575の会

名古屋にある575の会という俳句のグループ。
身辺のささやかな呟きなども。

手のひらの透けて色なき風の過ぐ  郁子

2019年09月30日 | Weblog

手のひら。どんな時に人はじっと見るのでしょう?

  働けど働けどなお我暮らし楽にならざり じっと手を見る

啄木の歌にあるように未来が閉ざされたと感ずる時でしょうか。

この句はちょっと違っているように感じます。
不思議な句です。

 じっと見つめていた手のひらが透けていく。
 秋風が吹き抜けていく・・・

肉体の存在感が不確かになっていく・・・そんな浮遊感。
秋風だけがかんじられる。
たましいの世界。
作者の感じたのは、ちょっとあぶない世界かも知れません。(遅足)
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窯跡に拾うひとひら風のいろ   遅足

2019年09月29日 | Weblog

「風の色」という題詠に四苦八苦しました。
竹中さんの連載「猿投窯」にヒントを頂き詠んだ句です。

東山植物園のなかに窯跡が保存されています。
おそらく猿投窯のひとつだと思います。
土のなかにキラリと光る欠片を見つけました。
手に取ってみると・・・ガラスの破片でした。

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猿投窯の広がり   竹中敬一

2019年09月28日 | Weblog



重文 「 猿投灰秞多口瓶 ( さなげ はいゆう たこうへい )
平安時代初期 ( 8世紀末 ) 。愛知県みよし市黒笹 出土 。
愛知県陶磁美術館 蔵 本多静雄氏 寄贈


愛知県の北部 、猿投山 ( 標高629m )の南西麓に広く分布する窯の遺跡群ー猿投窯

( さなげよう )について、その窯跡のある地域に住みながら私自身 これまで殆ど

その存在すら知りませんでした 。

本多静雄氏の発見をきっかけに、名古屋大学考古学教室の澄田正一氏、楢崎彰一氏に

よる本格的な研究 更に愛知県瀬戸市に愛知県陶磁美術館 ができて( 1978 年 開館 )、

各時代にわたる猿投窯を代表する作品が収集、展示され、その全貌がわかるように

なりました 。

猿投窯は全国各地の社寺や貴族に使われていたようです 。

愛知県陶磁美術館の学芸員、大西 遼氏によると、千葉県市原市で発掘された灰釉浄瓶

( はいゆうじょうへい ) 。どこで作られたものか分かりませんでしたが 、よく調べて

みると猿投窯で八世紀末 〜 九世紀初頭に焼かれたものであることがわかったそうです 。

愛知県みよし市の猿投窯跡から同じ形をした灰釉浄瓶が見つかったことから 。

( 中日新聞 2018年6月23日 )

古越前も元をたどれば古常滑 ( ことこなめ )に更に猿投にルーツがあります 。

時代とともに猿投窯の技術は各地に広がっていったのでした。


世の中は骨董ブームです。陶磁器の真贋はなかなか見極め難いものがあり、

陶磁器研究の第一人者、小山冨士夫氏、目利きの骨董好きだった評論家の

小林秀雄氏でもニセモノをつかまされています 。

もともと、陶磁器は実用品 。人によってその好みもまちまちだと思います 。

私は愛知県陶磁美術館で時々、猿投窯の名品を見ていますが、特別 心惹かれるという

ことはありせん 。

私の好みは李朝白磁 。李朝 ( 14世紀〜15世紀初期 李氏朝鮮 )の白磁 。

朝鮮の人には激しやすいイメージがありますが、白磁の壺を見ているとチョゴリ姿の

無垢、無欲、高潔な人の姿が浮かんできて、とても心癒されます 。(終り)


