私の講演が企画され、その講演を聞きに来られた。いつもはしないテストが実施され、そして〇〇さんがテスト結果に違和感を覚えた…ここで引き戻るためにチャンスが与えられたと思ってください。なんというタイミング、すごいご縁だと思います
元気を取り戻す工夫をしましょう。
まず歩くこと、体を使うこと。なにかの運動をなさってますか?新しいことを始めるのも悪くない。思いつかないならもちろん散歩でいいのです。一つ目的を持って歩くといいでしょう。花を見る。興味ある展覧会やギャラリーに顔を出すこともあっていいです。カレンダーにでも歩数を書いて、親しいお友達に報告すると、さぼれません。
いま親しいお友達といいましたが、脳が一番活性化するのは人と楽しく会話している時です。この前私がしたのは一方的な講義で、あれは会話ではありません。会話の時には自分も相手も、ことばに注意を払い、同時に表情や声の調子にも心を配らないといけないでしょう。前頭葉の注意分配能力がないととても対応できませんので、いい活性化訓練になります。
植物がお好きといわれてましたね。せっかくなので、写真を撮ってもいいし、鉛筆でも水彩でももちろん油絵でも、描いてみるのはどうですか?
最近は写真アルバムを作ることは簡単になってますから、作ってみませんか?作るだけでなく、お友達にあげて感想を聞くこともいいですね。
私たちはもうプロになる必要はありません。今までプロとしてきちんと第一の人生を生きてきたのですから、これからはいかに楽しめるかにかかっています。
 今は絵の話をしましたが、音楽でも全く同じです。どちらも右脳。
具体的な趣味の内容は私の小冊子を参考に、探してください。やったことがなくとも3か月は続けてみて、それでも合わないと思ったらどうぞやめていいんです。ただし次に挑戦することを決めてからです。
もう一つお話しさせてください。
さしあたり、講演でお話ししたように「楽しい変化のある暮らし」を目指せばいいのです。「今日も楽しく生きていてよかった」という生活が実現できた時、それで満足できるならそれで何の問題もありません。
ただ「楽しむだけでいいのだろうか?」という気持ちが少しでも湧き上がってきたら、人との交流それも人のためになることを探してみていただきたいと思います。その中で得られる喜びを、至高のものと思うタイプの前頭葉がありますので。
いつかお目にかかれることがあるのかどうか。お会いすることは難しくても、お元気を取り戻してくだされば私はうれしいです。
これを機会にイキイキとして楽しい生活にチェンジしてください。3か月がんばると、前頭葉が元気になったと実感できますよ。
書き始めたら、書かずにいられなくなって長いお手紙になりました。私の真意が伝わりますようにと、願いながら終わりにします。
どうぞお元気に!体も脳も!高槻 絹子」

このように、脳が老化を始めたときには必ず自覚があります。
「何か変。いつもの私とは違うみたい。こんなはずはない」
全部前頭葉の機能低下を自覚している言葉です。
それなのに気づかないふりをして「大丈夫!歳を取ったら誰でもあります」というような慰めでなく、そのときにきちんと指摘してあげることは、その人の尊厳を大切にしていることだと思います。
だからこそ、脳機能検査という客観的な指標は大切です。

何年たっても、原理原則は不変だということを感じたので掲載してみました。




認知症に関して理論的に詳しく知りたい方は、以下のブログもお読みください。


二段階方式-脳機能検査から生活を知る

2023年01月12日 | 二段階方式って?
新年最初の保健師さんとのやり取りをしながら、二段階方式の持つ「力」に感嘆してしまいました。
「年末にご助言いただいたA氏(独居)に、急展開がありました」ということばから始まったそのメールは、A氏死去のお知らせでした。12月16日に家庭訪問したヘルパーさんが、体調が悪そうだということに気づいたため、救急搬送そしてそのまま入院となりました。心不全と肺炎の診断で12月20日に亡くなられたという内容でした。
(1/7川奈ホテルの寒桜)

実は、A氏の脳機能検査結果を検討したのは12月12日。
脳機能検査の結果は前頭葉機能は大きく低下。とくにかなひろいテスト(ひらがな書きのおとぎ話の内容を読み取りながら、同時に母音に〇をつけていく検査。前頭葉の注意集中力や分配力にターゲットを当てたもの)は0点。
脳の後半領域、いわゆる認知機能検査(MMSE)は30点満点の18点。私たちはこの脳機能の状態にある人たちを「中ボケ」といいます。
(もう一息)

中ボケになると、家族は「全く話すことだけ聞いていれば正常というか、正常以上にたしかにと思わせられるようなことを言うんです。でもやることを見るとびっくりするようなことがつぎつぎに起こります。
食事の時だってびっくりするようなお行儀の悪さ…煮物とデザートとかとんでもないものを混ぜて食べてしまいます。これはマナーの問題じゃなくて味の問題なんでしょうね。もちろん料理を作ってもらっても塩辛すぎて食べられないものを作って、一人だけ平気で食べるとか。
着衣でも、着替えなかったり、重ね着したり、とんでもない格好で出かけようとしたり。
入浴の時は誰かの目が必要です。石鹸で洗わないときがあるかと思うと石鹸が残っている時もあります。洗濯済の下着を用意しても着替えてくれないし。トイレの汚し方もひどいものです」と訴えが止まりません。
(こんなにバッサリ切られていたのですが)

