『ボトムズ』

2008-08-31 12:31:32 | 文学






『ボトムズ』
ジョー・R. ランズデール (著), 大槻 寿美枝 (翻訳)
2001年度アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞



レディ・デイことビリー・ホリデイは1939年から『奇妙な果実』という歌を歌い始める。 
その頃はまだアメリカ南部では黒人をリンチにかけて首を縛り、
木に吊るし火をつけて焼き殺すという蛮行がしばしば見られた。
「奇妙な果実」とは、木にぶら下がる黒人の死体のことだ。


『ボトムズ』はまさにこの時代、1930年代のアメリカ南部、
普通の市民の多くがクー・クラックス・クラン(KKK)に加入していたほど
強硬な黒人差別が当たり前であったテキサス東部の川沿いにある湿地帯(ボトムズ)を舞台に、

奇妙に体を折り曲げられ、体中を切り裂かれた状態で発見された
黒人女性の死体を発見した少年とその家族が、
白人至上主義の社会の中で、
叩きのめされたり立ち上がったりしながら犯人究明に向かっていく物語。


本書は上記のような黒人差別問題がテーマであると同時に、
少年の冒険小説でもあり、
ヌママムシやリスやポッサムが登場するテキサス東部の湿地帯の
恐ろしくも美しい自然を描いた、
読者をして、乾燥し切った情緒に霧雨のような淡い水滴をもたらす、
心地良い潤いを感じさせる小説でもある。


今、例えばオバマが史上初の米国大統領に選出されるかも知れない(私はマケイン支持だが)
というアメリカの現状を思えば、
まさに隔世の感があると言える。


しかし、また、オバマが黒人であるが故に大統領になれないかもしれない事実
もまたアメリカの現状なのだろう。


現在のアメリカを考え、
この小説にあった旧きアメリカに想いを馳せるのも
また興味深い事ではないだろうか。




★★★★★








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