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見舞不要の友の便りや秋の風  佐保子

2019年09月27日 | Weblog

見舞不要とは。病気が軽くて不要なのか。
重くて気が滅入り会いたくないのでしょうか・・・。
いずれにせよ友人の病気は物寂しいです、とすみさん。

そういえば、私も入院した時には、
お見舞いは不要に、とお願いしました。

以前は、病気になれば、お見舞いはごく当たり前でした。
そしてお見舞いには、お返しがつきものでした。
しかし、退職し、フォーマルなお付き合いはなくなりました。
また世の中のあり方も変った今、「お見舞い不要」は
時代の流れかもしれません。

でもお見舞いの心は送ってあげて下さい。
事故からちょうど一年が経ちました、
入院している時にいただいたお見舞いの言葉はとても励まされました。
改めてお礼申し上げます。
モノは必ずしも必要ではありませんが、あたたかい心を。
秋の風のような爽やかな心を。(遅足)

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信濃比叡   麗

2019年09月26日 | Weblog
平安時代、天台宗の開祖「最澄」が、東国巡礼の旅の途中、神坂峠を越えて信濃に入ったそうです。旅人の苦難を見かねて阿智村に宿泊施設としてお寺を建てたそうです。そんなご縁から2000年に「信濃比叡」という呼称が比叡山から与えられました。
お寺の建物としてはまだ新しいのですが、根本中堂もあり、延暦寺から分けて頂いた法灯も絶えることなく灯っています。大きな最澄像が、眼下の村の幸せを祈って下さっているようでした。そこに鐘があり私も祈りを込めて鐘をつきました。
「ご~ん」といつまでも風にのって響く鐘の音。
そこで作ったのが

      晩鐘や色なき風に響きおり

遅足さんから下五の「響きおり」にもう一工夫をというアドバイスを頂きました。

     晩鐘や色なき風を揺らしけり

     晩鐘や色なき風はどこまでも

     晩鐘や色なき風に運ばれて

これくらいしか思いつきませんでした。不思議と鐘をつくと心が穏やかになります。願いを込めて「ご~ん」と。あの余韻がいいですね。
ちなみにこのお寺を建築した時に白いヘビがでてきたそうです。やはりパワースポットかな?
機会があれば訪れて見て下さい。比叡山は遠いけど信濃比叡は近いですよ!恵那山トンネルを越えればすぐです。とてもすがすがしいところです。
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エアコンの風は何色秋暑し  静荷

2019年09月25日 | Weblog

俳句は機知を楽しむ文芸でもあります。
そんな伝統の一句。

昔のクーラーは冷たい風ひといろ。
そして夏は冷房、冬は暖房へ。
最低でも寒色と暖色の二色。
梅雨時には乾燥が目的にも。
使い方次第では七色かも。

  エアコンに秋思のいろのありにけり  

いや上五は「パソコンに」かな?   遅足
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乱読のページめくるか秋の風  結宇

2019年09月24日 | Weblog

本のページをめくる風は、断然秋の風が似合う。
乱読がいいですね、とすみさん。

多読ではなく乱読と言っています。
興味のおもむくままに本を手にする。
そんな自分の気まぐれを秋風と取り合わせる。
洒落ていますね。

中七が「ページをめくる」ではなく
「ページめくるか」となっています。
風がページをめくろうか、と遊んでいる瞬間を
切りとっています。

台風も去って北の涼しい空気が列島へ。
気持ちの良い朝です。(遅足)
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晩鐘や色なき風に響きおり  麗子

2019年09月23日 | Weblog

作者が信濃比叡の天台宗のお寺を訪れた時の句。
古代の東山道の最大の難所であった神坂峠。
今では中央自動車を使えば、わずか数分。
トンネルを抜けた長野県阿智村にあるのが信濃比叡。
そのまま進めば、伊那の飯田です。

鐘をつきました。「ご~ん」という鐘の音。
いつまでも風にのって響きましたとのこと。

この「いつまでも風にのって」という感じを
下五に響かせるにはどうしたら良いでしょう?(遅足)



