『パイの物語』

2008-08-21 19:24:39 | 文学



『パイの物語』 
ヤン マーテル (著), 唐沢 則幸 (翻訳)
2002年度ブッカー賞受賞作。


非常に奇抜な着想と巧妙な構成の本だった。
第一部は、少年の生い立ちと宗教とのかかわり。
第二部は、カナダに移住する為にツシマ丸に乗り込んだ少年の一家が
     遭難しある恐ろしい生き物と奇妙な同居を続ける記述。
第三部は、インタビュー。

ネタバレになるので内容にはこれ以上触れないが、
この物語は単に冒険漂流記(例えばロビンソン・クルーソーのような)ではなく、
その物語自体が虚実を交えているのではないか?、或いは妄想なのか?と読者をして訝らせ続け、
しかし、余りにもその実際的な具体的かつ専門的な供述に、
ついにずるずると、ナンダナンダ、ソレカラドウシタ、、と
読み続けさせる魅力のある物語となっている。

構成の巧みさは、
マーテルはこの供述自体が、第三者がこの少年から聞き取りした事になっており、
マーテル自身はこの物語の虚実に触れず、
あえて言えば
『世界はそのままではあり得ません。僕たちがその世界をどう理解するかということでしょう?』
と少年に語らせることで、
事実と虚構、現実と観念、を分け隔てる事の無意味を語ろうとしている。

つまり、虚構であれ観念的であれ、、
それが何かの的を得ているのであれば、即ち『真実』であると言って良いではないか、と。

また面白いことに、
彼(マーテルと少年)は菜食主義で博愛主義者でかつ人道主義者で、魚を殺す事にも涙を流すが、
日本人に対してひどく差別的であり、出て来る日本人は相変わらずのステレオタイプの滑稽な人物である。

小説としては興味深いものだったが、作者の論理には同調できず、
日本人についての記述にも抵抗が残った。



★★★☆☆



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