今年から、「通年ゼミ」というタイトルで
鍼灸医学の原点「経絡」を
『霊枢』経脈篇の原文から
見直す勉強を行っています。
『霊枢』経脈篇は『黄帝内経』中で
経絡の流注と病候を
まとめて論述した内容であった。
(「流注」は経絡の流れ
「病候」は主治と効果)
私が大学の時、授業で一度
学びましたが、卒業して臨床に入り、
指導の先生から言われた経穴の使い方や
有名な「老中医」の講演会で獲得した
数々の特技をメモしたり、真似をして
積極的に患者の治療へと取り込んで来ました。
(「老中医」とは高齢であり、豊富な
臨床経験を持ち、特技がある伝統医学の
医者として国から命名された者である。)
就職してから二年経った時、
南京中医薬大学から梅健寒先生が
後輩を育てる為、私たちの大学付属病院に
派遣されてきました。
梅健寒先生は中国建国して間もなく
全国中医薬大学の統一教材として
鍼灸の教材を編集する一人であった。
当時、私が24歳でしたが、
梅健寒先生は60歳でした。
細身、髪の毛が薄いため常に帽子を被り
薄い唇にちょっと出ている前歯、
細い目に鋭い目線・・・
江蘇方言が強いため、
唯一聞き取れる私が
先生の外来診療や病棟の回診の時
半年間に亘り付き添いさせて頂きました。
ある日、一生懸命にメモをしている私に
先生から強い口調で
「なんでもメモして真似をして、
何時になったら自分のものになる?」
と指摘された。
え?・・・・・
さっぱり理解できない私が
「どうすれば出来る様になりますか?」
と聞き返しました。
先生「基本からやり直しなさい!」
私「基本って?何ですか?」
先生「経絡の流注と病候を読み直す!」
厳しい表情で言われました。
その時、初めて気付きました。
経絡の流注は頭としっぽしか覚えてなく
病候は幾つかの暗記したものだけで
現代医療の臨床との関連は
殆ど理解していませんでした。
その後、私が二度目の「経脈」篇と
昔から現代までの先生達の解釈を
読み直しました。
しかし、臨床経験が浅いため、
実に原文の理解は難しかったのです。
それから三十数年の年月が流れた今、
自分の記憶中での散らばった知識で
何とかやり遂げていますが、
やはり知識の足りなさを感じ、
もう一度原文から読もうと
つくづく思っていました。
数千年の伝統を継承しつつ今に至り、
私たちの使命は伝統医学と
現代医学との共通点を導き
古文を現代語に、専門用語を現代医学に
分かり易く解釈する事だと私は思います。
今回の「通年ゼミ」は私にとって
三度目の「経脈」篇の原文を読み直し、
歴代の先生方の解釈を参考にしながら
今の私の臨床経験で解釈を進めています。
伝統医学の解釈には単なる言語の訳だけではなく、
伝統と現代、両方の医学の知識や臨床経験が
なければなりません。
すべてが知っているとは思いませんが
補いながら常に学びの苦行が続いています。
三十数年前の梅健寒先生の指摘で
古典の重要さを知って今の私が居ます。
これからも伝統を継承しつつ
鍼灸医学の有効性を現代の医療に貢献が
できる様頑張りたいと思っています。