全部が、いわゆる「ボケちゃった」ところまではいっていない。
そして、話はそれなりのことが話せる。
この状態を「言い訳のうまい幼稚園児のよう」と家族は結論付けます。つまり幼稚園の子どもを一人で生活させられないのと同じくらい手がかかるということを訴えているのです。
(1/12富戸コミセン。咲きました)

A氏の脳機能検査の結果は、中ボケレベルだといいました。独居ですから、つまり幼稚園児が一人で暮らしている状態ということになります。
「今が何年か何月かもわからない状態ですよ。もう独居は無理です」という私の言葉に、保健師さんは「私もそう思いました」そして続けて「結果をお返しするときには、ご本人に説明してもおぼつかないので、包括の方にも来ていただいて説明します」
「さしあたって、そのやり方はいいと思います。ただ家族に結果を説明することは必須ですよ。もしも、御当人が亡くなった時に誰がお葬式を出すのか、考えてみてください。その方と連絡を取って一人暮らしは無理な状態ということを説明しなくてはいけませんよ。だって幼稚園の子が一人で暮らしているようなものですからね」と私。
一男二女の子どもがいたのですが、4年前に同居していた長男が急な病気で死亡。その後、2年前に妻が家を出ていきそこから一人暮らしが始まったという経過でした。長女は県外に暮らしていて、次女は市内にいるのですが不仲。「誰に説明するか検討してみます」との返事でした。

脳機能検査の結果を検討してみると、4年くらい前にそれまでの生活ができなくなるような大きな出来事が起こり、その結果「生きがいを感じることができない」生活に突入。脳の老化が加速されてしまったということが示唆されました。
「A氏の生活が、長男が亡くなられてはっきり変わってしまったかどうか確認してみて(ご本人には無理だけど)そこが納得いくようだったら、4年前だし、典型的なアルツハイマー型認知症ということになります」
ここが二段階方式の持っている力です。
(アッサムニオイザクラ)

このやり取りが前述のように12月12日。
保健師さんは一人暮らしが無理ということは理解してくれたと思いますが、多少トラブりながらでも一応生活はできていたということにちょっとした安心感はあったのでしょうし、ご家族との連絡もつかなかったのかもしれません。そして16日。ヘルパーさんが訪問した時にチアノーゼが出ていたそうです…

死亡後、ご家族その他からの情報を集めてみると、心臓病があったそうです。以前の保健センターとの予約も「体調が悪いから延期してほしい」ということが記録されていました。
考えても見てください。幼稚園の子どもが「今日は体調が悪くて熱があるみたい」というでしょうか?そばにいる親や先生が不調に気付いて対応しますよね。心臓病が悪化していて苦しかったのかもしれませんが、その時どうするか判断する前頭葉機能はもう働いていないのです。

私は脳機能検査の結果しか見ていませんから、その困難さが胸に迫ってきます。
保健師さんたちが、テストの結果を正確にキャッチして検査を受けられてた方の生活にもっと積極的に生かしてほしいと思いました。






認知症に関して理論的に詳しく知りたい方は、以下のブログもお読みください。




精神科受診を勧めたら(再掲)

2020年08月27日 | 二段階方式って?
おもしろいことが起きるものですね!
このひとつ前のブログは、二段階方式の持つ力についての保健師さんからの率直な感想を紹介しました。
ところで私はフェイスブックも使っていますが、フェイスブックは、過去の全く同じ日に記事を投稿していると、そのお知らせをしてくれます(頼んではいません)。
それで昨日届いたお知らせは、2019年8月26日投稿記事でした。
これは、くだんの保健師さんにぜひとも読んでほしいと思いましたので再掲します。

以下、再掲記事です。
精神科受診を勧めたら2019年08月26日 |二段階方式って

今日は保健師さん向けの勉強ブログです。(写真は我が家で咲いたハスの花)

相談の電話が入りました。
「94歳の女性。脳機能検査の結果は小ボケ。生活実態の自己申告も小ボケ。生活歴はちょうど3年前にけがをしてそのまま入院ということでちょっと持ちすぎかと思いますが」
脳機能検査は、二段階方式で想定される結果から外れるところはありませんでした。
つまり脳の後半領域の働き方を調べるMMSの結果は、計算マイナス1、想起マイナス3(ただしヒントで即正答になるレベル)で27/30。MMSは24点以上が正常とされますから、十分に合格しているわけですね。
94歳の方が書いたA4版の検査結果です。素晴らしいですね!

