ON  MY  WAY

60代になっても、迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされながら、生きている日々を綴ります。

「絵のある自伝」(安野光雅著;文藝春秋社)を読む

2021-04-22 21:59:51 | 読む


画家で絵本作家の安野光雅氏が亡くなったのは、去年の12月だった。

20代のころ、氏の描いた絵本を一時期すごく気に入ってよく見ていた時代があった。
何に引き付けられたかというと、まずは、「ふしぎなえ」である。
これは、エッシャーの絵に大きな影響を受けて、実際にはありえない不思議な図形の世界を描いたものである。
ありえないものが、絵だと表現できるというのは、不思議な面白さがある。
書店や図書館などで、安野氏の絵本を見つけると、よく見入ったものであった。
「ABCの本」「あいうえおの本」などという絵本もあった。
やはり、ABCなどアルファベットの文字一つ一つを、ありえない絵で表現し、プラスそのアルファベットの付く言葉の絵が付けてある。

これについては、今回読んだ本にも書いてあった。

その本とは、安野氏の著書「絵のある自伝」(文藝春秋社(文春文庫))である。
1926年、島根県津和野市生まれの氏は、私の親世代の人である。
だから、この本に出てくるエピソードの一つ一つが、ある種懐かしい感覚をもって想像できるのである。
戦前、戦中の、氏がまだ子ども・少年だった時代だったころの話は、私の父が育った時代と重なるものが多いと感じた。そして、
昭和30年代の私自身が子どもの頃に味わった思いなども出てくる。
私が、60代の半ばに近付いていることもあり、読み進むにつれ、人生をいろいろと考え直すことにつながってきた。
そして、この本が最初に出たのは、2011年のことで氏も80代であったから、氏と付き合いがあった人たちが、当時次々と亡くなっっていったため、親交のあった人々との思い出が紹介されたりしている。
それは、自分の周辺で、自分にかかわってくれた人たちが次々といなくなっていくことでもある。

そこを読んでいるとき、私は、今自分が味わっている感覚とこれから先に自分が味わうであろう感覚が両方書かれているような気分になってしまった。
読んでしみじみした気分になった。

反対に、一番可笑しかったのは、「空想犯」というテーマで書かれたものである。
人が考えつかないような年賀状を作ることに凝っていたことがあるとのこと。
もっとも物議を醸し出したのが、自分が刑務所から出したような内容にしたものだ。

もちろん、安野氏一流のしゃれなのだが、これを信じてしまった人が多く、冗談で済まされない、真に受けた反応が数多く寄せられたというのには、笑ってしまった。

うそ偽りなく書かれた本書を読んでみて、改めて安野光雅氏は、芸術家であったのだなと思った。
こういう、人を楽しませる才能を持った人が94歳だったとはいえ、逝ってしまったのは、やはり惜しい気がする。


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