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新涼の漢乗り込む無人駅  遅足

2019年09月22日 | Weblog

先日、諏訪湖へ行ってきました。
ひさしぶりの遠出でした。車ではなくJRです。
行きは特急ではなく、快速と鈍行を乗り継いで。

まず快速で名古屋から中津川へ。
中津川から各駅停車に乗り換えます。
これが二輌編成のワンマンカー。
塩尻までおよそ2時間。

土曜日でしたので山登りを楽しむ高齢者.
通学する中学生。
東南アジアから働きにきている若者。
木曽の今を映し出すような乗客たちが乗ったり降りたり。

湖畔の「ぬのはん」という旅館に一泊。
朝の涼しい湖畔を散歩。トンボ返りで名古屋へ。
帰りは特急。
時間は半分、料金は倍でした。

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猿投窯 ( さなげよう ) の発見 ⑶   竹中敬一

2019年09月21日 | Weblog

加藤唐九郎が本多静雄氏から見せられた古い陶器の破片を専門家の小山富士夫氏に

見てもらった一方、本多氏もこの猿投の古い窯跡の研究は、専門家に任せるべきだ

と考え、東大教授の三上次男氏のところへ行って、 無理やり、飛行機に乗ってもらい、

小牧空港から猿投の発掘現場へ案内したという。

三上教授は破片を見て、

「 今まであまりみたことの無い破片であるけれども、強いていえば、これは須恵器手

というほうが正確かも知れない。」

と言ったそうです。


「 須恵器手 」( すえきて ) は " 須恵器に準ずる " " 須恵器に近い " ということですが、

ここでまた、日本の陶器のことにつて、専門家から聞いた話などを参考に私なりに

触れてみます。

釉薬 ( うわぐすり )を使わない素焼きの土器には縄文土器、弥生土器、土師器 ( はじき )

、須恵器 があります。

弥生土器までは、野焼きだったのが、須恵器になると、アナ窯を使うようになります。

丘陵地に穴を掘るか、斜面に長い溝を掘って、天井をつけ、一番上に煙出しを設けて、

下から火を焚くやり方です。

5世紀頃、古墳時代後期に朝鮮から伝わったとされています。

土師器は弥生土器の系列にあります。

いずれも、壺、椀 ( わん )、杯、甕 ( かめ ) などですが、使われたのは、社寺か貴族に

限られていました。

奈良時代すでに、唐三彩など釉 ( うわぐすり )を人工的にかけた陶器も一時的に使用

されたり、平安時代に猿投窯で焼いた陶器が出回っても、それと平行して須恵器や

土師器は平安、鎌倉時代までも使われていたようです。

その間 、庶民はどんな器を使っていたのか。万葉集にある皇子が旅先で "我が家に居れば

ちゃんとし食器 ( 金属製か陶磁器 ) に飯を盛るが、旅先なので椎の葉にした"と言って

いるように、庶民は大きな木の葉っぱか、せいぜい木製の椀などを使用していたと

思われます。


話を 「 須恵器手 」 に戻します。

" 須恵器に準ず "ということは、須恵器のようにアナ窯で壺などを素焼きにしますが、

たまたま、燃焼中に灰が科学反応を起こして溶けて、陶器の表面につき、釉をかけたように

見える自然釉 ( しぜんゆう )から始まって、明らかに人工的に釉をかけた焼き物まで

含まれることが、古い窯跡を発掘するうちに、わかってきたわけです。

奈良時代後半になると、窯の構造が改良され、より高い温度で焼くことができるようになり、

特に窯の焚き口近くで焼かれたものは釉がよくかかった陶器が出来上がりました。

更に、平安時代に入ると、ワラなどの植物を燃やした灰を水に溶かし、焼く前の陶器にハケ

で塗って、窯で燃焼すると、白灰色に出来上がるようになったということです。

これを 「 瓷器 ( しき ) 」と言うそうです。( 「 猿投窯 」愛知県陶器美術館 2018発行 を

参考 )



