もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

7 018 水木しげる「敗走記」(元→コミックス→講談社文庫:1970→1991→2010)感想4

2017年11月12日 17時34分29秒 | 一日一冊読書開始
11月12日(日):    

271ページ    所要時間2:15     アマゾン365円(108+257)

著者69歳(1922-2015:93歳)。

「KANDERE」に出てくる班長が田中角栄に少し似ているので、勝手に1970年頃(戦後25年頃)より前で1960年代の作品かと考えていたが、調べてみると「敗戦記」は1970年(48歳)の作品だった。

水木さんの戦記漫画は、著者自身が出征して戦場の最前線で左腕を失い、生死の境を潜り抜けた経験に基づいて書かれている。戦場のリアルさを知らない人間に語ることは極めて難しいことだ。しかも、戦後72年は、30年を1世代とするなら、2.5世代を経たことになる。もはや戦争について語れる人々がほぼなくなってしまった。

大岡昇平の「レイテ戦記」「野火」「俘虜記」などの優れた戦争文学は存在するが、難しいし、実感がないし、面白くないし、まずほとんどの人は読まない(読めない)。その点で、水木しげるの戦記漫画は非常に読みやすく、視覚に訴えて圧倒的に説得力があり、記憶に残る。

また水木さんの作品群が書かれた時代が良かった。高度経済成長期の後半から70年代は、日本が伸びていく中で今と比べて世の中が(表現活動に対して)大らかであり、反戦の気分も強かった。そして何より、政治家も含めて実際の戦争経験者が社会の中心で活躍していた時代だ。よくぞこの時期に書き残しておいてくれたと思う。

そんな時代に書かれた水木さんの作品には、今であれば無知で無恥な歴史修正主義の馬鹿どもが絶対に見過ごさない、ただでは措かないような戦場の醜い実態、いじめ、暴力、劣悪な食糧事情、衛星状態、現地人への暴力・殺人、強姦、そして何よりも膨大で圧倒的な人の死、それもむなしい犬死にの数々が当たり前に描かれて出てくる。何十人、何百人の男の兵士たちを相手にする”ピー”と呼ばれた従軍慰安婦も女性の生命に係わる行為として普通に出てくる。しかも、水木作品には文化功労者のお墨付きがすでに出ているのだ。

これほど戦争について、雄弁に語れてしかも普及する力を持った作品群は、今となっては非常に重要な歴史遺産と言える。「はだしのゲン」を図書館から撤去して日本中の笑い者になった島根県や鳥取県のように、もしも水木作品を図書館・学校等から撤去すれば笑われるのは、その団体である。

そもそも朝鮮・韓国女性に対する従軍慰安婦の事実も明らかにあったに決まっている。あったのかなかったのかの議論になれば、間違いなくあったのだ。水木さんの克明な戦記漫画(記録)を見れば明白だ。まずそれをしっかりと認める切ること。過ちを認め切り謝罪し切ること。

謝罪するとは、一度だけ謝罪の場を設けることではない。どんなに辛くても歴史に刻み、未来永劫その事実を互いに忘れない覚悟を決め、折に触れその過ちを忘れないように後世の子どもたちに「二度と同じ過ちを繰り返さない」ようきちんと歴史の記憶として引き継ぎ続けることだ。謝罪するとは誤魔化しをせず、絶対に忘れないことだ。その場しのぎでぺこぺこすることではない!

そこまですれば、今度は、真に悪かったのが<侵略戦争という行為>そのものであり、被害者も、加害者も、結局戦争指導者を除いて、その時代を生きた両国の人々すべてが<戦争という愚かな行為の犠牲者>だったのだ、という事実に行き着くことができて、「二度と戦争という過ちは繰り返さない」という<本質的反省>が引き継がれていくことになるのだ。


それを慰安婦制度が存在したのは厳然たる事実なのに、あったのかなかったのか、謝罪は終わったのか終わってないのかの問題に矮小化してしまうことで、「戦争なんて悪いに決まってるじゃん。でも、よその国に舐められるから軍隊は必要だし、必要な戦争もやっぱりあるんじゃないの」などと若者たちが言ってしまうことになるのだ。今の日本は愚かな歴史修正主義者によって戦争に対する本当の反省に到達できなくなってしまっている。それも現政権では意図的にそういう方向に操作が行われている。とても恥ずかしい時代だ。

「171111 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。バブルも戦争も忘れて繰り返すアベのニッポン!チャチャチャ。」  2017年11月11日 13時01分11秒 | 時代の記憶
11月11日(土):
<正しさ>と<分かりやすさ>の戦いは、今が良ければそれでいい!<分かりやすさ>が勝つ。そして、国家も社会も滅びへ向かう。

【目次&内容】「敗走記」(1970) 戦死した親友の体験談。一部フィクション。/「ダンピール海峡」 軍旗にまつわる高岡連隊の史実を元にした話。/「レーモン河畔」 数奇な運命の実話。日本軍が美人スパイを殺したりせずに送り返した「稀に見る美談(ママ)」 。/「KANDERE」 兵隊とパプアニューギニアの原住民の数奇な運命。生き残りから聞いた話を元にしたフィクション。/「ごきぶり」 高射砲でB17を落とし戦犯となり「巣鴨」に入った兄から聞いたのを元にした話。/「幽霊艦長」 太平洋戦争の海戦における夜戦において日本軍最後の完全勝利といえるルンガ沖夜戦とその後。/「あとがき」

【内容紹介】戦争を生き抜いた著者がつづる生と死の物語。戦記ドキュメンタリー完全復刻!。昭和19年、南太平洋ニューブリテン島中部、部隊は壊滅的打撃を受けたものの、ひとり生き延び、仲間の鈴木と合流することに成功する。そして断崖を通り抜け道なき道を進み、敗走を続けた。敵に追われ、飢えや渇き、暑さに苦しみながらも九死に一生を得た著者が綴る、生と死の物語。戦記漫画の傑作を6編収録。 ※本書は1991年11月に株式会社コミックスより刊行されました。
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