つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

エレガンス

2018-03-17 12:21:13 | 誰かの言葉
明治の母と嫁。
買い物帰りに廊下をパタパタ音を立てて歩いていた嫁。
すっと開いた障子の向こうから義母の声。
ー殿中に御座る。
応えて嫁、買い物袋の葱をかざすや
ーええい、下がれ。

親子ほど離れた、独り住まいの友人に宛てた便りは便箋にくるんだ絵葉書が二枚。
時は秋、よく焼けた秋刀魚と、紅葉の写真のものにそれぞれ二、三行をしたためる。
ー秋刀魚の美味しそうなのを見つけました。我が家の晩ご飯はこれで決まり。
友人からの便りには、美しい紅葉。そこには一句、したためられていた。
ー奥山の紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞くときぞ秋はかなしき

大人の処世術とは、こうありたいと思う。
笑顔の美しい、名前も知らないそのひとは、少しだけ真剣なまなざしで私を見る。緑内障を患っているという目の、その奥から見つめてくる。
時代が変わり、日本人が失ったものがあります。
続きを待つ私に控えめだけれど、慎重に言葉を紡ぐ。
羞らいです。
ああ。

今日、会えて良かった。行きずりの友のエレガンス。