灰釉多口瓶 ( はいゆうたこうへい ) 重文
平安時代初期 ( 8世紀末 )
愛知県陶磁美術館 蔵 ( 本多静雄氏 寄贈 )


以上のようなことがわかったのは、本多静雄氏が初めて陶器の破片を見つけたのがきっかけに

なって、名古屋大学考古学研究室の澄田正一氏と楢崎彰一氏による研究の成果でした。

つまり、古墳時代から奈良時代、平安時代を経て鎌倉時代までに至る陶器史が解明され

たのです。

また、猿投窯が古い常滑焼、さらに古い越前焼まで影響を与えていたこともわかって

きたのでした。            つづく

     お知らせ

今日午後4時半からNHKのEテレで「テレビと伊勢湾台風」という番組が放送されます。

このなかに竹中さんの証言もあります。是非、ご覧ください。(遅足)
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「色なき風」句会の結果です。   遅足

2019年09月20日 | Weblog
9月句会の結果です。力作ぞろいの題詠は票が分かれました。
一方、自由題では2つの句に票が集まりました。
ご覧ください。

題詠

①晩鐘や色なき風に響きおり(麗子)亜子・静荷・等・狗子
②乱読のページめくるか秋の風(結宇)殿様・紅・すみ・静荷
③エアコンの風は何色秋暑し(静荷)佐保子・遅足
④窯跡に拾うひとひら風のいろ(遅足)竹葉・佐保子・亜子・等・晴代・郁子
⑤風景画絵筆自在に風の色(亜子)千香子・麗子
⑥見舞不要の友の便りや秋の風(佐保子)竹葉・能登・すみ・静荷・狗子・晴代
⑦手のひらの透けて色なき風の過ぐ(郁子)能登・結宇・佐保子・遅足・狗子・麗子
⑧子供らの声高らかに秋の風(幸泉)
⑨秋風や先祖のそばの犬の墓(晴代)遅足
⑩秋風やわが身の憂い奪いされ(紅)殿様・すみ
⑪薬師寺塔あかねだちたる風の色(千香子)麗子
⑫色なき風光る鋼の大正池(等)竹葉・結宇・千香子・郁子
⑬秋風や嬉し寂しい滑り台(すみ)
⑭追憶のメモリー起動秋の風(殿様)紅
⑮路地の奥露草色の風揺れる(能登)結宇・紅・郁子
⑯狭き門色なき風の濁りけり(狗子)亜子・千香子・晴代
⑰服そろえ秋の初風待つメール(竹葉)能登・等
 
自由題

①尾を振りて仔犬先ゆく涼新た(等)佐保子・すみ・静荷
②名月や少なきを知る残時間(能登)竹葉・亜子・千香子・狗子
③白驟雨エッシャーの街彷徨いて(殿様)結宇・紅・遅足・亜子
④技師気取る幻燈会の夏休み(結宇)等・狗子
⑤月明に昼の暑さの遠退けり(佐保子)
⑥身の丈を少し縮めて秋の風(遅足)結宇・麗子
⑦夏蝶の一頭今日もわが狭庭(静荷)晴代
⑧旅かばん色なき風を道連れに(亜子)殿様・紅・静荷・等・晴代
⑨彼岸花千手観音への古道(麗子)狗子・郁子
⑩ホスピスの主<あるじ>待つ庭すすき揺れ(紅)竹葉・殿様・等
⑪秋の川水底はつ葉転び舞う(竹葉)
⑫ヴィオロンのしらべ幽かに萩の寺(郁子)
⑬時かわり みんみん蝉よ 久しぶり(幸泉)
⑭秋光や棒高跳びの空を蹴る(狗子)竹葉・能登・佐保子・紅・すみ・遅足・静荷・亜子・千香子・晴代・麗子・郁子
⑮いわくありきちきちばった跳ぶ売地(晴代)能登・結宇・すみ・遅足・千香子・麗子・郁子
⑯星月夜一人住まいの古刹かな(千香子)
⑰口紅は秋の新色自信満つ(すみ)能登・佐保子