一方で、二段階方式の二段階たるゆえんの前頭葉テスト結果ですが、これがまた見事に不合格!上図の立方体透視図は不合格ですよ。
もちろん、かなひろいテスト結果は、二分かけて正答数1、見落とし数5、内容把握は不可と不合格でした。
MMSが合格圏の方々こそ、前頭葉テストが必要であると承知している相談者さえ、MMSと前頭葉テストのギャップに「びっくりしてしまいました」と述懐していました。
このブログの初期のころの記事を貼っておきます。「前頭葉機能検査なくして、認知症の早期発見は不可能」とこのブログで10年以上も言い続けてきたのですね。右欄カテゴリーの「二段階方式って」にあります。

前頭葉機能を測らなければ、認知症の早期発見はできません。今回のように、MMSだけだと合格してしまうからです。
二段階方式では脳機能がこのレベルになった状態(前頭葉機能不合格、脳の後半領域の認知機能は合格)を小ボケといいます。
家庭生活は可能、社会生活には問題が出てくる状態ですし、何より大切なのは回復可能である点です。早ければ早いほど回復は容易になります。

繰り返しますが、前頭葉機能を計らなければ、認知症の早期発見はできません。今回のように、MMSだけだと合格してしまうからです。
二段階方式では脳機能がこのレベルになった状態(前頭葉機能不合格、脳の後半領域の認知機能は合格)を小ボケといいます。家庭生活は可能、社会生活には問題が出てくる状態ですし、何より大切なのは回復可能である点です。早ければ早いほど回復は容易になります。
さて、脳機能は小ボケレベルでした。続けて生活実態をチェックします。小ボケの人たちは、脳の機能低下を自覚しているものですが、今回も見事に小ボケの自覚がありました。
次のステップとして、脳機能の老化が加速されるきっかけとその後のナイナイ尽くしの生活の継続の確認が必要になってきます。3年前の腕のけががきっかけとなって入院生活を余儀なくされた(だから脳の老化が加速された)という納得の生活歴もありました。

二段階方式では、脳機能検査の結果と、生活実態と、老化を加速させる生活歴が一致すれば、アルツハイマー型認知症と判定します。そして中ボケまでなら生活指導の対象となります。大ボケは介護が必要なレベルで、世の中ではここまで来て認知症といっています。
ところが今回のケースの主訴は「ものとられ妄想」それにプラスして「毒を盛られている。殺されてしまう」というものでした。「ものとられ妄想」は中ボケの下限に入ってからの症状ですし「殺される」という訴えは、認知症ではまずないといえます。脳機能検査の結果と生活実態が一致しない部分があるのです。
つまりこのケースは、脳機能の老化が加速されたという視点から見るとアルツハイマー型認知症のごく初期であり、それにプラスして強い精神症状が出てしまっていると考えられます。前頭葉の抑制機能が低下して、もともとあった性格傾向が強く出てしまっているのです。検査結果を詳細に検討すると、神経質な方特有の反応もありました。
スムーズに脳機能検査の結果と、生活実態と、老化を加速させる生活歴が一致しないときには、専門医受診というのが私たちのやり方です。相談者の方も精神科受診を勧め、付き添ったそうです。

「アルツハイマー型認知症」ということから言えば小ボケ、前頭葉機能のみ不合格、MMSは立派に合格。まだまだつぼみの段階です。
精神科医の診断は
1.CTで委縮がみられる→94歳ですよ!
2.そのためと明言なさったかどうかは不明ですが「受診が遅すぎた」→認知症はつぼみ段階でごく初期なのですが。上にあげた94歳ご本人のテスト結果を見てください!
3.一応「お薬を出しましょう」→妄想を抑える向精神薬なのか、認知症の薬(ただし効きませんが)なのか不明。
この国の将来は大丈夫でしょうか!
最後にもう一つ、この記事の後半にドクターへの期待を書いてありますのでお目通しください。



二段階方式の底力-保健師さんからうれしい便り

2020年08月25日 | 二段階方式って?
痛快な出来事がありました。
エイジングライフ研究所の二段階方式では、脳機能検査が必須です。主なテスターは保健師さんなのですが、「弱き立場の住民に寄り添う」という立場でのお仕事が多いようで、どうしても脳機能検査で「できないところを明確にする」ということを躊躇する人がいます。
ナナフシ?
事例検討のための約束の時間にかかってきた保健師さんからの電話。その声がなんだか笑いを含んでいるような、とにかく弾んでいるのです。
「いつも先生のおっしゃっていることがほんとに身にしみて納得できました。あの簡単な二段階方式の脳機能テストが教えてくれる世界はすごいものがあります。
今回初めて、できないことをわかってあげることが、テストを実施する大きな目的(のひとつ)だということがわかりました。そうすると不謹慎のようですが、『ここは難しいはず。さあどんな反応になるのかな?あ、そう来ましたか!』というような検査の構えができたのです。
ほんとのことを言うと、もっと不謹慎のようですが、検査をすることが楽しかった!」
そこで私はあわてて、口を出します。
「できないことを知るのは、生活に何が必要かを知るためだから…」重ねるように、保健師さんが
「そうなんです。検査をする意味がほんとにわかりました。検査を通じてその人を理解するんですね。特にできないことに注目した方が理解が深まり、どういう指導や援助が必要かはっきりしてくるということもよくわかりました」
初めてセミのペアリングを見ました。ガンバレ!

