つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

母のシステム手帳

2015-12-26 16:07:03 | 文もどき
だいたいからにして、つましい人である。
大学ノートに縦罫線を引き、家計簿をつけているのだが、その鉛筆たるや私が学生時代に使っていた残りなのだ。いまやHBだの2Bだのといった書き心地のよいものはとうに失せ、先だっては2Hの硬筆で薄っすらと購入品のリストが書き連ねられていた。老眼も始まり、見えないだろうというと、書ければよいのだと答える。残る鉛筆は、消しゴムを容易に受け入れない4Bと書き味硬く痕跡を残したがらないFである。
家計簿にはいろいろのものが挟んであり、領収書だの旅番組で見た宿のメモであったり、料理レシピだったりする。なかでもひときわ大きなのが、母のシステム手帳だ。
毎月、集金に来る新聞屋が寄越すカレンダーを、母はそう呼んでいる。二つ折りにしてノートに挟んだシステム手帳には友人との待ち合わせや犬の予防接種の予定を書き入れて、さらに四つ折りのパートのシフト表を挟んでいる。
かつて外資系企業で毎日端末入力をし、経理を引き受け、我が子にワープロを買い与える際にはローマ字入力しか許さなかった母である。パソコンで家計簿をつけたらどうかというと、閉じた大学ノートの上に鉛筆と算盤を重ねて老眼鏡を外す。さらに手を重ねて、これが母のパソコンだとからりと笑った。