次回は10月16日(水)午後1時20分 愛知県芸文センター
題詠は「秋思」です。
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色なき風句会   麗

2019年09月19日 | Weblog
ようやくしのぎやすくなった昨日、9名の参加で句会が行われました。
初めての季語「色なき風」「風の色」に挑戦しました。目にはみえない秋の風の色をどう表現するかで、皆さん苦戦しましたが、句座にもようやくさわやかな秋風が吹いた一日でした。
それでは恒例の一言講評です。


①晩鐘や色なき風に響きおり

信濃比叡の天台宗のお寺で鐘をつきました。「ご~ん」という鐘の音がいつまでも風にのって響きました。秋のちょっと淋しい感じと晩鐘を合わせました。

②乱読のページめくるか秋の風

やや乱雑に置いた本のページをパラパラと秋風がめくります。風も本を読んでいるのでしょうか?

③エアコンの風は何色秋暑し

機知に富んだ面白い句。まだまだ暑い秋の日。本当にエアコンの風って何色なのでしょうか?水色?

④窯跡に拾うひとひら風のいろ

かつては活気のあった陶磁器の産地。窯跡の陶片をそっと手に取る。秋の光に映えて風の色が目に見えるようです。「ひとひら」がいいですね。

⑤風景画絵筆自在に風の色

目にみえない風を画家は自由自在に色をつけて絵にします。風を描けるなんて素敵ですね。印象派の絵を思い出しました。

⑥見舞不要の友の便りや秋の風

敢えて「見舞いは不要」という友の本心はいかに?そんなに病状が重くない感じがして救われる気持ちも。一方、なんとも言えぬうら淋しい秋の風が吹き抜けます。

⑦手のひらの透けて色なき風の過ぐ

思わず「手のひらを太陽に」を歌い出したくなる一句。自分の存在を確かめたくなります。風の感触を俳句にされました。「手のひらに」とするとまた違った趣も。

⑧子供らの声高らかに秋の風

さわやかな一句。「高らかに」にもう一工夫欲しいところ。

⑨秋風や先祖のそばの犬の墓

ユニークな一句。今やご先祖より犬の方が大事にされます。秋風に皮肉を込めました。

⑩秋風やわが身の憂い奪いされ

下五の「奪いされ」を何か違う言葉にして欲しいという声がありました。

⑪薬師寺塔あかねだちたる風の色

夕焼けの美しい奈良。薬師寺の塔が茜色に染まります。それを風の色として詠まれました。「薬師寺や」と切った方がいいとの指摘あり。

⑫色なき風光る鋼の大正池

透明感あふれる硬質な水面を鋼と表現されました。「風光る」は春の季語なので、「大正池光る鋼の風の色」としてはどうか?という推敲も。

⑬秋風や嬉し寂しい滑り台

情景は目に浮かびますが、「嬉し寂しい」にもう一工夫をという声あり。

⑭追憶のメモリー起動秋の風

メモリー起動という言葉が斬新です。ただ、追憶とメモリーが同じことなので、何か違う言葉にしてはという声がありました。「失恋のメモリー起動秋の風」

⑮路地の奥露草色の風揺れる

ひっそりとした路地に露草が揺れています。秋の風という季語はありませんが季感があるのでいいのでは?「路地の奥」にもう一工夫欲しいところ。


⑯狭き門色なき風の濁りけり

医学部の女子を不正に不合格にした問題か?あるいは韓国の一件か?とにかく風が濁るのが問題です!世評を表す一句。作者の意図はアメリカの大学の裏口献金問題でした。グローバルな一句となりました。


⑰服そろえ秋の初風待つメール

デートでしょうか?楽しいお出かけ?秋風とともに返事のメールを待っています。


いかがでしたでしょうか?
紀友則の
「吹き来れば身にもしみける秋風を色なきものと思ひけるかな」から出た言葉。
中国では秋風の色は白とされたそうですが、色なき風と言った昔の日本人の感性はすばらしいと思いました。
実際には色はついていないけれど、俳句の中ではさまざまな光景に多彩な色が目に浮かびました。
想像力を働かせて風に色をつけていく作業は難易度は高かったけれど面白かったです。

