『悪い噂』

2008-08-23 12:47:41 | 文学








『悪い噂』 玄月 (著) 



小説の題材として、暴力とセックスと在日韓国人を描けば、
それだけで相当興味を引くものであるが、
著者が「蔭の棲みか」で芥川賞を獲った在日韓国人作家「玄月」で、
タイトルが「悪い噂」とくれば面白くないはずが無い。


舞台は大阪(たぶん生野)朝鮮人集落、
小学生くらいの背丈しかなく脚が蛙のように曲がった、
しかし、異常に発達した上半身を持つ、『骨』と呼ばれる男が居た。
彼には多くの悪い噂があり、
ある人の天井裏から飼い犬の死体から出た血が滴り落ちたり、
墓を暴かれた老人の陰茎が切り取られ口に詰め込まれていたり、
「骨」と揉めた男の車がある朝燃えてしまったり、、、
何ら証拠はないものの、集落の人々は『骨』がやったに違いないと囁きあった、、、


この物語には他に粗暴で手の付けられない双子の梁(ヤン)兄弟や、
強欲で金の亡者高山など、非道で乱暴者が登場するが、
梁兄弟や高山の行動は激烈であったとしても読者の理解の範囲内であって、
『骨』の執拗で陰湿な怒りは読む者の想定をはるかに逸脱した、
であるからこそ、不気味な恐ろしさに包まれている。

『骨』の陰茎は子供の頃の異常な不潔により亀頭部分が切除されており、
欲望としての性に無縁のように見え、
事実彼は、男好きのする『骨』の妹にセックスを求めて群がる集落の男たちに
無関心であるばかりでなく金を取った。

しかし、『骨』は私たちの理解の及ばない暗く絶望的な鬱屈を
性に対して抱いていたのではないか。

彼の内向的な蓋を閉めたまま沸騰し続ける黒い怒りと血は、
出どころを常に求め、
在日朝鮮人集落の人々と読者を戦慄せしめるのであった。




★★★★★








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