ここからは、ちょっと専門的になってしまいますが、保健師さんが感じたことを並べましょう。
「見当識を尋ねるときにどうも、言いたい言葉が出にくいかも?」
「今日の日付は正確でしたが、令和22年という間違いが。『これは結構珍しい間違い』だと思って丁寧に修正してあげてもA4版白紙には令和20年。とにかく変」
「日付が正確なら、想起・計算・机上以外はできるはず。なのに記銘の時『のりたい・のりたい・無反応」4度目にようやく正しい答えが。ここで私は『失語症』だと確信。しかも入力が難しいタイプ」
「復唱の時、もちろん丁寧にやりました。すると『ちりと とまれば やまとなる』!『あ、これだ!これがうまく聞き取れないから正確に復唱できない』ということなのね」
「『当然三段階口頭命令も難しいはず』と思って教示したら、なんと鶴を折り始めた!」
「書字命令はスムーズにできたので、耳で聞く方が難しいことがわかりました。必要なことは書く方がいいかも」

「文はちょっとした間違いがあったけど、予想通り図形の模写はきれいです」
「なんと、想起は2点!」
「ほんとに、普通の老化が早まった人たちとは下位項目の低下順が全然違う…」

「お薬をチェックしたら、それらしきものがあるので、脳梗塞をやったのでしょう。左側ですよね(笑いながら)。当然右足のことも確認してあります。少し違和感があるみたいです」完璧!

相談に至る経緯を語るときも、時々笑いがこぼれていましたね。
「宗教の仲間がいて定期的に礼拝など参加。
もともとシルバー人材センターで働き、自動車の運転もしていた。
2年前から、娘夫婦との同居が始まった。
しばらくしたら、『家族が大切なものを隠したりして困らせる』というものとられ妄想が出現。
思い余った家族が、病院受診し『認知症』という診断を受ける。
その後免許返納、シルバーもやめた」
「その時ドクターから『補聴器を用意した方がいい』というアドバイスがあっただけで、特に何も指導はなかった(ここでもちょっと笑いがこぼれてしまいましたね)から、相談に来た」


いつから失語症が始まったのかはわからなかったようですが、3年前くらいかもしれませんね。同居よりも前のはずですよ。
失語症でありながらもシルバーでも働き、宗教のお仲間とも付き合い、車の運転もし、何より一人暮らしの生活をまがりなりにもしていたので、老化の進み方はやや遅めだったのでしょう。
それでも前頭葉機能低下は起きてきていたはずですから、つまり、小ボケは覚悟しないといけません。同居してすぐものとられ妄想が勃発したということも理解できます。
これがゲジゲジ(本名ゲジ)

「生活指導としては、まず失語症の説明をして、それにプラスして老化が進んでいる状態。それも前頭葉が不合格レベル(小ボケ)だろうということを話しました。
前頭葉は脳の司令塔だから、自分をコントロールする働きがあります。つまり今はうまく自分を抑えることができにくい状態です。
もともと『思い込みが強い、言い出したら聞かないし、強い人』という傾向があったと思いますが(ほんとにテスト結果に出てますから言いやすかったです)そこが強く出てしまってるんですよ。
性格を変えることは難しいですが、前頭葉のコントロール力を取り戻すようにしましょう。
といって脳のリハビリの説明をしました」
ここも完璧!
気持ち良い写真も。

「研修後、長い時間がかかりましたが、ようやくぱっと開かれた感じがします。長い間のご指導ありがとうございました。
とっても嬉しい相談事例でした。それとあまりドクターを頼りにしてはいけないということも、ちょっとわかりました(笑)」

そうですよ。
認知症を早期に見つけることも、それを改善に導くのも、保健師さんたちの脳機能検査の結果に基づいた判断であり、生活改善指導なのです。

「コロナの問題はありますが、三密を避けながら集まっていただくようにしています。認知症が進んだら大変ですから」またまた完璧!



二度童子(再掲)

2020年08月18日 | 二段階方式って?
昨日訪れた方が、「僕は保育士を10年やっていました」と微笑みながら言われました。今は全く別の世界でがんばっていらっしゃいます。
二つの専門性を持つということは仕事を深めることにつながるのではないかと、私はいつも思っています。
幼児教育に携わったという経験が今のお仕事には無関係と思われるのではなく、「その体験から獲得した前頭葉機能(他の人にはない!のですから)に自信をもって、考えたり、感じたりしてみてくださいね」とお話ししました。
M砂さんのために、探してみた記事です。


