3Dプリンターを使ってプラ製の拳銃をつくることにおかしな使命感(?)を感じているらしいアメリカ人の男。自身の知識を銃の設計図としてWEB上に公開し、裁判所から差し止めを喰らったはずだったのだが、最近のニュースによると、本人は頑なに情報公開を叫んでいるという。
アメリカのメディアは、そんな彼のことを〈クリプト・アナーキスト〉と呼んだ。クリプトは教会の地下室のことだから、密室で武器を作っている若いテロリストのイメージなのだろう。
3D印刷技術はこのところさまざまな分野で使われつつあるようだが、今日の中日夕刊には「3Dプリンターで入れ歯、精密で丈夫、安価へ期待」という年寄の福音のような見出しが出ている。
開発主体はつくばの〈産業技術総合研究所〉で、従来の義歯製造工法に比べて、より精密で耐久性が上がり、製造期間は三分の一以下、費用も下がる可能性が大きいとして、保険適用を目指していくとある。
患者の口内をスキャナーで読み取って入れ歯を設計し、粉末のコバルトクロム合金をレーザーで溶解し、それを幾重にも重ねながら3Dプリンターで射出して作る。型取りから始まる従来の工法だと工程が多く製造には二週間かかっていたが、3D工法なら一日二日で完成、材料コストも半分以下になるのだそうだ。しかも、手作業による誤差も少なく、より精密になるため、破損もしにくいのだという。
既に医療機器としての国の承認も受けられたという。保険適用も許されるとなれば、臼歯が一本脱落しそうな老人としては、これはまたなんと有り難い技術ではないか。歯科技工士も成り手が減って高齢化が進んでいる業態らしい。3Dによる新技術が人手不足を補うことになるのであれば、歯科医師にとっても、これまた至極けっこうなことだと思う。
こうした人類の「口福」を考えて技術開発にいそしみ、研究室の密室で3Dプリンターによる入れ歯製造の設計図を準備してきたつくばの技術者たち。アナーキスムには「権威主義的でない」という意味も含まれるはずだから、彼らにも、やはり〈クリプト・アナーキスト〉の要素がありそうだ。
暗号。