陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

二次創作者に振り回されない原作者の対抗要件

2022-09-18 | 二次創作論・オタクの位相

本稿は、とあるプロ漫画家が二次創作物に対するヘイト感情を吐露した一件に基づいた記事(「原作者はファン活動としての無償二次創作を死にさらせと呪っている?!」参照)にもとづいています。ちなみに、私はプロの創作者になったことはありませんので、あくまで一般読者としての考えです。

くだんの匿名商業漫画家のお気持ち表明にあるのは、プロフェッショナルとしての将来に対する不安です。
要するに、自分が苦心して編み出した話を利用して、自作のようにふるまうアマチュア二次創作者が許せない。連載に影響しない、同人ゴロの描くようなエロ創作なら害がないが、カップルの強要や推しの生死について注文をつけたりするのが度し難い。作家性の否定であり侮辱であり、二次創作クラスタを脅威に感じる。そんなところでしょうか。

おそらくこの主張者は、二次創作そのものを大っぴらに禁ずるとまではいかずとも、二次創作者に対しての慎みを求めたいといった程度だったのでしょう。こうした、原作者VS二次創作者の対立構図はいまにはじまったことではありません。そして、否定派が少数の場合は声を上げにくいのが現状です。

まず、これを解決するには、作家本人、二次創作者ふくめた読者双方の意識改革が必要でしょう。そのあとでの現実的な、プロのクリエイターの利益保護の手立てが講じられるべきではないかと感じます。

作家本人に心してほしいことは、「作家は読者を選べない」です。
漫画や小説は、まず「作品」である前に「商品」です。複製され、量産され、巷間賑わせて出回って、初めて売れるものです。製造物責任法なみに使用上の注意をあらかじめ伝えるにせよ、作家側のみの利益ばかり主張するのは難しいのかもしれません。漫画村のように違法DLや海賊版の規制がやっと法整備されましたけども、たとえば熱心な布教目的で原作補完的なストーリーを描いた二次創作物をしめだすと、広報効果を失うことにもなります。

読者に自作をいいようにされたくないのならば、プロの技量で叩きのめすしかありません。
素人はだしの二次創作でもできないような、完璧無比や展開やアイデアで出し抜くか、二次創作しづらいほどに線描が多く、色遣いも複雑なキャラデザにする。二次創作がやりがちな恋愛イベントを公式でやってしまう、メカなど高度で描きにくいものを出していく、などです。二次創作で人気のカップルをわざと破局させたり、推しを死なせたりという強引な技もありますが、裏目に出ることもあります。

読者としての二次創作者としての心構えとしましては。
これはもう言い尽くされていることですが、二次創作は公式に黙認されているだけなので、「公式のヘイトをしない」「原作ジャンルの利益に供する」です。原作を買っていない、ゲームをプレイしていないけれど、二次創作してみましたは論外です。まあ、SNS上でリクエストがあったので何となく描いてみました、習作としてつまみ食いしました、の絵師やら字書きはいるのですが。他人様の権利物を流用して作家面しないことですね。

あと、いつも思っていますが、ジャンル内の人気の二次創作者を「神」扱いするのもおかしい。神とは創造主(creator)のことでして、他人が創出した作品世界のものを借りて、エモいものを見せて共感されたからといいまして、そのひとは「神」ではありません。

ついでに言いますと、「神」とは子である人間に対してしばしば理不尽な試練を与えてしまうものです。
すなわち、プロの作家が自作のキャラクターを殺したり、ひどい目に遭わせたり、カップルとして幸せにしなかったとしても、それはその作家の探求すべきテーマにおいては必要不可欠なイベントです。そのあたりを理解せずに、とにかくAとBがイチャコラしているほうが尊い、困難などないほうがよい、みたいなストーリーの経緯を無視したような発言は、ただキャラを甘やかしたいだけで創作者ではありません。カップル萌えだけの創作はクリエイティブではない。だって自家発電(笑)用なんだから。

二次創作者は鍵付き発表ではなくとも、原作者に対して直リプで見せつけたり送り付けたりすることは控えましょう。また原作者がわも、二次創作者の発言をSNS上で支援したりする必要もないように思います。そんな暇があるならば、創作を豊かにする準備に時間を割いてほしい。

そして、作家が創作の利益をふみにじられたのだと二次創作者を攻撃しないためにも、二次創作を承認制にするか、課金制にしてはどうか。
違法ダウンロード規制法案の話が出た時に拙ブログでも言いましたが、公式版権者サイトからDLしたコード(もしくはハッシュタグのようなもの)をリンクしないとオン活動できない、そのコードがクリックされたら版権者に自動的に収益があがる。二次創作者が得たピクシブのファンボックスなり、同人誌なりの売上のうち、何割かは版権者に収める。こういった仕組みをつくることです。

またツイッターやピクシブでも、画像を無断使用されやすいプロの商業漫画家は優先的に作品が表示されて二次創作物よりも広報できたり、二次創作物についた評価は同時に原作者がわにも反映されるようにするとか。また、原作者が不快に感じた二次創作はSNS上で発表できないようにする、とか。

最近は、有名少年漫画著作者がネタバレ画像を掲載するなと呼びかけただけでネット上で叩かれたり、読者の暴走が激しいケースもあります。
コンテンツ産業に携わる人間にとっては受難の時代で、版権物を無料でみれることに慣れてしまっている世代が増え、モラルが失われてもいます。

ただ著作権者の利益をまもる手立てはいいのですが、読者としてお願いしたいのは、誰もかれも作家としてデビューさせて使い捨てるような業界構造も改めるべきですし、似たり寄ったりのものを後発で濫造するのをやめてほしい。あと、編集や出版社も二次創作勢にやたらとおもねって腐女子媚びなネタを入れたり、人気が出ないからとすぐに打ち切りにしないでほしいです。原作に欠乏感があるから二次創作で補いたいこともあります。

あと、クリエイターも創作行為だけではなく、お金が稼げるチャネルを増やすか、副業をもつかしてほしいですね。懐に余裕があれば、読者に媚びなくてすむでしょう。プロとしての矜持があるならば、同人誌っぽい内容を1000円近い単行本で買わせるのはやめてほしいですね。

あと、これはいち二次創作者としての本音ですが。
その原作ジャンルの二次創作をすることが生き甲斐であり、かつ、その作品を(衰退ジャンルと呼ばれようとも)長年追いかけ愛する原動力になっていることもあります。でも、その二次創作をする自分が誇りという自尊心肥大は徒になるという自覚はありますけどね。

(2020/11/24)





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