もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

6 078 後藤昭「新版 わたしたちと裁判」(岩波ジュニア新書:2006)感想5

2017年06月20日 23時08分29秒 | 一日一冊読書開始
6月20日(火):  

205ページ    所要時間4:15     古本87円

著者56歳(1950生まれ)。一橋大学法学部卒業後、司法修習を修了。千葉大学法経学部教授を経て、一橋大学大学院法学研究科教授。法学博士

読み始めてすぐに「前に読んだ本だ」と気が付いた。調べてみて3回目だとわかった(1回目と2回目は図書館で借りた本だった)。既読だからと言って、内容をしっかり覚えている訳ではないので読む意義は十分にあった。というより、本書は折に触れて繰り返し読み返すべき本だと言える。よくできたテキスト

読みやすい本かと言えば、考えながらなので、スピードをあげきれない読みにくい感じはある。しかし、堅苦しい教科書というより、裁判や法廷、法律と法に関する「リアル実況中継」的な本である。読む者が、外から眺めるのではなく、法廷の内側に立って中から解説付きでじっくりと見て「裁判」について考えられる工夫が施されている。

本書の内容について、概説する気力がないが、「ぜひ手元に一冊どうぞ。裁判員制度や法科大学院制度が行われる前の本だけど、全く古くなってませんよ。むしろ司法制度改革を目前に控えて、意欲的に改革の意義と問題点についてわかりやすく解説、意義付けされている分、いまや『こんなはずではなかった』とも言われている司法制度改革の本来の目標、原点を知ることにも役立ちますよ」と言っておく。

【目次】第1章 司法改革とはなんだろうか/第2章 裁判とはどんなものか(髪型の自由を訴えた子どもたち/裁判は何のためにあるか ほか)/第3章 裁判所へ行ってみよう(裁判は誰でも見ることができる/どうやって傍聴するか ほか)/第4章 法律を扱う人たち(弁護士は、どんな人たちか/検察官は、どんな人たちか/裁判官は、どんな人たちか ほか)/第5章 裁判と法(法律に従って裁判するわけ/裁判での法律の働き方 ほか)

【内容情報】あと3年以内に裁判員制度が始まります。裁判をより身近で使いやすいものにする、司法改革の一環です。いま中高生のみなさんも、裁判員に選ばれる日が来るでしょう。裁判は、争い事を解決し、世の中を良くするための大事な手段です。法の精神をわかりやすく説いて好評だった旧版を、この時期に合わせ、最新の情報に改訂。

以下、前回の読書記録である。 ※訂正(6月24日)=2回目読んだのは、ブックオフ108円でした。この本、2冊持ってます。

126冊 後藤昭「新版 わたしたちと裁判」(岩波ジュニア新書;2006) 評価4
                2012年01月18日 05時53分48秒 | 一日一冊読書開始
1月17日(火):

214ページ  所要時間6;30

著者56歳、一橋大法学部教授。2度目。4年前の2007年11月15日に読んだ(所要時間3:00)時は、「テキスト。面白かった。裁判自体が法を創造していく行為である。司法に対する考え方や接し方が親切に述べられている。」と評価5だった。しかし、今回は、途中まで評価3にするつもりだった。第5章「裁判と法」は面白かったが、評価5は付けられなかった。

4年前と俺の何が変わったのか?: まず読むのがしんどかった。民事訴訟、刑事訴訟、訴訟でない裁判他、裁判・訴訟等の手順・手続きについて、詳細・丁寧に説明されているのだが、体調によるのか、詳細な記述によるのか?リズムに乗れず、流し読みができなかった。しかし、本質的な理由は別に有る。結論から言えば、「体制側の<雲上人>が書いた、批判精神に乏しい本だ!」と感じてしまったのだ。例えば、「被告人が犯人であることがはっきりと証明されない限りは、無罪の判決をしなければなりません」と言って「疑わしきは被告人の利益に」と臆面もなく簡単に述べているのをみて、「裁判官にも当りハズレがあるという事実や、痴漢冤罪をはじめ日本の刑事訴訟の有罪率99.9%の現実を全く問題視する様子がない」「代用監獄という現実は、当分変わる見込みはありません」と平気で言い放っているのにも驚いてしまったのだ。

裁判員制度についても、準備・推進する側の中心メンバーの著者には、映画監督の森達也さんが言った「裁判員制度が、非常に大きな問題をはらむ<死刑制度>と深く関与するのは、未整備カーで高速を走るようなもので、あまりにも危険な問題をはらむ!。」という根本的矛盾を伝えようという姿勢が全く見えない。

高校生向けの本だとは言え、司法が抱える本質的な矛盾に目をつむり、裁判の性善説的効用を力説するが、現実の不条理に目を向けさせない姿勢に強い不満を感じた。そうして観れば、著者の文章は、一事が万事、高校生たちに、遠い先の現実感のない良いことばかりを描いて見せて、その影に黒々と広がる矛盾や不条理をあまり語らない、批判的精神の乏しさばかりが目について白けてしまったのだ。そのため、「詳しく・丁寧だけど、上っすべりな内容」に思えて、何か強く白けてしまったのだ。

決して、著者を否定する気はない。非常にバランス感覚に富んだ、教科書などを執筆する学者だとは思う。ただ、庶民の、現場の、視点が足りない気がするのだ。著者に対してどうしても机上のお上品な虚妄を感じてしまうのだ。 

特に、第5章の「裁判が法律を基準に行われるだけでなく、裁判が法を作る働きもあること」も紹介したのには、大いにうなづいた。
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