つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

駅前にてもの想う

2017-01-13 21:55:06 | 文もどき
おまえの両親はおまえが望むようには愛してくれないだろう。
だからと言って、おまえを愛していない訳じゃない。
多田の言葉が胸を去らない。
あの瞬間、全身を駆け抜けたのは驚きと喜びとヘウレーカ、喝采だった。
暑苦しいけどそんなに嫌じゃないおっさん、と田村少年が評した多田は私なのだ。そして同時にそんなことは薄々気づいている田村少年もまた、私なのである。

書いては消して、今ここには跡形もない数十行を捧げる。その意味を伝えるには言葉はあまりにもどかしく、形にすればするりと逃げていく。
そして君は、それを良しとは決してしない。
けれども、私たちはこれで良いのだろう。
君もまた、多田であり田村少年なのだから。



三浦しをん/まほろ駅前番外地