種屋のもうかるF1野菜やF1果物が多いせいか、それとも温暖化で暑さがさらないせいか、このごろの野菜や果物には外観は旨そうにしていても、中身が半腐りだったり硬すぎたりということがけっこう多い。スーパーは一個でも多く売ろうというのか、見てくれを考えたプラの化粧袋に入ったものが大部分だから、目利きがさらに難しい。高い値段を出して買って帰り、開いてみたら不良品でがっかりしたという経験なら年に幾度もある。クレーム返品するのも面倒臭いからと結局そのままゴミ箱行きというわけだ。これも食糧の無駄の一部なのだろうか。
さて、消費税増税直前の日曜日のスーパーは買いだめをしておこうという買い物客だろうか、結構人出が多かった。食料品は8%のままだから慌てることもないとおもうのだが、消費者心理はまた別のところにあるのかもしれない。
果物台の上は、葡萄が位置を譲って横にずれ、その場所に林檎と柿が並んでいる。林檎好きの超高齢者に2個買った。まさか腐っていることはなかろうと、紅い皮の上から押さえてみた。台の端っこには栗の実が袋入りで売られている。茹で栗もいいし焼き栗もいいなと思ったが結局は買わずに通り過ぎてしまった。
「礼状は書きぬ虫喰ひの栗ながら」
佐藤紅緑のこの句は、関森勝夫の〈文人たちの句境〉に載っている秋の句である。
季節を告げる到来物。さっそく茹でてみたらほとんどが虫喰いばかり。がっかりしたが、送り主の気持ちを想って礼状は書いたという句だ。ほんとうは癪にさわって、礼状など書く気にはならないのだが、「虫喰い」だったとは一言も愚痴らずに、文字通り御礼一言のみをあらわしたわけだ。
贈答の習慣は昔も今もそう変わってはいないだろうが、近頃では貰った方が、わざわざ御礼の手紙を認めることは少なくなってしまい、電話か簡易なSNSでアリガトウとやっておしまいだろう。相手によっては「虫喰い」だったよときわめて正直に告げてしまう場合もありそうな気がする。送る方も手紙で通知などせず、宅配便の発信人の名前でアアソウカと承知するだけだから、お互い様である。
送る受けるといった儀礼的行為だけだとすれば、いかにも淋しいではないかと関森は言い、志賀直哉のユニークな礼状を紹介してくれている。
『好物のスダチと栗をありがたう。
私が奈良にいた頃、里見が作った小噺をご披露します。
「スダチの方が柚子よりずっとうまいね」
「昔から云ふちゃないか。(柚子よりスダチ)とね」
お礼早々 十月十六日』
こんな気の利いた礼状なら貰ってみたいものだ。
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