つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

いもうと

2016-07-27 19:23:41 | よしなしごと
噂の東京マガジンというテレビショーのイマドキの若者に常識を問うコーナーがあった。
かつてイマドキの若者だったいもうとは、遊びに行った先でこのテレビプログラムの取材を受けた。
アルバイト代を日サロに注ぎ込み、しまいには引きむしるのに飽きもせずヘアエクステをつけた髪は染め抜いてパサパサ、整形手術代とアイプチのコスパを計算して瞼を糊づけした上に毛虫(と当時の私は呼んでいた、世に言うつけまである)をあしらった隈取りという容貌。
所謂コギャルであった。
テーマは豆腐の味噌汁を作る、課題は賽の目切りだと言っていた。要するに、手のひらの上で豆腐を切り分けられるか、を試される訳だ。
いもうとはほんだしを水とともに鍋に投入。沸騰したところで豆腐を唯一日に焼けていない手のひらに載せて横に一閃、さらに井桁に包丁を入れると鍋に放つ。味噌を溶いて椀に盛ったそうだ。
録画フィルムは見事にお蔵入りとなり、家族の記憶の中にだけ事実が残った。今にして思えば、ビキニの水着を着た人物にガスコンロの前で調理を強いる方がよほど非常識である。
書道に長け、コギャル時代は茶道部で活動していたいもうと。人は見た目がすべて、がいかにあてにならないかを体現しているような人だ。