二度童子 2013年9月17日
認知症のお年寄りの世話をしているときに「二度童子」という言葉を聞くことがあります。
幼児と同じように手がかかるという意味ですね。
発達心理学が専門の友人と話す機会がありました。
子供たちにMMS(Mini-mental state.アメリカで考案された簡易な認知検査。エイジングライフ研究所でも使用)を実施したら何歳でどうなるかを教えてもらいました。
「まあ、だいたいこんなところでしょう」といいながら、まとめてくれたのが、下表。読みにくくてすみません

これは長い経験から予測された感覚的な数値であることを断っておきます。経験に裏打ちされた予測値はあってるものですけどね。
この表を眺めているといろいろおもしろいことが見えてきます。

ランチにお呼ばれ。お手製弁当に、心配りの季節のお花の数々。「お・も・て・な・し」といわれました(笑)

「計算」や「文を書く」のような勉強をしないとできないものは、点が取れないのは当然ですが、「図形の模写」が6歳になっても、全員はできないということ。
認知症高齢者の場合は、中ボケ以上だとできることがほとんどです。
いっぽう、6歳になると「想起」ができる、しかも完璧にできるという事実。
実際、幼児と話しているとびっくりするくらい正確にいろいろエピソードを覚えています。エピソードを正確に覚えていてイメージ化しているのでしょうか、言語表現が間に合わないくらいです。
これも認知症高齢者の場合は、MMS24点(小ボケ)で、「想起=0点」が66%を占めます。
満点の「想起=3点」の割合は、なんとたった3%なのです。
ここが全く違うところです。

ついでに一言。
かくしゃく百歳の調査をした時にわかったことです。かくしゃくとしている方たちのMMS下位項目の低下順は認知症の場合(老化が加速されている場合)とまったく違うのです。
かくしゃく群には、記憶の障害がありません。見当識の障害もありません。
子供たちは、ゼロから脳機能を獲得していきます。
「できなくて当たり前。でもそのうちできるようになるから」と期待しながら成長を見守ってもらえます。着衣・食事・トイレ・入浴など身の回りのことや、お手伝いが不十分でも、むしろほめられます・・・
獲得のステップ。
認知症高齢者は「いったん完成された脳機能全般的に支障が起きる」訳ですから、できていたものができなくなってくる。
喪失のステップ。

介護している人は「話を聞いていると普通なんですけど・・・行動がめちゃくちゃなんです」
実は話もおかしいのですが、わかろうとするからわかるのです。
「今、ここでそんなことを言う?!」というような発言もよくありますが、状況判断が利いていないという意味で、すでにやはりおかしいというべきです。
「失敗した時の、言い訳というか釈明を聞いていると妙にうなずいてしまったりするんですけど、後から腹が立ちます!」
「あれこれ普通にやれるのに、またこんなことを!が起きるのですが嫌味でやってるんでしょうか」
そうではありません。しゃべれるけれども、行動を起こすときに、判断する前頭葉も、実行に移す脳機能も全然足りないから失敗につながってるんですよ。
「鍬の使い方なんかは私よりはるかに上手なんですよね」
などと訴えられることもありますが、体に染みついたような行動は遅くまで、うまくこなせることも多いですよ。その時々の判断が必要な場合だと失敗します。

エイジングライフ研究所では中ボケの生活の実態を「家庭生活に支障が出る」「言い訳のうまい幼稚園児」と表現します。目を配る必要度が、幼稚園児と同じという意味合いです。
重要なことは、このレベルで発見されたら脳機能の改善は可能であることです。大ボケの指標である徘徊、幻覚、不潔行為、異食、見当識が時・所・人ともにわからない。などの症状はまだありません。
中ボケのMMS得点は15~23点。
中ボケは見当識が次第に低下していく時期なのです。 
上表から見ても、3歳の脳機能だと全面的に生活を見る必要があります。
4歳児以上になると、「計算」や「文を書く」の得点を加味して考えるとそろそろ中ボケ相当となって、確かに幼稚園児が中ボケ相当ということが納得されます。
幼稚園時代は、他の多くの脳機能とともに、見当識が確立されていく過程ということが言えそうですね。
ここも逆方向に一致しています。

ここで確認をもう一度。
幼児は、見当識が正確に確立できる前に記憶が確実になる。少なくとも同時進行。
認知症高齢者は、見当識が揺らぐ前からすでに記憶に問題が出てきている。
もちろん、両者ともに社会生活をこなす前頭葉機能に期待できないことは大前提です。
「二度童子」という言葉には、優しさも感じられますし、確かに目を配る必要があるという生活実態も共通していますが、脳機能から見ると大きな違いがあることを承知しておいてください。
そしてこのように、脳機能から認知症高齢者の行動(症状)を理解するというアプローチが常識になってほしいものと思います。




脳機能検査をする目的

2020年08月17日 | 二段階方式って?

