acc-j茨城 山岳会日記

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南会津・楢戸沢~会津朝日岳

2012年08月07日 22時22分45秒 | 山行速報(沢)
南会津・楢戸沢~会津朝日岳

楢戸沢。
それは南会津、会津朝日岳を源に発し、伊南川に注ぐ。
特筆すべきは函と峡谷を蓄えた上流部から会津朝日岳北壁スラブへ詰め上げるシチュエ-ション。
絶望的でこそないが、容易ではない。むしろ悪さ、険悪さが際立つ。
絶妙な塩加減がそこにはあるらしい。

キッカケというのはいろんなところに潜んでいる。
「なんとなく」とか「とりあえず」というのが蔓延するころ。
たぶん、物事はつまらなくなってしまうのだろう。

実力のちょっと上。そこに自分を放り込む。
遠く待ち望んだ場所ならなおさら。
オモシロいというのはこういうところにあるものだ。

2011年、7月豪雨で只見は壊滅的な打撃を受けた。
楢戸に入るならば楢戸林道から入るのが一般的。しかし今はその林道を車で入ることはできない。
そこで白沢集落から会津朝日岳への登山道を使い、叶の高手と荒禿山間のコルを越えて楢戸上流部に出るというのが今回の計画。

2012/8/1



白沢林道途中に車を止めて、いわなの里まで約3km。
林道は寸断され、河原と化す場面も。
当日の状況を物語るように緊急車両が退路を断たれ、草むらに取り残されていた。
カメラの調子が悪く、ただの重りと化したそれを諦め携帯で写真を撮る。
ここぞというときに残念無念。
会津朝日岳の登山道も管理がされておらず、路形は明瞭だが、一部は薮に埋もれる。



地形図と照らし合わせて適当な沢に入る。
水流はナメを滑りこれはこれで美しい。
バテつつ詰めあがるとどうやら荒禿山南の1160峰。
少し下って反対側の沢筋へと下る。

薮から泥のルンゼをしばらく下るといくつか沢を合わせ水量もそこそことなる。
楢戸沢に降り立った。・・・と思った。



その沢をしばらく遡行するとそれなりの滝場が出てきて、次第にゴ-ロとなる。
遡行図も同じような表記がされていたが、今一つスケ-ルが小さいなぁという思いもあった。
その先は行って行ってもゴ-ロが続く。行く先には緑豊かな稜線。ここで沢を取り違えたことを確信した。
どうやらここは叶の高手と避難小屋の稜線へ詰めあがる沢らしい。
仕方なくトボトボと沢下る。
幸い時間はまだ午前中。時間はある。



楢戸に降り立ったのは昼過ぎ。結局は2時間半ほどロスしてしまった。
まあ、それはそれで1本多く沢を歩いたのだ、ということで自分を納得させる。
ちょうど楢戸沢上流部スタ-トの2段7m滝上、1:3の出合に飛び出る。





このあたりの楢戸は水に磨かれたナメが美しい。
すぐに滝場が続くが、流線型のナメあり、豊かな水を湛えた釜ありとなかなか美しく、ボルダリング感覚で楽しく登れる。
時に落ちれば落命する程の高さの滝も手掛かりは多い。
「こうやって行けば登れるよ!」
まるで楢戸沢にアドバイスを貰いながら登っているかのように、一手伸ばせば、次の一手が見えてくる。



下の二俣(830m)
この先、安定した幕場の保証はない。
右岸台地に幕を張る。増水の場合、そこからもっと高い所にも平坦地があった。
泊付の沢なのに釣りなし、焚火もなし。
随分禁欲的だなあと思いつつも、昨夜の寝不足から日没を前に寝る。
明日は今日よりキツイのだ!

2012/8/2

予定から少し遅れて6:20発
しばらくは登れる滝が続くが、朝っぱらから胸まで浸かる。
行く先に連瀑が現れる。一見して登る気がしない。
右岸ルンゼを詰め上げて薮尾根を越えると対岸に滝を連ねた「水量の多い沢」が見える。
一瞬「げっ、あれ行くの?」と思ったが、そこに向かって下れば、それは支沢で楢戸はなだらかに流れていた。



行く先に明らかな冷気。スノ-ブリッジが現れた。
下を小走りで潜って、次の滝場はつるつる。
少し戻って右岸ルンゼに入りたいが、スノ-ブリッジで埋まっているので悪い草付をリッジ沿いに行く。
高度を上げて薮に入ったらトラバ-ス。次の右岸ルンゼから沢床に降り立つ。



滝場をいくつかこなすと奥の二俣。(1070m)
ココからが楢戸の核心。
右岸がハングし谷は深く切れ込んでいく。そして左岸もスラブに草付。
つまり、たやすく巻くことができないということだ。
ここで滝にも巻きにも手が出なければ、敗退どころか今日の下山さえ困難になる。
緊張度が一気に増す。



このころになると、次から次へと出てくる滝にどれがどれやらという感である。
どれもが右岸はハングし絶望的。
滝は登れそうであったり、躊躇われたり。切れ込んだ先にチョックスト-ンを乗せているパタ-ンが多く、陰惨な印象。
空身で登るがザックの引き上げがなかなか疲れる。
時に出てくるスノ-ブリッジは下を潜ったり、上を歩いたり。
左岸に安全策をと思っても、草付スラブは見た目以上に悪い。
産毛のような、か細い草にすがるような場面も。



この悪さ、緊張感。おそらくいつも以上のパフォ-マンスを披露できたことであろう。
でもね、現実は全身泥だらけで、決してカッコよくはない。
独りなら、とにかくスタイルにこだわる場面じゃない。
無事に生還できたなら、何でも頑張れるんじゃないかと思えるほどだ。

最上部は滝場も規模が小さくなる。
ここまで来ると、北壁スラブへと入るル-トファインディングが焦点となる。

最上部で左岸から入る沢の1本目は開けている。その支沢右岸は高さもあり顕著な尾根状。
2本目は両岸が岩場のほぼ水量のない沢筋。この両岸は高さは低く、よく見ると奥にスラブの一端が見える。
この先、3本目があるようだが、この2本目に決めた。

涸れたスラブ滝を両足を突っ張っていくつか越えると、中規模スラブ。
それを詰めて右岸の岩尾根を越えると北壁スラブが広がる。これはなかなかのものだ。



スラブは傾斜もゆるく手がかりもあるので、容易。
フラットソ-ルに履き替えてもよかったが、アクアステルスでもフリクションはバッチリ。
スラブ中央のルンゼ左岸から、ルンゼを跨いで右岸の弱点を選んで稜線に抜ける。
上部は立ってくるが、Ⅲ級を越えるものではない。





会津朝日岳はそこから少しのヤブコギ。
誰もいない山頂で喜びと安堵の一瞬。
そして緊張感から解き放たれ、精神に凌駕されていた肉体が軋みはじめる。



木陰で大休止したら、登山道を行く。
意気揚々とといいたいところだが、電池の切れそうなロボットのようにぎこちない歩みで。
ココまでくれば、ヘッデンにならない程度にゆっくり行けばいい。

楢戸、凄いよ。
谷を実感したよ。

生きてるって感じがしたよ。
間違いなく面白かったよ。

sak


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