豚の鼻鳴らし

他人の「鼻を鳴らす癖」が気になって仕方がないのは自分だけだろうか。今日もそんなシーンに遭遇した。

帰りの電車を待つ日曜日の待合室は自分一人。他人の邪魔もなく小説をひとり読み進めていたが、途中から入ってきた若者。ベンチに座ると手持ちのＰＳＰを使ってゲームを始めた。携帯で大声で喋られることを思えば静かにしてくれて有りがたい。

と思ったのは間違いで、何の拍子か突然に鼻を鳴らし始めたのである。

ググググ～ガガガガ～。ゲームに真剣になればなるほど鼻が鳴る。どう文字表現するのがいいのだろう。ググググ～ガガガガ～。鼻水をすするという音ではなく鼻腔に響く乾いた音だ。ガラスで囲まれた待合室の中に響きわたる轟音にびっくりし呆れた。豚の鼻鳴らしと同じである。

鼻息が荒いというのとも少し違う。鼻腔の作りが悪くて空気の流通が邪魔されるので、無意識に鼻をすするのだろうか。風邪ではなく鼻水が出ない分、余計に音が大きくなって他人の耳障りになるのだ。

何度も繰り返されるのを聞かされているうちに少し腹が立ってきた。しかし、イライラするのは本人ではなく、気色の悪い鼻雑音を間欠的に聞かされるこちらなのだ。時折こちらから鋭い視線を送ってみても、それを気にして止める気配もない。

自分が騒音発生源になっているなどと意識したこともないだろうし、本人に悪気はないのだから無理も無いのだが、連日連夜、近くでググググ～を聴かされているであろうこの子の両親はいったいどういう対応をしてきたのだろうか。まさか、親子でググググ～を合唱しているわけでもあるまい。

家庭教育が社会ルールを教えていた昔はこんな鼻鳴らしを公然と他人の前で行う輩は無かった。病気ならば治すことが必要だろうし、癖ということなら止めたほうが社会的である。

電車がやってきたのをタイミングにこちらが席を立って逃げ出した。

この豚の鼻鳴らしをする人は結構多いようだ。先日もトップファッションの若い女性がこのググググ～を見事に演じる現場に遭遇した。静かなロビーでこれをやられた。意識したこちらは居心地の悪さを感じる。品もなければマナーもないと睨んでも、彼女の鼻腔を通して発せられるググググ～は繰り返しホールに響き渡る。美人が台無しだ。ボーイフレンドは何も感じないのだろうか。

人の振りを見てはいても、我が振りを直すことは結構に難しいことなのだろう。自分にはこの豚鼻鳴らしの病気も癖もないのが幸いである。