「脳機能検査」とか「脳の働きを調べます」と聞くと、いかにも「頭の良しあしを調べられる」という気持ちになるようです。ちょうど学校でのテストの成績が100点とか80点とか50点だったみたいに。当然点数がいい方が「頭がいい」「いい結果だった」というふうに思いますよね。
「脳機能検査」の目的はちょっと違うのです。一般的に使われる脳機能検査はわりあい単純な認知機能について調べます。
ある項目ができるとします。一般的なテストでいえば100点ですね。それはもちろん「できる」わけですから、いいことです。でも、テストをしてただ
それがわかっただけ。
カヒリジンジャー

一方で、ある項目はできませんでした。
これは普通のテストでいえば、0点。とんでもない結果ということになりますが「脳機能がうまく働いていない」というこの情報はとても大切で役に立つ情報なのです。その人の生活を理解し、必要ならば援助するには不可欠の情報だということを、テストを実施する保健師さんたちはぜひともわかってほしいと思います。
アサガオ

脳卒中の後遺症で、身体に不全マヒが生じたとします。その時私たちはマヒを認めたうえで、どこまで動くかよく観察も測定もしたうえで、リハビリ計画をたてて改善を図ります。そしてそれでも残存したマヒについて、下肢でいえば、寝たきりから車いす、歩行器が必要なのか、装具は?杖でいいのか、それも四点杖か普通の一点杖でもいいのかというふうに、その能力を見極めていきます。「できるはず」とか「できてほしい」ということではなく、「どこまでできて、どこはできない」のかを厳密にチェックするはずです。
できることは喜ばしいし、楽なことですが、その方の生活を考えると「できないこと」を明らかにしてあげることこそ、本当の援助になると思います。

運動機能はわかりやすいのですが、一般的な認知機能もこれとまったく同じです。
世の中では、認知症の重症度は症状から決めますね。特に周りを困らせる症状が出てくると重度認知症というふうに判断します。エイジングライフ研究所では、あくまでもその人の脳機能はどのような状態になっているのかを調べるところから出発します。
もともと、症状というのはその人の今の脳機能が発揮された結果ということなのです。
つまり、今の脳機能を知ることで、訴えられている症状をより正確に知ることもできるし、訴えられていない生活状況もかなり正確に類推できることになります。これは、まず脳機能検査を行ったうえで聞き取った症状の蓄積が、何千例にも及ぶところから導き出されました。

上図で色分けされたプロット群ごとに訴えられる症状に明らかな差があるのですよ。例えば高齢者がよくいう「記憶力低下」で説明してみましょうか。
青の正常群(前頭葉・後半領域の認知機能共に合格):
花など新しいものの名前が覚えられない。
よく知っている人の名前が出てこない。
黄の小ボケ群(前頭葉だけ不合格・後半領域は合格):
何度も同じことを聞いたり話したりする。
ひどくなると言い終わったかと思うとまた繰り返し話始める(オルゴールシンドロームと私が名付けました)
橙の中ボケ群(前頭葉不合格・後半領域やや低下):
何度聞いても、日付がわからなくなる
服薬管理ができない
しまい場所を忘れて、いつも探している(場合によってはものとられ妄想も)
赤の大ボケ群(前頭葉・後半領域ともに不合格):
食事をしたかどうかすっかりわからない
家族のこともわからない
見当識でも、食作法でも、着衣でも、トイレやお風呂の使い方までそれぞれの群でまったく違うことが起きてくるのです。
どのようにボケは進んでいくのか―治せるレベルで起こす「事件」にまとめておきました。

実は今日のテーマは「認知症」に直接関係しませんが、保健師さんたちに知っておいてほしいと思って書き始めました。
ちょっとお知り合いになった方がいます。70歳過ぎの男性です。
はるか10年以上も前に「くも膜下出血」を発症し、某大学病院脳外科で6時間もかけて頭蓋骨を大きく外しての手術を受けたそうです。幸いにも命を取り留めただけでなく、その後社会復帰まで果たされ現在もご活躍中なのですから、素晴らしいことです。
とても大雑把にいってしまえば、くも膜下出血は、1/3が死亡、1/3が軽いものから植物状態まで含めて後遺症あり、1/3が全く後遺症なしに回復(その中に前頭葉機能のみ低下している人たちがいますが)といわれます。
ブラックベリー

この方は、3番目のグループみたいなのですが、退院時に「高次脳機能障害があります」とドクターから告げられたそうです。
「内容の説明は?」と慌てて訊ねたのですが、「その内容については特別何もお話はなかったのです」
手術が大きかったこともあり「手術は右側でした」とはっきり覚えていらっしゃいました。ついでにお話ししておきますが、軽度の脳梗塞の時に家族ともども「どちらだったか…」と迷われることは多々あるのですよ。
この方の場合は、ダメージがあるとしたら脳機能から言えば右脳。右脳は色・形・音楽・感情などのアナログ情報の処理が担当ですが、検査がしにくいのです。アプローチとしては「形の処理能力」を調べることになります。