さて、来月は物思いにふける秋。
お題は「秋思」と決まりました。
10月16日(水)午後1時20分 愛知県芸文センター会議室Dでお待ちしています。




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9月句会の投句が集まりました。  遅足

2019年09月18日 | Weblog
名古屋は朝から小雨。昨日あたりから涼しくなりました。
さて、今回の題詠は「色なき風」「風の色」。「秋風」のことです。
どの句に秋の女神は微笑んでくださるのでしょうか?


題詠

①晩鐘や色なき風に響きおり
②乱読のページめくるか秋の風
③エアコンの風は何色秋暑し
④窯跡に拾うひとひら風のいろ
⑤風景画絵筆自在に風の色
⑥見舞不要の友の便りや秋の風
⑦手のひらの透けて色なき風の過ぐ
⑧子供らの声高らかに秋の風
⑨秋風や先祖のそばの犬の墓
⑩秋風やわが身の憂い奪いされ
⑪薬師寺塔あかねだちたる風の色
⑫色なき風光る鋼の大正池
⑬秋風や嬉し寂しい滑り台
⑭追憶のメモリー起動秋の風
⑮路地の奥露草色の風揺れる
⑯狭き門色なき風の濁りけり
⑰服そろえ秋の初風松メール
 

自由題

①尾を振りて仔犬先ゆく涼新た
②名月や少なきを知る残時間
③白驟雨エッシャーの街彷徨いて
④技師気取る幻燈会の夏休み
⑤月明に昼の暑さの遠退けり
⑥身の丈を少し縮めて秋の風
⑦夏蝶の一頭今日もわが狭庭
⑧旅かばん色なき風を道連れに
⑨彼岸花千手観音への古道
⑩ホスピスの主<あるじ>待つ庭すすき揺れ
⑪秋の川水底はつ葉転び舞う
⑫ヴィオロンのしらべ幽かに萩の寺
⑬時かわり みんみん蝉よ 久しぶり
⑭秋光や棒高跳びの空を蹴る
⑮いわくありきちきちばった跳ぶ売地
⑯星月夜一人住まいの古刹かな
⑰口紅は秋の新色自信満つ
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新涼や土偶の足のたくましき  麗子

2019年09月17日 | Weblog

「新涼」は、秋になって感じる涼しさのこと。
「涼し」は、夏の季語で、暑さの中で感じられる涼しさを言います。

この土偶は長野県の尖石縄文考古館の「縄文のビーナス」。
妊婦をかたどったといわれるもので、たくましい足をしています。

足がたくましいのは、なぜ?
八ヶ岳の野山を駆けて狩をする男たち。
土の産み出すいのちを収穫する女たち。
生きていくために足はしっかりと土を掴んでいます。
そこに美を感じた縄文人は、あのビーナスを産み出したのでしょうか。

高原の涼しい空気のなかに立った作者。
踏みしめているのは、縄文時代の土であることに気づきました。(遅足)

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鬼灯を母の少女が鳴らしけり  郁子

2019年09月16日 | Weblog

ひねりの効いた表現におかしみがあります。
思わず惹き込まれます、と殿様。

この少女は同時に、この母そのもののことでしょうね。
母の少女時代とでも読んだのですが。
この読み方がいいのかどうか?
こう読んで、とりました、と結宇さん。

「母の少女」という表現が一句のポイントですね。
「母」と「少女」とは普通は相容れない言葉です。
しかし母のなかには少女が存在しつづけていると作者は言います。
ほおずきを鳴らしているのは母=少女なんですね。
表記は漢字ではなく、ひらがなが良いかも知れません。(遅足)

  ほおずきを母の少女が鳴らしけり
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