左がモデル。見ながら描いていくのです。(モデル提示は右側)
不思議でしょう?縦の線が一本足りません…左空間失認といいます。脳機能検査をしているとこういうことに遭遇します。そのたびに、脳は大変な仕事を黙々としてくれているのだなあと思うのです。
続々―相貌失認(ここにも立方体模写の事例があげてあります)
右脳にダメージを受けた時の左空間失認という後遺症は割合にあるものですが、その可能性を考慮して調べなければ、気が付かないままに終わります。
続々―相貌失認で紹介したように、ご本人は何かと困ることが出てくるのです。例えば、道に迷う、なじみのところのはずがよくわからない。訴えても聞く方が左空間無視の可能性を考慮しなければ注意力不足とか、訴えが大げさ過ぎるとか、もともとの方向音痴に帰してしまって、後遺症の説明に行きつかないままに過ぎてしまうことになります。右脳障害では失語症をおこすことはないので、言葉は自由に駆使できることが、よけい話をややこしくしているのです。(構音障害といって発音がうまくいかないことはあります)
今となっては理由はわかりませんが、とにかく高次脳機能障害といわれ、ただしその内容についての説明はないまま10余年。

日常生活起きてくる「例えば、今まで何の問題もなく電車を乗り換えていた、その駅で逆方向の電車に乗ってしまうとか、家まで車で送ってもらう時にうまく誘導できないとか、言葉でうまく言えないような、なんだか変な失敗が起こり」不安を覚えながら10年間過ごしてこられたのです。
左足にもほんとに軽微なマヒが残っているようで、「そういえば転んだりつまずくときはいつも左です」とも言われていました
たった、1分程度の検査で「疑問も不安も氷解した。この部分の脳の働きに故障が残っていたのですね!いろいろなことが納得できた」と喜ばれました。
これが脳機能検査をする目的です。私もうれしかったです❣️


1997年~2001年ボケ予防教室草分けのころ

2020年04月01日 | 二段階方式って?
ブログをお休みしている間に、コロナで大変な状態になってしまいました。
実は家にいる間に、心躍ることに集中していました。
冬アジサイ。3月半ばから開花。(3/20撮影)

エイジングライフ研究所が初めての実務研修会を開催したのは1995年。当初研修会に参加された人たちからは、私たちの方が大きな力をもらった気がします。
その頃はまだ「痴呆は治らない」と権威ある先生たちですら明言されていたころで、だからこそ介護を個人に担わせるのでなく国民全体で担っていこうとする介護保険が2000年にスタートしたのですから。ちなみに2004年に痴呆は認知症と言い換えることになりました。
フリージアと冬アジサイは一緒に咲きます。

現場を持っている保健師さんたちは、大ボケ状態の高齢者や介護に疲れ果てている家族を見るたびに「この悲惨な状態をどうにかすることはできないのか」「何かできるはずだ」と暗中模索していました。その時に私たちは
「症状からではなく脳機能から痴呆を理解する」
「痴呆には小ボケ中ボケ大ボケの三段階がある」
「通常、痴呆と言われるのは大ボケ。その前段階で見つけることができれば、回復は可能」ということを主張しました。
参加した保健師さんたちからは「目からうろこ」ということばを何回も聞きました。そして私たちの方は、参加している保健師さんたちから、その熱意を感じて気持ちが引き締まったものでした。
バイモ

職場に帰った保健師さんたちからは、「ボケ予防教室」の成果が次々と報告されてきました。
脳機能が元気な人たち(普通の高齢者)に対する働きかけが、こんなにもストレートな効果をみせてくれるのか!と、当の保健師さんたちまでも楽しみながらその仕事をしていることがよく伝わってくるようでした。エイジングライフ研究所のやり方は「脳機能という物差し」がありますから、客観的に評価することができるというのも、通常の予防活動にはない面だったと思います。
ベニバナトキワマンサク

さてホームワークの報告です。各地の保健師さんが教室の経過(成果)を送ってくださったデータで残っているものを発見したのです。
活動の最初は評価基準が完成していませんでしたから、ほんとに一例ずつ検討して、改善、維持、低下と「脳機能」を評価していきました。
今回、全データをエクセルに入れなおして、現時点での評価基準に合わせて評価しなおしてグラフ化してみました。掲載は教室開始が2000年までの実施例。
ワクワクしますよ。(平成9年は1997年)





参加者は16名から100名まで。そして大体月一度の開催で半年から3年間の経過観察が混在しています。教室の内容も各地でできることをやったわけですからさまざまです。
でも、効果があることは明確ですね。
宇宙の木

もうひとつ、ちょっと違った報告も発見しました。
エイジングライフ研究所の考え方で活動するところは大部分が市町村なのですが会社組織が2か所ありました。その一つ宮崎県の大企業の健保組合です。

担当保健師さんは4人。対象者は116名。内訳は70歳代61名、80歳代47名が中心で90歳代8名。興味深いのはMMSまで全員に実施していることです。
ここは教室まで実施したのではなく生活改善指導にとどまったのですが、脳機能検査をすることで、より改善につながったのだと思われます。
あたり前ですが、年代が若いほど改善率がいい。青が改善群、赤が維持群、グレイが低下群を表しています。左から、70歳代、80歳代、90歳代です。

初回と二回目のかなひろいテストの合否割合を見ても、明らかに年代が若い方が改善しています。青が合格群、赤が不合格群。左から、70歳代、80歳代、90歳代です。

これらの結果はとても示唆的です。
認知症の正体はその人らしく前頭葉機能を駆使して生き続けているかどうか、まさに生き方の問題であるとエイジングライフ研究所は主張しています。
前頭葉機能の使い方が足りないことで、もともと持っている脳の老化を加速させてしまうのが、脳機能からみた認知症の正体なのです。
だからこそ、より早い年代で生活改善を図れば、より効果が生まれるのは当然のことです。
牧野富太郎が愛でた稚木(わかぎ)の桜








小ボケの人の運転をやめさせる

2020年03月15日 | 二段階方式って?
二段階方式を導入している町の保健師さんから質問が来ました。
「近隣の町で高齢者(85歳)が加害者の死亡事故が発生しました。
わが町でも、二段階方式で、MMS合格しても、かなひろい不合格(ほぼ0に近い点数)の方が運転しています。絶対事故を起こすと確信しますが、免許返納を説得できず(しても聞き入れない)にいます。
ご助言をいただければと思います」

(客人のポルシェヴィンテージカ―。ナンバーの354にも意味があるそうです)

私の回答です。
「世の中で使われる認知症テストはすべてMMSと同じと思えばいいのです。MMSが合格しても、たとえ満点でも、前頭葉テスト不合格者がいるということを識者はたぶん誰も知りません。それが『小ボケ』ですよね。
病院勤務時代は、とっても簡単で
『この脳機能では運転したら(させたら)いけません』でおしまい。
理由は簡単で公道で運転するには前頭葉の注意集中や分配力が必須だからです。
能力がなければ、どんなにやりたいといってもやらせてあげることはできません。
脳卒中の後遺症で片麻痺があってまったく立てない人が『今すぐ歩きたい』といっても、『脳に卒中が起きてしまったので、今は無理。リハビリがんばってみましょう』といいますね。
『お勧めはできないんですけども、それだけ歩きたかったら、好きなように歩いてみましょうか(そして転んでも、それはあなたの責任ですけど)』とは絶対に言いません。それと同じです。
皮ベルトで留めてある!

病院でない時はどうするか?
血圧や血液検査の異常値で考えてください。
血糖値、肝臓や腎臓その他の異常値に対してどのような生活指導をしますか?
まあ、まず受診でしょうけど、受診勧奨にしろ生活改善指導にしろ、その時のこちらの気分はどうでしょうか。
数値が悪いほど、真剣に『それ以外にはない!』しかも『できるだけ早く!』と指導しませんか。
『食べ過ぎ・飲みすぎ・運動不足・栄養バランス・ストレス・休養』などなど、よりよい生活になるように、やるべきまたはやってはいけない指導をしますよね。
マフラーがラッパみたいでした。

かなひろいテストの数値は、前頭葉の注意集中・分配力を表しています。
そこに問題があるとき、(前述のように運転などはまさにこの能力を使っています)
『この状態ではできないこと』『より悪化を防ぐためにしてはいけないこと』『改善のためにすべきこと』を指導するのは当然のことです。
血圧や血液検査の結果を使って生活改善指導をするのと同じ情熱でやりましょう。
それらの結果には信頼性があって、かなひろいテスト結果には信頼性がないので強く指導できないというのなら、脳機能検査をする必要性はないということになってしまいます。

付け加えると、結局は、どのくらいの誠意となおかつ熱意をもって指導したかに尽きると思います。
血液検査の結果を踏まえて、生活改善指導をしても改善につながらない人はいます。手を変え品を変えても、家族を巻き込もうとしても変化が起きないときには、私たちは諦めるのではないでしょうか?
それに匹敵するだけの過程をくぐって、なお、運転をやめないときには・・・
あきらめるしかありません。
私は、一回限りの生活指導をすることがよくありますが、この方の残りの人生をよりよく過ごしていただけるように、誠意を込めてお話しします。
だめなら・・・仕方がないとあきらめるのです。
検査結果に確信をもって説明すれば、ほとんどのケースは理解してくれるのですよ。
特に小ボケの方たちは、自覚があるだけにやりがいがあります。
ツーシーターですから夫だけ。

去年の池袋の事件も、まさに小ボケレベルの脳機能を疑いますよね。膝関節の問題ではなくて。
ブログに書きましたので時間のある時読んでみてください。
(続)の「法に定められた『運転免許取り消し方法』」こちらは必ず一度は読んでおいてください。
長くなりました。
実務研修会は10/7~8を予定しています。
では、お元気でね!」

お返事が来ました。
「かなひろいテストの威力、二段階の威力はすごいです。
自信をもって生活指導できてますので。
今回の先生のご助言で『間違いない』と自信がつきました。
ありがとうございました。」
がんばってください!
 

ブログ村

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